避暑! 3
椅子に座っているはずなのに、なぜかぐいぐいと詰め寄られているような気持にさせられて、「はあ」「まあ」と、頷くだけの人形よろしく相槌をうっていると、ようやくガイロス殿下が東屋にやってきた。
「待たせたね」
鷹揚な態度で口を開くと、一斉に招待客の皆が席を立つ。そうして全身が見えるようになると、ただでさえ整った顔の男の子たちがよりいっそう煌びやかに見えた。
その集団の中で、スレイドお兄様や他の招待客もなかなかに派手に着飾っているが、殿下はさらにド派手だった。
ジャケットは金糸で全面刺繍が入っていて、ズボンの腰回りにはジャラジャラと音が鳴りそうなほどの飾りが付いている。あれこれアイドルかなにかのステージ?そう思わずにはいられない。
しかしそうして席に着いた彼らは、さっきよりも随分と大人しくなった。これは、ガイロス殿下効果か……!
そりゃあ、自分たちよりもはるかに位の高い王様の子どもだもんね。勝手にああだこうだとは話しできないよね。
これで少しは落ち着けると、ホッとしたのも束の間、なぜか今度はガイロス殿下からのナイフで突き刺すような視線がめちゃくちゃ痛―い!
はしばみ色の柔らかい瞳を、思いっきり細めてこっちを見ている。怖いなんてものじゃない。
さっきまで私の方を捕食者の目で見ていた三人の男子たちが、今度は逆に可哀想なものを見る目になってきていた。
このまま走って逃げたいが、お父様からも『男の花園』をかき乱すなと言い聞かされてきただけに身動きが取れない。
仕方なしにテーブルの下からスレイドお兄様へとヘルプ要請をした。
しかし、全くこちらを見ようとしないお兄様。かといって、ガイロス殿下の方を気にしているようでもない。
それどころか、庭のはるか向こう側、大きく広がった芝生の方をとても気にしているようだった。
そしてそれは、他の男子たちも同様で、スレイドお兄様よりはあからさまでないけれど、ちらちらとそちらの方向を気にし出す。
うん?何があるのだろうか……そういえば、椅子があと一つ空いたまま残っている。
そちらに一瞬気をとられたところで、唐突にガイロス殿下から声がかけられた。
「ひ、久しぶりだな。エリーシャル嬢」
「あ、はい。ガイロス殿下もお変わりないようでなによりでございます」
「は?」
私がそう答えると、思いっきり不機嫌そうな返事が返って来た。
「変わっただろう、僕は?お前、どこを見て言っているの?」
「え、あの?……え、わかりません……」
「よく見てみろ。ほら」
ふわふわの髪にキラッキラの服のガイロス殿下は、私が初めて王宮へ行った時となんら変わった様子はない。
半年近く経っているにもかかわらず、身長もちっとも伸びていないようだ。
強いて言うなら、服装のゴテゴテ感が増して、可愛い顔にはあまり似合っていないかなあというくらい。
しかしそれも個人の感想。さすがにそれをバカ正直に言うほど私も考えなしではないから、オブラートに包んで伝えてみた。
「そうですねえ。刺繍のチューリップがちょっと増えましたね」
以前は袖口に少しだけ入っていたものが、ジャケット全面にチューリップで刺繍が施されている。
キンキラキンのチューリップがデデーンと存在感ありありだ。
本当にチューリップが好きなんですね、という気持ちで前回と違うところを指摘したはずなのに、なぜか周りからぶほっ、と吹き出す音が響く。
そしてガイロス殿下は顔を真っ赤にしてプルプルと震え出した。
あ、これやっちゃったやつ……
王宮の温室では、ガイロス殿下の方が悲鳴を上げながら逃げて行ってしまったので、なあなあで済んでしまったが、今回はそうはいかない。
なぜならば殿下はプルプルと震えながらもしっかりと椅子に腰を下ろしたまま、私の方をギリっと睨みつけているから。しかもちょっと涙目で。
どうしようかな……このままだと王宮での出来事の二の舞いだ。そしてスレイドお兄様は相変わらずこっちを見ない。
むむむ……そろそろこの状況からの逃避にも限界を感じる。
いい加減ガイロス殿下の方も、顔色が赤から青に変わりかけているので、おそるおそる声を掛けようとしたその時――
「来た!」
抑えているつもりでも、はっきりと耳に届いたスレイドお兄様の声は、とてもとても弾んでいた。




