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策士(一般枠)は黒幕ムーブを愉しむ  作者: 御丹斬リ丸
黒幕lv1 正体不明の敵
5/5

何かがおかし"くない"

三人称視点パート2。



誘導されて"ない"

これは何かが"いや、考えすぎ"

きっと"これがふつう"だろう




 "計画は順調だった。"

 殺す予定はなかった、ミカが行方不明になったのは予想外であったが、理由をつけてメンバーを危険地帯へ連れて行くことができると思わず笑いそうになった。

 念力能力でしかないはずなのに、危険感知をすることが出来るユナは殺す予定は、なかったが一人だけ連れて行かないという理由で怪しまれるのは避けたかった。

 "ユナは非常に便利な人材だ。"

 心を読んだり未来を見たりしない。

 しかしながら危険を察知する能力はある。ならば粛清する意味はない。

 都合がいいというのも"危険を察知する割には妙月の妙計には気づく様子がない"からだ。


 しかしながら、これから行くのは世界最悪の町とも名高い彩南町だ。

 噂ばかりで本当はどんな町かわからないが、もしも危なくなったらユナも置いて帰ればいいのだ。


『自分の命は一つしないが仲間は探せばいくらでも変わりが効く』


『なんだったらユナが死んだら探知系の能力者を勧誘すればいい』


『しかし、流石にレアな能力を持ち自分にも協力的なミカまで死んだら困るな……』


 などと妙月が下衆なことを考えていたなどということに仲間が気付くことはなかった。


 そもそもの話になるが古参メンバーが邪魔になってきたから殺すとは前回話したがそれは別に急ぐことでもない。

 "計画"を行うのはまだ先の話であるしそれを実行するまでに反乱分子を始末すれば良いはずだった。

 普通に殺すだけなら彩南町に行く必要はない。

 彩南町に入ったら出られないと噂はあるというのに危険を犯して妙月が出向く必要はないし、もし本当に行っただけで死ぬと言うならメンバーを転移させて放置するだけでいい。


 だが問題は例の写真だ。

 ミカがいなくなるならいなくなったでも、構わなくはない。少し惜しいとは思うがわざわざ探すくらいならもっと役に立ちそうな人間を探すだろう。


 ユナたちがミカが拐われた事を知ることになる要因となった写真は、妙月が初期メンバーの粛清計画を立てる数日前に遡る。


 その日、特にやることもなく占拠した雑居ビルで事務仕事をしていた妙月の元に一つの郵便袋が届けられた。


 ポストに入っていたわけではないらしい。妙月の部下の名前も知らない下っ端が外回りの途中、妙月へ渡して欲しいと言い残しこの封筒を渡したらしい。


 名前は聞かず、容姿も覚えていないという下っ端には頭が来たが処分するのは後からでもいい。

 万が一爆弾でも入っていたり毒がぬられていた面倒だ。そう考えた妙月は坑道のカナリアがわりに使っている秘書役に開封を任せた。


 そして中から出て来たのは3枚の写真だった。


 最初はいたずらかと思っていた。


 組織が大きくなるに連れ、世に認識されたせいかイタズラもあった。時には動画配信者なる怖いもの知らずに絡まれた事もあれば、名前のない謎の巨大組織としてオカルト特集の記者につけまわされた事もあった。


 組織に名前がないのは名前をつける必要がないからであり、記者につけまわされたのは妙月ではなく影武者達だった。


 妙月はまだ子供であり、経験はそう多くはなかったがそれをわかっていたので、運営メンバーは非常に厳しい判断で組織していた。

 自分より何処か劣った人間や、弱みのある人間を運営メンバーにし、反乱や下克上が起きないように調整していた。


 反乱分子になりうる存在は話も聞かず殺すような人間だが、自分のことになると酷く慎重だった。

 だから組織には真のリーダーを名乗らせた影武者を配置し、組織内のあちこちに盗聴器を設置し反乱の兆候がないか監視していた。

 慎重に慎重を重ね秘書役の人間に封筒を開けさせ、毒や爆発物への対策をしていた。今回も開けさせたが爆発はしなかった。

 もしも爆発したらその瞬間に一人でテレポートして逃げ、爆心地で丸焦げになって使い物にならなくなった秘書は"新しく"するだろう。


 開封された封筒から出てきた3枚の写真には断片的な情報だけが載せられていた。


 1枚目が行方不明になったミカが白服の男たちに押さえつけられる姿。

 2枚目が白服の男達の全身像。

 3枚目が緑色の看板を掲げたパン屋の写真だった。


 1枚目と2枚目は理解出来た。3枚目は理解出来なかった。何か他に無いかと封筒の中を探ったが何も無かった。

 だが、3枚目の写真の裏には日付が書かれていた。パン屋が場所、日付が時間。

 それがこれを送って来た人物が待ち合わせとして指定して来たものではないかと思いついた。妙月は明らかに罠だとは思った"がどういう訳かその日に行かなければならないような気がした。"


 "酷く頭がぼんやりして"最近疲れ気味なのかと思った。"がふと写真に目を落とした妙月は途端に疲れを忘れたように見たい、どうしても確認しなければ……"と考えた。それはいつもの妙月には考えられないほど短絡的な考えだった。


 妙月も大人びているといえどまだまだ年齢にして高校生程度である。そういう年頃なのかもしれない。



 仕方ないので3枚目の写真に写るパン屋を検索してみれば、それは彩南町唯一のパン屋であるらしい。


 元から一度は彩南町に行ってみたいと思っていた妙月はその誘いに乗ることにした。


 彩南町について、メディアや人伝に聞いてはいたが行くのは初めてだった。

 《検索してはいけない単語》にはいつもランクインする危険地域。


 隣町である中芦町と隣接する北区新町までは誰でも出入り可能だが、それ以外の地域とは鉄条網とコンリート製の巨大な堀によって分断されている。堀は全長40kmに渡り、横幅50m、深さ35mもある。何と戦うんだと言わんばかりの凄まじい防御であるが、それは彩南町と他の町を隔てる壁であり、最も壮大なものではない。北区新町は彩南町ではあるがいわば中芦町との緩衝地帯であり万が一何かが防御陣地を超えて来た際に食い止めるための最前線ともなる。

挿絵(By みてみん)


 ちなみに向かおうとしているパン屋はこの馬鹿デカイ堀の向こうにあるらしい。それに気づいた一行は、このパン屋を営業している人間は頭がどうかしているのではないか、いやもしくは見間違いかと何度も住所と地図を見比べた。


 彩南町と一般に言われるエリアはこの堀を超えた先のことを指す。


 町は北部と南部に分かれ、南部は旧行政区と呼ばれ国が関与しない無法地帯となっていた。


 彩南町に向かうにあたり調べたところによるとここまで治安が悪化したのは駅にあるらしい。


 元々工場地帯として発展してきた彩南町に、貨物の終着駅を作ろうとの話が持ち上がった。物流を握るということは凄まじい力を手に入れることに等しい。それは妙月も感じていたのでわかる。

 巨大なターミナル駅として作られた。彩南ターミナル駅の周辺は瞬く間に、物流を握り利益を得ようとするグレーな団体が集まった。それを面白くないと思った工業地帯を管理するグレーな団体と土地の権利を主張して争い始めた。


 数年言い争っていた両者だったが拉致があかぬと焦った一つの団体が駅を占拠したことにより彩南町は戦場と化した。

便乗して駅を占領する人間、取り返そうと動く人間。争い続けているうちに住民は町を離れ過疎によってさらに治安が悪化した。空き家には戦いを求めてやって来た凶悪犯が住み着き、さらに治安は悪化した。


 駅はただの駅ではなかった。

 そこは貨物列車の集積場であり、駅を占拠する事で貨物の中身に違法なものを詰め様々な場所に薬や武器を運搬しようと考えた犯罪組織とそれを聞きつけやってきたろくでなしども抗争が他の様々な組織、団体を巻き込み紛争化した結果、彩南町は国内最悪の町となった。……とインターネット上では言われている。


 しかし南北を遮るように存在する線路が、南部の無法地帯から流れ着くやばいものとの壁になっているのは紛れも無い真実だ。




 彩南町に着いた妙月達は、その異常さに気づいた。


 妙月たちが生まれる前くらいまでは平和で少し寂れた町であった彩南町は、今では極悪犯罪者すら裸足で逃げ出すほどと言われる危険地域だといわれる。

 無法地帯と危険地帯を分ける壁のすぐ近くにあると言うパン屋を目指して南下したいた一行は、歩いている間一言も言葉を発することが出来なかった。


 国家の枠組みに入らない組織や、歴史の闇に消えた旧政府の人間、カルト教団、快楽殺人鬼、マフィアがしのぎを削る町と言われる場所だ。どこから何が襲いかかって来るかわからない。武器を持ち特殊な素材で作られた刃も銃弾も防ぐ服を来て身ばれ防止の為に仮面までつけてきたというのに一度も襲撃を受けなかった。

 まだ無法地帯へ入っていないと言うのに戦場のように荒廃した町が広がる。それでも屋根が吹き飛んでいるというわけではなく入口が強引に壊された後であったり中が焼かれた家であったり、上空からみると他と変わらないように見えるだろう。


 しかし、いざ地上を歩くとその凄惨さが垣間見える。

 道端に置かれたプラスチック製のゴミ箱、生ゴミの袋や雑誌と一緒に置かれた人の腕。普通の街なら落書きが書かれてあるだろう路地裏は、何かの肉片や骨そして大量の血が染みついている。

 地獄の匂いというものがあるなら、まさにこれがその匂いだと言わんばかりの酷い悪臭が鼻について離れない。

 焦げた跡、何処かで聞こえる悲鳴、爆音。それなのに人っ子ひとり見当たらない。そんな不気味な街だ。

 だが、気配はある。姿はないのに無数の何かが身体を弄るような気持ち悪さが離れない。


 半壊した家屋に車が積み重ねられ、見たこともないほど大量の蜘蛛の巣が貼ったアーケード街には、干からびた人のようなものがぶら下がっていた。


 こんなものが存在するのかと思うほど巨大な植物に飲み込まれた商店街。無数のヒビが入り穴だらけの廃ビルは階層ごとなくなって居るというのに不自然にビルとして立ち並んでいる。


 だれもいないのに怒鳴り声が聞こえる空の倉庫、町の境界線に沿うように存在する分厚い雲。なにもかもが不気味だった。


 生きた人は見なかった。死体。死体。死体。だというのに何かが居るそんな気配がするのだ。事前にやばい未来がわかったり気配を感知できるわけではないメンバーも町に入った時から感じる無数の目線に血の気が引いていた。

 誰もいないし見えないのに、誰かに見られ続けているというおぞましさが、メンバーの精神を弱め続けた。

 妙月は、引き返したくなっていた。

 それだというのにどうしても、確認しなければ、そう何かに導かれるようにパン屋の方向に自然と体が動き続けた。


 そしてパン屋の近くまできた妙月達は空から降りてくる写真通りの白服を目にした。

 いつもなら、慎重に出かたを疑っただろうが、いつのまにか体が動き出していた。道路に飛び出していきなり襲いかかった。

 頭がどんどん熱くなって自分が何をしているかわからなくなって思うがままに叫んだ。

 自分が軽蔑する馬鹿どもと同じように叫んで何も考えず能力を力のままに振りかざし戦った。関係のない一般人を人質にもとった。それだというのに何故かとても"快感で頭が沸騰するように熱かった。"

 ゴミだと思っていたシンジが、磔にされ拷問を加えられたときも、"酷く頭にきて怒鳴った。"

 自分が人質をとっておいて卑怯だというのもおかしいと普段は思うだろうが、今の妙月はおかしかった。

 仲間がやられ自分も追い詰められ、"酷く頭にきた。"

 "頭が沸騰するように熱かった。"そして、目の前にヘラヘラと笑いながら"恐ろしい"ことを平然という男が"怖かった。"

 ただの一般人だとしか見えない人間にいいようにやられたというのに"恐怖しかなかった。"

 涙で視界がぼやけ、震える口からは歯がカチカチと音を鳴らした。

全員殺される。と思った。

 俺だけでも逃げようと、普段ならそうしただろうが、そんな"酷い"ことできなかった。


 "大切な"仲間を守るため、妙月は渾身の力を振り絞り離れた仲間の手を取りテレポートで避難させていく。


 驚きの表情を浮かべるユナ達。磔にされていたシンジをテレポートさせるも男は黙ってこちらを見るだけで何もする様子はなかった。

 だから自分が最後になり逃げようと思った。


 "いや、そんなことは思わなかった"


 "目の前の残虐非道な人間を倒すため、残ることを、決めた"



 普段はこんなことは思わないはずだ。

だが自分はこんな人間だったのかもしれないと、"納得した。"


「俺は妙月!お前を倒す名前だッ!」


 息を一杯吸い込んで放たれた名乗りに、男はへんな顔をしながらも、名乗り返して来た。


「みょうつき……ね。私は……山田太郎とでも呼ぶといいよ。これが君が聞く最後の名前だろうけど」


 山田太郎。明らかに偽名だろう。真面目な名乗りに対し、おちゃらけた様子で返す"山田(おとこ)"に妙月は"頭にきた。"


 だが何かおかしいと思った。

 普段なら自分も偽名を言っただろう。

 一目散に逃げただろう。

 仲間を囮にしただろう。

 こういうやりとりだって戦いのひとつだ、頭に来たりしない。


 何かがおかしい。


 何がおかしい?

 いつからだ。

 妙月は考える。


 "しかし思い出せない"


 何かおかしい。

 イライラするが、妙月は普段からイライラする人間ではない。問題にぶちあたってもそれを研究して乗り越えようとする人間だ。短略的なことでイライラするのはありえない。

 思考が加速する。

 おかしい。


 いつからだ?


 この街に来てからか?

 あの、言いようもない嫌な目線か?

 いや、そうじゃない。

 何故こんな場所にこようと思った?


 "何故かとてもイライラした"


 前だ。街に来る前だ。

 何故俺はあいつらを逃した?

 何故俺は街に来た?

 何故俺は目の前の男に名乗った?

 おかしい……何が……。


 封筒?……写真。

 写真に何かされていた?


 ……そうだ。

 そういえば、あの写真をみたとき。

 どうしても確認したいと思った。

 根拠もない勘は信じないはずだ。

 能力に裏付けられたものや、データから導き出される答えは信じられる。

 だが、勘なんて信じられない。少なくとも妙月はそういう男だ。


 おかしい。そう思った。


 "そしてムカムカした"


 そういえば、ユナの危険なのがわかるという話だって何故今まで自分が信じていたのかわからなくてなった。

 あれだって直感じゃないだろうか。

 どうして自分が今まで信じていたのか。

ユナが自分に何かしたのか。

 よくわからなかった。


 ただどちらにしても、こんなことを考えるより今はこの状況から脱出し、このことに関してはあとで考えるべきだと思った。


 逃げるため、フェイントがわりにわざと自称山田太郎と距離を詰めようとし


 "頭が沸騰するように熱くなった"

 "誰だか知らないが自分の思考を操るなんて卑怯な奴だと思った"


「……ッ!?な、何が……」


 "イライラした"

 "憎くて殺したくて、もう誰でもいいから殺したくなった"


「ぅおぉおおおお!!!!!」

 妙月は吼えた。

 獣のように吼え、地をかけるように距離を詰め勢いよく殴りかかった。


 "もう何も考えられなかった"


【"だだ殺す。目の前の獲物を殺す。

野生的な本能が脳裏を支配した。

そこには理性的な姿はなかった。

だだひたすらに拳が割れることも厭わず、血走った目で殴る。"】


「ーーぁっ……あ!ああああああああ!!!!!」


 叫び声をあげひたすらに殴る。


 "頭が沸騰したように、真っ白だ"

 "何もかもが快感だった"


 何かが折れたような音がした。

 肉が潰れるような音がした。

 目の前の男がどうなろうと知ったことではなかった。

 だだひたすらに殴る。



 "人を殴る。その感覚が快感で他のことを何も考える余裕すらなかった"






用語説明

※粛清……内部の反対派を追放(殺害)すること。

※妙計……普通には思いつかないような、巧みなはかりごと


雑談

最近、本を買いまして、その名も【よいこの君主論】!!

マキュベリーの君主論を、小学生でもわかるように書いたという本です。架神恭介氏と辰巳一世氏が共同執筆している本で内容がとてもふざけていて楽しく読めました。同執筆作で【完全教祖マニュアル】という同じく筑摩文庫から出版されている本があるのですが、それも買いました。

【よいこの君主論】で君主……つまり領地の治め方や人の使い方を学び、【完全教祖マニュアル】で宗教の作り方と経営方法を学ぶ。まさになろう作者が読むべき2冊!

しかも正規価格780円、アマゾンで買えば新古品が100円と超お買い得!買うしかない。


……というだけの話。


あとがき

次回から主人公視点に戻ります。

冷静冷酷な妙月……彼が短略的な行動をとったのは何故か。2回にわたって若干の説明が入りました。

次回は主人公が妙月に名乗り返したあたりから始まります。


評価、感想などを頂けたら超嬉しいし、モチベーションも上がります。これからも応援よろしくお願いします^ ^

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