転生! 1
新連載、楽しんでいただければ幸いです。
本日のみ、19時、21時、23時で計3話UPします。
「うるぅえりゃぁあ!クソビーッチ!死にさらせやぁあっ!!」
私の人生最期に発した言葉は、知らない人が聞けば「なんだこの女?」と首を捻るようなものだろう。
しかしそこは大目に見て欲しい。
なぜならばその瞬間こそ、私の一生を燃やし尽くした仕事の真っ最中であったのだから。
コブラ・兵頭――それが私の女子プロレスラーとしてのリングネーム。
赤と金に染め上げ逆立てた髪、蛇皮のリングシューズに長い鞭がトレードマークのヒール役を、生まれ持った巨体といかついご面相でつとめあげた。
その日の対戦で、リングのコーナーポストから場外へダイブしてきた、ベビーフェイスの八草奏を紙一重で避け、踞っているところをふん捕まえた。
しかしそのまま鉄柵へと投げつけようとしたところで、急に足がふらつきもつれてしまう。
ここ最近落ちはじめた筋肉を取り戻すよう代表に厳命され、ウエイトをさらに増やそうとして、無茶な暴食と過度なトレーニングをしたものだと自分でも思う。
結果、膝の古疵が追い打ちをかけたらしい。
そのまま何かに酷く頭をぶつけたところまでは覚えがあったのだけれども、それ以降のコブラ・兵頭としての記憶はない。
なんともあっけなく人生終了のゴングが鳴らされしまったという訳だ。
さようなら、神闘女子プロレスのヒールとして、反則の限りを尽くしたコブラ・兵頭。
願わくは葬儀の写真は仕事中でないものを選んで欲しい。あの代表のことだから無理だとは思うけれども。
そしてこんにちは、この世の美しいものを全部詰め込んだようなエリーシャル・コベリット。
大人になればきっと本当のヒールが良く似合う。ベッドの向かい側にかけてあった鏡に映る自分に微笑みかけ挨拶をした。
そう。気がつけば私は、金色のふわふわ巻き毛にエメラルドグリーンの瞳を持つ愛らしい幼女、エリーシャル・コベリット、六歳になっていたのだ。
目が覚めた瞬間、名前と歳はすぐに頭の中に浮かんできた。
とりあえずそれだけわかっていれば問題はない。これだけ可愛いのだから、それだけで人生イージーモード。
その上、今寝ている場所は夢にまでみた、お姫様の天蓋ベッドだ。
ふわふわの羽布団、シルクのようにつやつやした寝巻き、こんなのお金に余裕が無いわけないでしょう。
実は私は、昔から美しいもの、可愛いものが大好きで、ぬいぐるみやレース編みなどの裁縫や、化粧にファッション、お菓子作り、いわゆる女の子が好みそうなありとあらゆるものに憧れていた。
けれど以前の私は、ヒール役としてイメージを大事にしすぎた結果、自由になるお金はあれども、その趣味に手を出すことはせずに封印してきた。
しかし、今は違う!見よ、この私を!
見れば見るほど可愛らしい顔立ち。
ピンクに染まる頬といい、サクランボのような唇といい、どこをとっても人形のようで胸がきゅんきゅんする。
これなら今まで店に近づくと普通の女の子が怖がるからとウィンドウショッピングすら諦めていたコブラ・兵頭でも、大手を振って『可愛い』趣味を満喫できる。
いや、この『可愛い』の権化、エリーシャル・コベリットがやらなくてどうする!?
ああ、可愛い、可愛い、私って可愛い!
ベッドの上でぐるぐるとでんぐり返しをしながら喜びを表現する。
あんまり楽しくなりすぎたので、ついこれならバック宙もできるんじゃないかと、ふと思いついた。
やっちゃう?やっちゃおうかな。
コブラ・兵頭の頃の感覚が抜ききっていなかった私はつい調子にのってしまった。
ネグリジェの裾を上げてみれば、これ、ドロワーズだ!ちょうちん袖みたいなパンツから白くて細い足が出ているのがまた可愛い。
バック宙準備のためにうきうきしながらパンツの中にネグリジェを突っ込んでいると、軽いノックとともに扉が開かれる音がした。
「失礼いたします、お嬢様」
振り返れば、その声の主とばっちり目が合ってしまった。
十二、三歳くらいだろうか?今の私よりは大きいが、まだ子どもにしか見えない、でも凄く綺麗な男の子。
長めの銀髪を一つにくくり、肩から前に流している。ブルーグレーの宝石みたいな瞳が、私の頭のてっぺんから足のつま先までじっくりと見つめていた。
そう、私のパンツまで。
うぎゃああ!パンツ見られたっ!
しかも、ネグリジェをパンツに突っ込んで、さあ飛ぶぞと両腕を肩まで上げている姿だ!!どこの変態だ!?
慌ててベッドの布団をひっぺがし中に飛び込んだ。
プロレスのコスチュームはもっと露出してたけど、あれは仕事着だから!ノーカンだから!
「お嬢様……?」
いやいや、私起きていませんよー、と言う代わりに、目をぎゅうっと瞑る。
しかし、その美少年は私のパンツごときには全く動じていない。
「お目覚めになられたのですよね。では、ただいま御家内様をお呼びいたしますので、少々お待ちください」
丁寧に話しかけると、すぐにその場を離れて行った。
ぱたぱたと足音が遠ざかっていくのを確認してから、ようやく布団の中からはい出す。
今の様子をみると、私はたんに朝だからと、目を覚ましただけじゃなさそうだ。
ベッドの横にあるテーブルの上には、水が入った桶とタオルがある。
しばらくの間、寝付いていた?
確かにそう考えると、少し体が固いかもしれない。だからこそ、あの少年は御家内様を呼んでくると言ったのか。
御家内様というのは誰のことかわからないけれど……よし、バック宙はなかったことにして、静かに待っていよう。
多分、彼も「お嬢様起きたらパンツ丸出しでした」なんて言わないんじゃないかな?私の名誉の為にも。
枕をクッションにして体をもたれかけさせ待っていると、勢いよく扉を開け放って、あっと思う間もなく誰かが私に飛びついてきた。
「よかった!エリーシャル!僕のエリシャ!目が覚めたんだね」
そのまま両手で顔を包み込み、ぐいっと顔を上げさせられた。
そこには、もうキラッキラに輝く美青年の顔がある。
ふぉおお!近い、近い!目が潰れそう!
ちょっと涙目で、うるうるとしているせいか、余計に顔が光っているようにみえた。
ふわふわの巻き毛にくっきりと大きな緑の瞳。よくよく見ているとなんだかさっき鏡で見た私に似ている?と、いうことはこの人って……
「どうしたの?まだどこか痛いところはある?お父様に言ってごらん?」
「お父様……って、パ、パパァ!?」
エリーシャルの、私のお父さんだ。
うわー、こんな綺麗なお父さんとか凄い……しかも若いし!
二十代半ば?いやこれなら前半でも十分通るだろう。
フリルのいっぱいついたシャツに宝石みたいにキラキラしたボタンのジャケット姿は、まるでこっそり応援していたアイドルグループの最推しみたいで超萌える。
「……エリシャ、今、パパって……?」
目を大きく開けて尋ねる美青年。
おっといけない。私はお嬢様と呼ばれる立場だった。
ならば、お父様って呼ぶべきかな。身分も高そうだし、怒られちゃうかもしれない。
「ああ、エリシャ!そうだよ、パパだよ。ふふ、嬉しいなあ、あのエリシャが僕のこと、パパと呼んでくれるだなんて……お喋りし始めた頃以来だね」
喜んでました。え、いいの?




