公女! 2
馬車溜まりまでの辛抱だと、捕まえられた腕をそのままに渋々とソーネリカ様の後をついていったのだが、広い庭を通り抜け連れて行かれたのは邸内の一室だった。
はぁああ!?ちょっとなんでこんなことになってるの?
さすがにスレイドお兄様を置いて一人で帰るわけにもいかないと思ってはいたけれど、わざわざ邸内にお邪魔してまで待っていたくないよ。
それくらいなら馬車の中で待っていたい。そんな私の考えなど全く考慮する気もなく、ソーネリカ様は自分だけさっさとソファーに腰を下ろした。
「さ、座って」
「え、嫌です」
「は?」
しまった!素で返しちゃったーっ!
いくらいけ好かないと思っていても、公爵家の跡取り息女に向かって正直すぎた。怒らせたいと思ったわけではないので、ここはなんとかごまかそう。
「兄上は馬車で待ちますので、結構です。その、それほど具合が悪いわけでもありませんし」
「うん。それは見ればわかる。単に私が君とゆっくり話がしたいだけだよ、エリーシャル」
「がっ、……あ、いやー、その…………光栄です、はい」
押しが強いな、くそ。どうも私は前世から、飄々としてるくせに押しだけは強いといったタイプに弱い。
「うっせぇー!」といくら怒鳴っても、全く気にせずに話しかけてきて、いつの間にか付き合わされることとなる。
またあの喋り方といい、あほみたいな気障臭さといい、本当にそっくりだ。
あんの、……ソウー……え……ソー、ネリカ……え、え、まさか、ね?
そんな偶然あるわけない。いくら言動が似ているからと言って、そんな都合よく知り合いが同じ世界に生まれ変わるだなんて、ねえ?
それに、ヤツは生粋の女好きだった。女の子のファンにきゃあきゃあ騒がれるのが大好きだったのだ。
顔をヒクつかせながらすすめられたソファーに腰を下ろすと、その問題のソーネリカ様はにっこりと笑顔をこちらに向け言い放った。
「で?枯山水は良かったけれど、あんな渋いのは、君の趣味じゃないだろう?兵頭くん」
「八草奏ぅーーーーーっ!!やっぱり、お前か!こんちくしょう!」
「やだな。せっかくこの世界でも友達になれたんだから、もう少し楽しもうじゃないかって、……」
思わずいつものように飛びかかりスリーパーホールドをきめる。腕をバンバン叩いてギブアップと言って来るが、知るか!グッと力を込めて締め上げていると、アッシュの怯えるような声がして我に返った。
「お、お嬢様……?」
あ、ヤバ……アッシュもいたっけ。本当にヤバい。どうしようこれ……ごまかしがきかないっ!
***
とりあえず説明のしにくいアッシュには、先に馬車の方へいっているようにとお願いをした。私から離れることを躊躇していたようだけれども、そこは後で説明するからとなんとか納得してもらった。
そうして、このソーネリカ・ロゼンダ改め、八草奏へと向かい合う。
「さあ、説明してもらおう。八草……なんであんたがこっちの世界にいるかっていうことを」
「なんでって言われてもね、正直私にもわからないよ」
「わからないって……まあ、確かに私にもどうしてこんなことになったのかはわからないし……そもそも私の方が八草よりも早く死んじゃってるよね。なんであんたの方が年上なんだよ」
「いや同じ歳だね、確か」
「はっ、嘘!?」
身長が十センチも違って?それはそれでムカつく。
……が、ということは、八草も私が死んでしまって早々に亡くなってしまったということなのだろう。もしかして、私が死んでしまったあの試合が原因だったのだろうか?だとしたら申し訳ない。
「それはご愁傷様……」
「いやー、ファンの女の子に刺されちゃったんだよね。華奢な子だからって油断してはダメだって、つくづく思い知らされたな」
「勝手に死んでろ」
「だから死んじゃたんだって」
ケラケラと笑う八草の心情もわからなくもない。前世の世界での自分が死んでしまったことはわかるが、事実今ここで生きているという実感もある。
そうでなくても目の前の八草奏という女は元々掴みどころがない人間だった。
「まあこっちの世界は世界で楽しいよ。可愛い男の子たちにきゃあきゃあ言われるのがたまらないね」
「あんた女好きじゃなかったっけ?」
「私はね、兵頭。私のことを好きなカワイ子ちゃんなら誰だってOKさ」
あまりの節操のなさにげっそりする。
なんというか、うん。幸せならいいか。私も、若干の問題はあるにしろ概ね理想の生活であるし、さらなる「乙女の夢」を叶えるべく奮闘している最中だ。これ以上八草に振り回されたくもない。
「……じゃ、私もう行くわ」
「そうか。今日は君が兵頭くんだと知れただけでもよかったよ、エリーシャル」
私の正体を知ることが出来たと、八草奏でもあるソーネリカ様は、それ以上私を引き留めることはなかった。
ただ、最後に一言だけと付け加え謝罪の言葉を口にした。
「悪かったね、兵頭くん。それだけは直接謝りたかった」
「いや、あれは事故だから。もう気にすんな」
体を張った仕事をしていれば避けられない事故もある。たまたまそれが私だっただけだ。
だから謝らなくていい。大人しく謝る姿を見て、今まで毛嫌いしてきたことを少しだけ反省した。手を軽く上げて、じゃあなと告げると、それだけじゃないんだと震える声で叫んだ。
「……え?」
「本当に、悪かった。葬儀の君の写真はもふもふぱふぇーちゃんのTシャツを着たオフショットにしたけれど、たい焼♡きんぎょの方が可愛かったかもしれないと、今でも思うんだ」
「は?」
「献花の代わりに、君のお気に入りのラズベリーキュートの人形を祭壇いっぱいに飾らせてもらったが、あにまるファミリーも飾ればよかったかい?」
「ちょ……なに、を?え?」
「ピンク一色の祭壇を特注して、テレビ中継も入った。大勢で君を見送ったんだ。だから、許してくれ、兵頭くん」
「許せるか、ぼけぇええ!!」
久しぶりにキレた。なんっていう死んでも恥のまき散らしだ。恥ずかしくて二度と前世を思い出したくもない。
やっぱり八草のボケカスとは一生そりがあわないと心の底から思った。




