ダンス! 4
今度こそ履くべきかどうかを考えながら、目の前のそれを広げてみる。
申し訳なさそうな程度の面積の布に、紐。うん、まぎれもなく紐パンだ。
コントじゃないんだから、まさか折りたたんで頭に付けるわけものでもあるまい。
「しっかし、どうしよう、これ?」
二度目の今日もダンス用のドレスと共に用意されていると言うことは、きっとこれがこの世界のスタンダードで間違いはないはずだ。
だとしたらやはり履いてレッスンを受けるのが正しいのだろうか……悩む。
そんなことを、紐をぴしん、ぴしんと引っ張りながら考えていた為、扉から聞こえたノックの音に無意識で返事をしたらしい。
ガチャリと扉の開く音と、アッシュの「お嬢様」という声で我に返った。
「っだ、アー……ッシュ!」
紐パンの紐を両手に、ピーンと引っ張りながらアッシュと思いっきり目が合ってしまった。
これじゃあ私が紐パンで遊んでるみたいじゃない。あー、あー、穴があったら入りたい。
思わずそのまま頭を抱えると、当然ながら紐パンを頭の上に乗せることとなる。更なる墓穴掘りに、もう自力では這い上がれないところまで落ち込んだ。
なんていう変態っ!……このまま消えてしまおうか?
そんな現実逃避しかけた時、素早く近づいたアッシュがその紐パンを私の手からもぎ取った。そうしてギュッと力いっぱい握り締める。
「…………申し訳ございません。新しく配属されました衣装係が気を使い過ぎたようです。エリーシャルお嬢様にはまだ必要のないものを用意していたようで、心から謝罪させていただきます」
「お……う、はい。いや、その……」
無表情ながらも薄青い炎のような気を出しながら、紐パン憎しと握り締めているアッシュの姿にちょっとビビる。
「片づけて参りますので、今度こそお着替えをなさっていてください」
その台詞に、どうぞ、どうぞと紐パンを差し出した。
扱いに困っていたブツなので、片づけてもらえることに異存はない。けれども気を使って用意されたという言葉からも、ダンスの時のドレスコードには間違いないのだろう。
「成人したらあれを履かなきゃならないのかー……」
しみじみと噛みしめるように独り言が漏れた。
まあその時は、もう少し私の精神も肉体もそれに見合ったように成長するだろう。それはその時に考えればいいやと考えることを全部明後日に向けて蹴り飛ばした。
午前の勉強をがーっとやっつけてダンスルームに飛び込むと、昨日のスレイドお兄様と同じように丈の長いジャケットと脚にぴったりとフィットしたズボン姿のアッシュが私を待っていてくれた。
スレイドお兄様ほどキラキラしい飾りはないけれど、アッシュの銀髪が良く映える濃いネイビーのそれは本当によく似あっている。
うーん、眼福、眼福。これぞ乙女の夢、王子様のような仕上がりだ。
これならば、スレイドお兄様のように無茶ぶりはしないだろう。そんな勝手な考えでレッスンに入ってしまったの、だが……
「タン、タン、ターン。続けてください、はい」
「はい!たん、たん、たーんっ!」
「背筋はきちんと伸ばしましょう」
「背筋、はいー」
「ステップが遅れています。常にリズムを意識してください」
「リズム、はひぃー……」
アッシュの教え方は、ものすごーく優雅で、丁寧だ。スレイドお兄様のように無茶ぶりはしないし、ちゃんと一緒に踊りながら教えてくれる。
けれども、こう……白鳥が泳ぐ足下を見せないようなもので、なんというか地味にきつい。かなり、足腰と膝にくる。
「お嬢様、足下ではなく前を向いてください」
「うん。よいっしょ、った!」
言われたとおりに顔をグッと上げて前をみる。
しかし勢いをつけすぎたせいで足がふらつき、身長差があるアッシュの胸に思いっきり顔をぶち当ててしまった。
「大丈夫でしょうか?」
「あで……大丈夫、大丈夫。それよりアッシュの方にケガは無い?」
表情は変わらずとも、すぐに心配してくれるアッシュ。
私は頑丈だからこれくらいはなんてことない。どっちかといえば、この世界ではか弱い男であるアッシュの方が痛かったんじゃないかと思い、私がぶつかった胸元をそっと触ってみた。
そうしたら――
「え?固っ!」
胸のちょっと下がガチガチに固かった。思わず、両手でペタペタと触りまくる。
えー!なんだこれ。アッシュって、まさか隠れ細マッチョ!?
「エリーシャルお嬢様、あの、おやめください」
「ごめんね、アッシュ。だって、すごく固いから、どうやって鍛えているのかなあ、なんて……」
思っていたら、長いジャケットの合わせの部分のボタンが外れ、そこからちらりと見えたアッシュの胸の下はコルセットのようなものでがっつりと固められていた。
このせいでカチカチに感じたのだなと納得はしたが、どうしてコルセットなんてつけているのだろうか?
コルセット……コルセットといえば、体を固定するものだよね、だからやっぱり。
「あ!……腰痛!?」
「あ、の……?」
「アッシュ、腰が痛いの?だったら、こんなことしていないで、早く休んで!」
「……あ、いえ。お嬢様、ちが……」
きっと従僕としての仕事が大変なんだ。
私もアッシュにたくさん迷惑をかけている自覚があるだけに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。とにかく早く休んで欲しいと思いアッシュの手を取って、休憩用の椅子に座らせる。
そうして急ぎ人を呼んだ。




