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王宮! 2

 いやん、王子様とお見合いデート!?


 なんて妄想しただけでもバカでした。

 もうね、一歩庭に出ただけで、帰りたいと思わせる才能の持ち主でしたよ、ガイロス殿下。


 一歳年上だというガイロス殿下は、私とあまり身長差もなく並んで歩くとブーツの分、私の方が少し高いくらいだった。

 これくらいの年齢の子どもって、どちらかというと女の子の方が大きめなんだよね。


 コブラ・兵頭だった頃の私は、そのままぶっ飛びで大きくなって最終的には180センチまで伸びてしまったから、大抵の男の子よりも大きかったけれど。

 今の私だったら、骨格から考えてみても多分そこまで大きくはならないだろう。それでもこの世界の常識として、女性の方が体力も腕力もある。不思議だなあ。


 だなんてことを考えながら、とりあえず庭に行くのかと思ってガイロス殿下の後をついていった。

 そうして外への階段を下りたところで、プイっと後ろを向いて止まってしまったのだ。


「ええと、温室にいかれるのでしょう?」


「……行きたくない」


「案内をしてくれ、じゃない、くださるという、お話ですよね?」


「……そんな約束してない」


 何を聞いても「やだやだ」を続けるガイロス殿下に正直うんざりしだした。


 もうこのまま放っておいて温室にいっちゃおうかな、どうしようかな。早くしないとお母様が迎えに来てしまうかもしれない。そうしたらせっかくの王宮の温室がみられなくなってしまう。

 ガイロス殿下の従僕が案内してくれないかな?

 期待を込めて視線を送ると、殿下に付き従っている三人の従僕がこちらへ目配せする。


 あれ、これもっと殿下へ声を掛けろっていうことかな……初めてきた王宮だし、私の方が年下だし、まだ七歳なのだから、こっちこそ気を使ってエスコートして欲しいんだけど。

 まあ王子様相手だから仕方がない。私の方が折れてあげよう。


「……ガイロス殿下、一緒に温室へ行っていただけますか?」


 そうお願いして、手のひらを差し出した。

 すると、従僕のお兄さんたちから、さあさあとすすめられ、ようやくガイロス殿下が私の手を取った。


 それを見て、あからさまにホッとした顔の従僕の皆さん。なるほど、これが正解でしたか。


 この世界では男女逆転しているから、当然なのかもしれないけれど私は出来ればエスコートされたい側なんですよ。


 しかしそんなことを言えるわけもなく、ガイロス殿下と従僕の皆さんに案内されるまま庭へおり、ゆっくりと温室へ向かう。

 途中警備の騎士たちをちらほらと見かけたけれど、やっぱりスカート姿の女性だったのがなんだか残念に思った。


「ああ、いい匂い」


 温室の扉が開くと、中からぶわっと花の香りが飛び出してくる。さすがは王宮の温室、豪華で高そうな花がとても美しい状態で栽培されている。


 中でも一番艶やかな薔薇の花に近づくと、それはそれは甘い香りに襲われた。


「わっ、くさっ!」


 香りの強すぎる花はそれだけでも暴力的だ。鼻が曲がるとは言わないけど、あまりにもきつすぎると頭が痛くなる。

 鼻を押さえていると、従僕の一人が笑いながらハンカチを差し出してくれた。


 なんだかガイロス殿下が睨んでいるみたいだけど、ゴメンね。行儀が悪くって。


「エリーシャルお嬢様には香りが強すぎたかもしれません。あちらの花はいかがでしょうか?」


 そう言って勧めてくれた先には、色とりどりのチューリップが咲いていた。確かにチューリップなら香りもほとんどしないし、カラフルだから見ているだけで楽しくなる。


「可愛い!すごい、いっぱい咲いていますね」


「はい、一年中絶やさないようにしていますので」


 王宮の温室だけあるな。この世界で春の花を一年中咲かしておくのも凄い。あれ、そういえばチューリップ……


 ふと思いつき、ガイロス殿下のところへ駆け寄る。

 そうしてもう一度殿下の手を取った。ああ、やっぱり。


「殿下のお袖の刺繍、チューリップだったんですね。とっても可愛いです」


 袖の折り返し部分にチューリップをモチーフとした刺繍が施されていた。


 最初に手を取った時に見て、可愛いなあと思ったんだよね。

 これは私と趣味が合いそうだ。同志よ、という気持ちを込めてにっこりと笑顔を向けたら、どういうことか眉間にぎゅっと皺を寄せられた。


 え、なんかもの凄く迷惑そうな顔……もしかして違った?


 尋ねるように顔を傾けたら、今度は目を瞑られた上に突然奇声を上げて、だだだっと走って逃げられた。あっという間すぎて声をかける隙も無かった。


 あー、これは相当嫌われたかもしれない。やっぱりこの世界で、花を可愛いとか言う女の子は気持ち悪いのだろうか?

 花好き同志、仲良くなれそうな気がしたけれど、残念。


 謝る従僕のお兄さんに見送られて帰宅用の馬車へと連れて行ってもらう。先に待っていたお母様がずっとニヤニヤ笑いを隠さずに声をかけてきた。


「殿下はどうされたのかしら?」


「嫌われたかもしれません。花を見て、可愛いと言ったら怒って逃げられちゃいました」


「まあ、そんなところばかり私に似るわねえ」


 ほほほほ。と、それは楽しそうに笑うお母様。ふん。


「お母様もしょっちゅうお父様を怒らせますもんね。親子だから仕方がありません」


 そう言い返したら、今度はお腹がよじれるほど笑い倒した。


 しかし、そんなにガイロス殿下に嫌われたのが面白いのだろうか?むかむか。


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