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音楽! 3

「エリーシャル様!あの日歌っておられた曲は大変素晴らしいものでした。是非とももう一度お聞かせいただきたいのですが!?」


 さあレッスンの日だ!

 と、るんるん気分で参加したら、ピアノを教えてくれるというおばあちゃんに勢いよく掴みかかられました。


 なぜか今日はレッスンに参加せずに、私の従僕として付いてきたアッシュがこっそりと耳打ちしてくれたところによると、このおばあちゃんはシュラーゲン王国でも三指に入るという音楽家だという。


「恥ずかしながらわたくし、陛下より命じられた新しい曲作りに難航しておりまして、未だこれというものを作ることが出来ずにいるのです」


「はあ」


「それが、先日のエリーシャル様のあの歌、あのメロディーを耳にしてからというもの、新たなる音楽の扉が開いたのです。どうぞ、あの歌をもう一度お聞かせください」


 国王陛下からの依頼がよほど上手くいっていないのだろう、ぐぐぐっと近づくその目が血走っている。


「その、私、何を歌ったのか覚えていないのですが……」


 寝ていたからまあ当然といえば当然なんだけど、本当に何を歌ったのだろうか。

 疑問をそのまま口にすると、おばあちゃん先生が嬉々としてピアノに向かう。


「ええ、ええ。覚えている限り楽譜に起こして参りましたので、どうぞ聞いていただけますでしょうか?」


 楽譜に起こすなー!

 人の寝言を、いや寝歌をなんだと思っている。


 そう思いつつも、これもピアノを教えてもらう代償だ。気持ちよくレッスンをしてもらうためにもここは頷いておこう。

 仕方がなく「はい」と答える前に、先生は意気揚々と演奏を始めてしまった。


 ダンダン、ダンダンっと足を踏みつけるような力強いリズム。

 お、おう。あれだね。この曲は、まさに女王様という名に相応しい、というかそのもののバンド名の、ロックの名曲でした。


 これを歌ったの?寝言で?まあ、歌ったんだろうな。


 プロレスだけでなく他の格闘技や野球の登場曲にもよく使われるその曲は、気合のものすごく上がる曲で、私もいつかこれで登場したいと考えていた。

 そうでなくてもレスラー仲間でカラオケ行くと、絶対に一度は合唱するからもう体が覚えているんだよねえ。


 久しぶりに聴く前世の曲。これ英語だけど歌っても大丈夫かな?まあどうにかなるだろう。

 どうせ寝ながら歌ったのだから、適当に歌いましたって感じで……と思っていたのについノリノリになってしまった。


 もう途中から伴奏がなくなったからアカペラで歌ってたよね。

 誰も止めないのをいいことに、ガッツポーズからの指差しとか、ダメじゃん自分。


 ハッと、我に返った瞬間、ものすごいやってしまった感が襲う。


「お嬢様……」


「や、これは……その」


 アッシュが隣で、なんか痛々しいものを見る目を私に向けていた。

 うう、なんとなくお兄様たちからの視線も微妙だ。


 そんな中、ピアノの先生でもある音楽家のおばあちゃんだけが「素晴らしい!素晴らしい!」と感嘆の声を上げながら、がりがりと楽譜に書き綴る。


「音のヴァルキューレがその矛を掲げたようです!……ああ、すぐにでもこの曲を書き上げてしまいたいので、本日のレッスンはここまでにさせていただきます。それでは、失礼申し上げます」


「は、え、え?」


 一息にそれだけを言い切ると、呆気にとられる私たちを残し、ダッシュでレッスン室から出て行ってしまった。

 あれ?今日レッスンは全くしてませんよね、なんでぇー……


 せっかくピアノのレッスンが解禁になったというのに、次のレッスンも先生の事情でお休みになってしまった。私、歌しか歌ってないのに、先生の嘘つき。


 これでは折角の計画も進めない。

 それじゃあ、次は一体何に手を出そうかと、クッキーを片手に考えていると、王宮から帰って来たばかりのお母様が、お父様の腰を抱きながら私の部屋へと入って来た。


「エリシャ、エリーシャル。あなたに王宮からの招待状が届きました。十日後、大広間にて陛下よりお言葉を賜るそうよ」


「ふんがっ?」


 驚きすぎてクッキーが喉に詰まった。え、え、え?なんでいきなりそんな話に!?


「侯爵様、お嬢様はまだ陛下に拝謁できるお歳ではないと思いますが?」


 アッシュが私の背中をさすりながらお母様に尋ねる。


 そうだそうだ!

 今年から勉強が始まったばかりだけど、さすがに貴族の基本行事は覚えているよ。王宮へ上がれるのは貴族の成人となる十四歳になってからだ。新年最初の大舞踏会が、新成人のお披露目となる。

 今年の大舞踏会は先週終わったばかりだし、来年成人のキリアスお兄様ならまだしも、七歳の私にはまだまだ先の話。

 だから余程のことがなければ王宮へいくことはないし、女王様に会えることなんてまずありえない。


 嘘でしょう?そんなふうにお父様に目を向けても、なんだか困ったような顔をしてふるふると頭を振った。


 それがねえと前置きを入れて話を続けるお母様だけは、どことなく面白がっているようだ。


「音楽家のボジロ卿に依頼された王国騎士団の士気高揚のための新しい行進曲を、国王陛下が大層気に入られたの。話を聞けば、エリシャの歌が元になっているということだから、特別にお言葉を下さるということらしいわ」


 まーじーですかっ!?あれがか?どうやったらそんなミラクルが起っちゃうの?


 なんてこった。乙女の祈りを目指していたはずが、行進曲になっちゃったよ。ロックだね。


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