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王宮! 1

 太陽の光に輝く白磁の王宮。そしてその大広間には幾重もの光を反射させて煌めくシャンデリア。

 私は震える足を押さえながら大理石の床の上を一歩一歩踏みしめていく。転ばないように気を使うだけで神経が焼ききれそうだが、出来る限り優雅に歩こうと頑張っている。


 今日のいでたちは、いつものひざ丈スカートではなく、くるぶしまで隠れるほど長く、たっぷりと膨らんだスカートの中には重ねたペチコート。

 派手な装飾はついていないけれども、綺麗な花の刺繍でいっぱいの、まさに私の「乙女の夢」がぎっしりと詰まった憧れのドレス姿。

 家の鏡でこの姿を見た時、正直あまりの可愛らしさにぶっ倒れるかと思った……それくらい、理想のお嬢様だった。


 しかし、そうそううっとりとして自分の世界に浸ってばかりはいられない。なんといっても、今日この慣れない格好をしているその目的は、ずばり「国王陛下への拝謁」だ。


 まさかまさか、私が寝ながら歌ったあの曲が、お兄様たちのピアノの先生でもあり高名な音楽家でもあるボジロ男爵によって騎士団の行進曲になるなんて想像できないでしょう?

 しかも、それを理由に陛下からお言葉をもらうとか、本当に信じられない。


 お母様の一歩後ろで、なんとか教えられた場所までたどり着くと、両手で軽くスカートを持ち上げてゆっくりと膝を折った。

 そうして頭を下げて、国王陛下のお声がかかるのを待つだけ。


 私は成人前なので、返事以外は声を出してはいけないそうだ。名前を名乗るのもダメ。呼ばれたのに?とも思うけれども、成人前であるのにもかかわらず、この場へ出られること自体が破格の待遇らしい。


 しかしなんかこれ結構膝と腰にくるね。現役だった頃も膝がネックだったから、今から少し鍛えようかなあ。

 そんなことを考えていると、上の方から凛とした声が下りてきた。


「コベリット卿、その子が巷で噂の神童か」


 え、神童ってなに?ちょっと照れるんですけど。


「はい、陛下。私の娘、エリーシャルでございます」


「そう。エリーシャル・コベリット、許します。顔を上げなさい」


「はい」


 言われたとおりに顔を上げると、五段ほど高い場所に置かれた金ぴかの玉座に座る、ゴージャスな美人がいた。

 沢山の勲章が付いたシルバーのドレスに、赤いマントが映える。おお、これが国王陛下……なんかこう、ものすごく高貴な百合、カサブランカって感じだ。すごい押し出しが強い。


「エリーシャル」


 ついついぽかんと見とれていると、お母様が私の名前を呼んだ。

 あ、顔は上げてもあんまりじっと見たらいけないんだよね。慌てて目元を下げたけど遅かった。


 そんな慣れない仕草に、陛下が声をあげて笑い出す。


「ほほほ、思ったよりも随分と幼いようね。とてもあの曲を生み出したとは思えないわ」


 私が作ったわけではないので当然です。


 ちょっとばかり陛下の言葉が嫌味くさいんだけども、ピアノのおばあちゃん先生、陛下になんって言って報告したの?


「コベリット風の庭様式も、この子がと聞き及んでいるが、真ですか?コベリット卿」


 ああ、枯山水。


 あれもいつの間にか庭師のおばちゃん親方が広めてくれちゃったよね。

 お父様への受けはそこまでではなかったけれど、お母様はとても気に入って、叔母様に自慢するから色んな貴族から指南をお願いされたらしい。


「ええ、まあ。なにぶん私ども夫婦に似て、大変出来がよろしいものですから」


「侯爵家の跡継ぎの名前を高めるための策略とも聞くが」


「まさか!出る杭は打たれやすいものですよ。それが年若くして出た杭ならば猶の事です」


 おっと、お母様も陛下に負けじと嫌味満載だ。いくら武の名門で侯爵家とはいえ、陛下に向かっていいのか?こんなに砕けて。


 ちらりと目を上げて二人の様子を見てみると、そこまでは険悪な雰囲気ではなさそうだ。

 ということはじゃれ合っているようなものか。歳も似かよっていそうだし、若くして王位と侯爵家を継いだどうし、気が合うんだろうと思った。


 ならば私が気を使うこともないか。さすがに欠伸は噛み殺すが、必要以上の緊張はしなくてもいいよね。そう考えて力を抜いた。


「ほう。退屈か、エリーシャル?この私の前で、なかなか大物ですね」


「っいいえ!」


 突然の陛下からの言葉に声が裏返えりそうになる。あっぶないわ。


「成人前の令嬢を興味本位で呼んだのだからそれも仕方がない。大儀であった、下がってよろしい」


「は、ありがとうございます」


 よし、これで今日のやることは全て終わった。あとは出来るだけ目立たずにこの場を離れて、お母様と一緒に家へ帰るだけ。

 丁寧にお辞儀をして、さあ、と足を動かそうとしたところで予定外の声がかかる。


「ああ、エリーシャル。そなたの母親、コベリット卿とはまだしばらく話があるゆえ、しばらくの間温室でも覗いてくるがよいでしょう」


「は、い……」


 えええ、まだ帰れないの?温室で花が見られるのは嬉しいけれど、早く帰りたい感が大きすぎる。


「そうね。一人ではつまらないでしょうから、案内をつけましょうか」


 パンパンと陛下が両手を叩くと横の扉が開き、茶色の髪にハシバミ色の瞳の可愛らしい男の子がそこから静かに入って来た。


「第二王子のガイロスよ。ガイロス、コベリット卿の娘、エリーシャルの案内を頼んだわよ」


 にやにやとした笑いを私たちへ向ける陛下と、お母様。


 美少年のエスコートで王宮の温室拝見……!


 なんという乙女チックなシチュエーション。ありがとうございます、国王陛下。ご褒美いただきました。


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