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ダンス! 3

 ゆらゆらふらふらと、まるでお風呂の中に入ったままで息ができるみたいだと、そんな温かい気持ちでいっぱいになっている。そこにシャボンの球がふわりふらりと光を反射しながら浮かび上がって来た。


 色とりどりに光るシャボンの中には、可愛い縫いぐるみに美味しそうなお菓子、レースで飾られたドレスや大輪の薔薇の花が見てとれた。

 勿論私が愛してやまないものばかりだ。


 んー……なんかデジャブ。これ、前にもあったな、うん。


 前回とは違い、ここが夢の中だということに薄々気がついている私は、それらを掴み取る前に、周りをよく見まわした。

 そうして、誰もそこに居ないことを確認してからようやく手を伸ばす。


 しかし、これは夢だ。すっかりと忘れていたが、夢というものはたいていの場合荒唐無稽なものだ。


 シャボン玉を壊さないように優しく包み込むようにして、よし捕まえたと思った途端、それはぐにゃりと歪んだ。

 キラキラ光る虹色のシャボン玉はシルバーへと色を変え、毎度おなじみの従僕アッシュの形を作る。


「ですよねー」


 だと思った、うん。だってこの夢、二度目だもん。


 そしてまたおなじみの「それは男のするものです」という台詞を待った。現実では何かをするたびに、毎回毎回言われ続けているのでいい加減慣れたものだ。

 夢の中ですらアッシュのタイミングがわかってしまう。


 しかし、それはいつまでたっても私に降りかかって来ない。

 それどころかその疑似アッシュは私の手を取り、静かに腰を落とすと、満面の笑顔を私に向けてこう言った。


「お嬢様、ダンスのお相手をお願いできますか?」


「……は、いぃぃいいいいっ!?」


 アッシュが……アッシュがおかしくなったあ!!


 言うはずのない台詞ですらアレなのに、ましてやこんな笑顔なんてありえない。


 待った、待った、待ったぁあ!!


 手に力が入りそうになる前に払いのける。そして思いっきり身をよじり、四つん這いでその場から逃げ出そうと動いた瞬間に、ドスンという大きな音で目が覚めた。

 今回はカエルが車にべしゃんと轢かれたような格好でベッドの下に落ちている。


「うん、夢だよ……夢なんだよね。わかってた……けどさあ」


 ぼ、お、おおお、と大きく息を吐いて、吸って、なんとか気持ちを落ち着かせた。


 なぜだろう。世界で一番嬉しい乙女チックな言葉をかけられたはずなのに、こんなに怖ろしいと感じたことは、この世界に生まれ変わってから初めてのことだった。




「どふぅっ、へっ?」


「……エリーシャルお嬢様、貴族令嬢としてそのお返事はいかがと思います」


「いやっ、いや……ええと、ゴメンね、アッシュ。そのぉ……よく聞こえなかったのだけれど、も……もう一回いって、もらえる?」


 スレイドお兄様のとんでもダンスレッスン後、そのまま朝まで寝いってしまって、気がついたら朝でした。

 いやそんなことは別にいい。ぶっ続けデスマーチの後で倒れたまま爆睡してまた特訓などはコブラ・兵頭時代にはそれこそ数えきれないほど経験済みだ。


 だから今回、驚きのあまりに変な声が出たのはそんなことが理由ではない。


「はい。キリアスお坊ちゃまよりスレイドお坊ちゃまがダンスルームへの入室を制限され、エリーシャルお嬢様への指導を解任されました。それによりお嬢様のダンスレッスンについてですが、今日からは僕が務めさせていただくことになりましたので、どうぞよろしくお願いいたします」


「う……っ、正夢!」


「あの……?」


「ああ、違うの。ちょっと感極まっちゃった……」


 まさか、まさか本当にアッシュからダンスのお誘いがあるとは思いもしなかった。

 正確にいえば、お誘いではなくレッスン指導の連絡なのだが、細かいことは気にしない。


 大事なのは、「男のするもの」であるはずの乙女チックなものを、アッシュが進んで私と嗜んでくれると言うこと他ならないのだ。


 夢の中ではあれほど怖ろしいものはないと思ったのに、今ここで言われた台詞ならば信じられる。いつも通りの不愛想なアッシュの顔が、これこそが現実だと教えてくれるからだ。


 感激のあまり心の中で流れ出した鼻血を拭く。

 そうして目を細めて悦に入っていると、アッシュが疑わしそうな目でこちらを見ていた。


「お嬢様の体調がすぐれないようでしたら、今日はお休みにしてまた後日にいたしましょうか?」


 おっといけない。体調不良だと思われた。


「全然、大丈夫っ!今すぐにでもやれるから!」


 その証拠にと、両腕を上げて力こぶを作って見せる。ほとんどないようなものだけど気は心だ。

 少なくともアッシュに私のやる気だけは伝わったようで、ほとんど動かない表情の中に苦笑いが浮かんでいるように思えた。


「ではレッスンは午後から始めさせていただきます。ご衣裳はクローゼットの中にございますので、着替えてお待ちください」


 アッシュはそれだけ告げると、いつものようになんの無駄もなく朝の支度を終え、私が着替えるための時間だけ部屋を離れる。


 ダンスのレッスンが中止にならなかっただけでなく、なんとアッシュが相手をしてくれるということに、気持ちが浮きたつ。

 その上うきうき気分でクローゼットを開ければ、新しいダンス用のドレスまで用意されていた。


「そういえば、昨日のドレスは汗まみれ、埃まみれになってたもんね」


 午前の普段着に着替える前に、新しいレッスン用のドレスを手に取った。


 淡い水色のドレスはシンプルながらもふわふわのスカートが可愛らしい。にやにやっと喜んだのも束の間、そこには前回と同じように置かれてあるものを見つけてしまった。


「おうっ、紐パン……」


 いい加減、確認した方がいいのだろうか?めっちゃ気になって来たよ、紐パン。


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