避暑! 2
しかし、そうは言っても王様一家の避暑の場というプライベートな空間に、私のような一少女が呼ばれるわけがない。
そうでなくてもガイロス殿下には好かれていない自信がある。嫌っている人間を、楽しいバカンスの場にまで引っ張り出すことはしないだろう。
そんなふうに高をくくっていたのだけれども、お母様が口を尖らしながら警備のために隣の王家直轄地に行った次の日、早速お茶会に招待されてしまった。
ガイロス殿下から招待されたのは、私とスレイドお兄様の二人だけ。年の離れたキリアスお兄様は呼ばれていない。
「おう……」
「本当に大丈夫かい、エリシャ?」
「大丈夫ですよ、お父様。僕がしっかりと面倒見ますから」
心配するお父様にむかい、率先して答えるスレイドお兄様。
いえいえ、大丈夫じゃないです。出来れば行きたくない。そう口を開こうとすれば、スレイドお兄様が『約束』と、口だけ動かす。
「いくら歳近い子どものお茶会とはいえ、エリシャは女子だし、歳も少し小さいし。くれぐれも男の花園に土足で入っていく真似だけはしないようにね」
男の花園って……ちょ、ラグビーかっ!?ラグビーでしか知らないわ、男だらけの花園。
ヒクヒクと頬がひきつる。
やだなあ、もう。確かにお茶会には憧れていたけれど、男だらけの中に一人だけポツンとボッチになりたい訳じゃない。
キャッキャウフフと可愛いものの話しで楽しませてくれるのならいいけれど、スレイドお兄様がそこに居るという時点でその可能性はないだろう。
せめて、アッシュが従僕として側にいてくれたら時間も潰せるかも?そう考えて尋ねる。
「ねえ、お父様。アッシュは連れて行ってもいいでしょう?わからないことも教えてもらえるし」
そう私が聞いた途端、ピタッとみんなの動きが止まった。
ほんの一瞬だったからわかりにくかったけれども、確かに空気が変わったのだ。
「従僕は僕のコリーだけでいいよ」
「え?だって、スレイドお兄様の従僕は、お兄様の側を離れられないでしょう?それでは私が困るわ」
トイレに行きたくなった時とか、どうしてくれるのだ。いくら王様の避暑地とはいえ、私みたいな小娘に人一人付けてくれるほど余裕があるのだろうか。
そういった意味のことを再度私が文句をつけると、お父様が「そうだねえ」と呟きながら、ちらりとアッシュの方をうかがった。
「どう?アッシュ」
「よろしければエリーシャルお嬢様に付かせていただきたいと思います」
「……人が多ければ、迷惑になるよ」
「エリシャが迷惑をかけるよりはいいだろう?付いていきなさい、アッシュがいいのならば」
お父様の一言で、アッシュが私の従僕としてお茶会に付いてきてくれることとなった。
スレイドお兄様は不満顔だったけれども、編み物勝負で負けた罰を受けて言うことをきいているのだから、それくらいはこちらの要望も受け入れて欲しい。
だいたい、こちらとお茶会に参加すること自体初めてのお子さまなのだ。専属従僕であるアッシュを連れて行って何が悪い。
鼻息荒く言い返してやろうとも思ったけれども、あることが気になったから、その場ではそうしなかった。
どうしてお父様は、アッシュに尋ねたのだろうか?
『アッシュがいいのなら』と、そこまで付け足してOKを出した。
なんとなくもやもやする。
しかし、その直後、スレイドお兄様からの私をおちょくるような言葉を耳にしたせいで、そのことを全部頭の中からすっとばしたまま、ガイロス殿下のお茶会へと参加することとなった。
***
王家の避暑地は、思ったよりもこじんまりしていた。とはいっても、コベリット侯爵家の領地の邸と同じくらいの大きさはあり、中はとんでもなく豪華だった。
王宮くらいスケールが大きいと、何が高価なのかわからないが、貴族の標準くらいまで敷居が下がるといちいちその作りの高級さが目に付く。
ここでは絶対にスカートの端を引っかけないように大人しく歩こう。そう心に決めた。
しかし、邸内を素通りし、真っ先に通されたのは正門からは反対側になる広い庭だ。
「本日はお天気もよろしいので、お庭でのお茶会になります。ガイロス殿下がおいでになられるまで、どうぞお待ちください」
そういって、案内されたのは、白く美しい東屋だった。
すでに、三人ほどの男の子たちがテーブルに着いていた。見知った顔もあるようなスレイドお兄様は、軽く挨拶をして椅子に座る。
おいおい、私はこの場合どうすればいいの?
男四人の中にたった一人、いや、皆後ろに従僕を付けているからアッシュを除いても男八人だ。そんな中場違いみたいに混ざるこの私の立ち位置はなに?
とりあえずスレイドお兄様に倣い軽い会釈をして、隣に座る。場所が違うならば教えてもらえるだろう。誰にも何も言われなかったので、ホッとして前を向いた。
すると、招待された男の子三人から、それはもう痛いくらいの視線を受けた。
ちょー……怖い、怖い。歳は似たようなものだと思うのに、あれはまるで狩人の目だ。
ギラギラと光らせながら食い入るように見つめられている。下手に動けないと、両手に力を入れてじっとしていたけれども、あっさりとその均衡を打ち破られた。
「スレイド様の妹君なのですね。お噂はかねがねうかがっています」
「あのコベリット風庭園、僕の邸でもお願いしているのですよ」
「いや、本当に僕たちよりもお小さいのに、しっかりなさっていられますね。さすがはコベリット侯爵家のご息女です」
答える間も無く、次々と繰り出される会話にすぐについていけなくなる。スレイドお兄様はといえば、知らんぷりでそっぽを向いている。
本当にこの人たち、十歳前後の男の子たちなの?私の知っている前世のダンスィたちとは全然っ、違う!
お、おう。もう帰りたい。
お茶会っていうものは、もっとふわふわ、ほやほやーんとしているものだとばかり思っていたのに、なんか違う。
男の花園っていうのは、どの世界でも戦いの場なのだろうか?
ふと、そんなふうに現実逃避に走ってしまった。




