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策士(一般枠)は黒幕ムーブを愉しむ  作者: 御丹斬リ丸
黒幕lv1 正体不明の敵
1/5

プロローグ- 戦犯 -War Bread

戦犯=War criminals

2020/10/30 文章を大幅に変更




 平和な街の一角が突如として凄まじい光と轟音に包まれた。凄まじい揺れと熱風が近隣の住宅を破壊して行く。

 反応をする間もなく突如として起きた大爆発はその場にいた者に逃げる暇も与えず、爆心地から放出された白光が全てを飲み込んだ。


「………ーーーー………ーー」


 視界は全て白に染まり影すらも飲み込まれて行く。遅れて爆風が後ろから吹き荒れ、近くで何かが割れるような音が絶え間無く鳴り響いた。

 眩しさのあまり眼を閉じる。しかし直前まで見ていた強い光のせいでオレンジや青の残像が瞼の内側を揺らめいていた。


 そして光が治るとそこは地獄だった。



 粉々に半身をすり潰されたパン。


 ピクリとも動かぬ様々なパンが地面に散乱し、子供が遊び半分でこねくり回したドールハウスのように店内は荒れていた。


 中身を抑えようとも零れ落ちるジャムパンたち。鼻をつくような甘い香りが店内を満たして、赤と紫の冒涜的に塗りたくられたジャムの川がその場の悲惨さを物語っていた。

 しかし窓側に陳列されていたパンはもっと悲惨だ。


 見栄えがいいように道に面した方向に置かれていた棚は見る影もなくその残骸と思しき木片が壁や天井、それからレジカウンターに突き刺さっている。


 それがパンであっただろうと物語る内容物がまだ白く美しかった店内をジャム、カレー、トマト、チーズなどが染め割れたガラス片がフランスパンを真っ二つに処刑し、クリームパンを蜂の巣にして、壁にベーコンパンを張り付けにした。


 人気がないゆえに後方へ配属され、よって戦火から逃れ無事だったパン達は、中世の処刑のように吊るされたバラバラのパンを見て震えあがるだろう。

 次は自分たちだと。


 窓の外では誰かの怒鳴り声とサイレンの音が鳴り響いていた。



「なんてこった……」


 西部劇のようにベコベコに凹んだレジカウンター、ガラス片や食べ物があちこちに散乱し天井の一部が剥げ落ち配電線がむき出しになっていた。

 開店から3年、まだまだ綺麗だったパン屋は西部劇の酒場のような店内にリホームされた。


 店の中にマシンガンでも撃ち込まれたのかと聴きたくなるような穴だらけのレジカウンターからちょび髭の男……この店の主人が這い出してきた。


「…………パ、パンが……僕の……っ」


 楽しみにしていた山岸ベーカリーのパンは見る影もない。いつも購入するパンをトレイに乗せ、購入する為にレジへ向かったはずだった。しかし見る影もない。お金は払ってしまった。受け取ろうとした瞬間、爆発に巻き込まれパンは袋ごと粉々に消し飛んだ。

 さっきまで楽しく会話していた店主は何歳か老けたように見えた。パン屋がこの有様だ、正気を失い覇気を無くし全財産を賭博で溶かした人間のように何もかもが真っ白に見えた。


「…………」


「…………」


 店内は酷い状況だった。どこから手をつけていいのかわからない。棚も壁も壊れ部屋中が爆風で飛んできた砂埃や煤、そして潰れたパンで地面は汚れている。 


 少し足を動かせばガラスの破片がパキリという音を立てて割れた。

 惨状に絶望し降りかかった悲劇に泣くしかないのか、唖然とした顔のままとめどなく流れ出していた。

 音を聞いてこちらを思い出したのか、涙を両手で拭いた店主が充血した目のままでこちらを見た。


「お客さん、すまんが売るもんがなくなっちまったわ。 ははっ……どうしたらいいんかわからんわ」


 50半ばの店主は酷く気さくで素敵な方だ。だが今はそのかけらもない。どう見ても余裕があるようには見えなかった。

 普段は何処かヘラヘラした雰囲気のある軽い男だ。

 誰にでも話しかけるし、仲良くなればくだらない冗談から世間話までする。


 今では住む人も少なくなったこの街でパン屋を開店し、この近辺で唯一の食料品店といっても良かった。だからパン以外にも店先にちょっとした野菜や果物、店内には牛乳やお酒などを販売していた。

 僕はパン以外購入していないが、ここに住まう人達の助けになっていることは確かだった。


「…………もし、よろしければ手伝います」


 本当はすぐ家に帰ってやらないといけないことがある。僕はお屋敷で働かせてもらっている立場だ。近隣にスーパーマーケットがないから買い足しに行き帰ったら人数分の料理を作る。しかし屋敷の人間とて料理ができないわけでもない。

 ましてや食料だってあと3日分はある。


 屋敷の主人は理解のあられる方だ。人が困っていたら救いなさい、人が暴れていたら蹴散らしなさいと仰っている。だから僕がパン屋の掃除を手伝った後、外に出て爆発を起こしたテロリストがいたら取っ捕まえてパン屋を壊したことを後悔させてやることもいいかもしれない。


 しかし、不味いことがある。


 なんと言ってもパン屋は買い出しの予算に含まれていないのだ。

 スーパーから屋敷への行き帰り道からそこそこ離れた位置に存在するこの山岸ベーカリーにいることが不味い。

 しかも購入したパンは買い出し際割引品やクーポンで浮いた予算をちょろまかして購入しているのだ。不味くないわけがない。

 パンは自分でこっそり食べているし、購入した甘いお菓子は自分で作ったと嘘を言って子供達にあげているのだ。作れないわけではないが、作る手間を省き時間を有効に活用するためと言ってもいい、バレたらそんな言い訳をしようか。


 突然、爆発音がしたので見に行ったら、気に入ってきたらパン屋が酷いことになっていたので助けましたという言い訳もよろしくない。

 なんと言ってもこの彩南町は1日1回から3回は何処かで超能力者同士が抗争をしている町だからだ。


 急にお腹が痛くなったから休むと言うような陳腐な言い訳だ。

 爆発音が聞こえるのが正常であり、そんなものを気にしていたらとても暮らせない。


 スーパーに向かう際にも少し離れたところで爆発音がしたし、そう珍しい話でもない。この彩南町から人が出て行ったのも昼夜問わず行われるテロに共に怯え、生命の危機を感じたからだろう。実際、僕が仕えている主人のように街を離れない理由や、僕のように自力でテロリストに対処できるような力を持っていない限りわざわざここに住む必要はない。


 ともかく、なぜこんなことになったのかは知らないが、こうなれば毒食らうなら皿まで!パン屋を片付けてから帰ろう。




「いや、有り難いですが、少し考える時間がほしいのです


だから……(けえ)ってくれんか」


 漸く決意が固まった僕に店主は荒い呼吸を繰り返しながらそう言った。

 途中まではいつもの落ち着いた口調であったが、これが素であるのか、少し方言の入った言葉遣いになった。

 店が壊れたから綺麗にしよう、だなんて僕は考えたが当事者はそう簡単に冷静になれないのだろう。


 そういうことをすっかり忘れていた。


「……そう、ですか。いやそうですよね……わかりました」



 だから僕は空気を読んで店を出ることにした。

 全ての窓ガラスが割れ凹んだフレームだけになった道沿いのショーウィンドウが物悲しく見えた。

 ガラスが割れて通りやすそうだからといって壁に空いた穴から出ていくほど、人の心を考えないわけではない。壁の端にあるドアを開けて外へ出た。

 ドアは歪んで上手く開かない様子であったがタックルをかます要領でこじ開け外へ出た。


 外は薄暗かった。今にも雨が降り出しそうなどんよりとした空。そういえば今は時雨というのだった。雨が降ったり晴れたりする不安的な冬の季節。薄暗い空に漂う黒い雲に混じるように道を一つ挟んだ地点から黒煙が立ち上っている。

 煙の行く先を目で追っているとふと空に黒い影が飛んでくるのが見えた。一見鳥のように見えたがでかい。それは人間だった。産まれながらにして空を飛ぶ力をえた超人……飛行能力者たちが編隊を組んで飛んでいた。


 "へ"の字に組んでいた一人が僕に気づいたのか離脱しそのまま近くへ降りてきた。


「怪我はないか!?」


 音を感じさせず軽やかに降り立ったその人物は白を基調とした地に赤のラインが入っている制服を着ていた。一瞬、警察か救援隊かと思ったがどちらとも違う、一体何者だろうか、見慣れない服装だ。


「ええ、なんとか。本当に超能力があってよかったと思いましたよ」


 "知らない人とは話しては行けません"とは、子供に限らずこう言う治安の悪い地区では大人にも該当する。一応心配してくれているようだから、答えはするが適当に返しておこう。

 僕の全身を舐め回すように見るその人物は何やら手帳のようなものにメモをし始めた。


「本当に怪我はないようだな」


「ああ、パトロールお疲れ様です。失礼します」


 もう帰らなくては、まあまだ帰ってもばれやしない。結果的に帰るのがいつもとさして変わらぬ時間だし、食料は僕が身につけていたので超能力の範囲内で無事だった。


 僕は結界を自由に貼れる能力を持っている。今回もレジカウンターという遮蔽物がなくとも僕が傷ひとつなかったのは物理障壁を展開していたからだった。


 レジカウンターがあっても店主もろともパン同様に飛ばされていただろうが能力で店主を守っただけあって傷一つなかった。肉体的にはなかったが店が爆破されたせいで店主のメンタルは傷だらけだった。


 超能力の効果範囲は熟練度が上がるほど自由になる。子供の時は自分の肌にしか展開出来なかった障壁もパーソナルスペース……ようは自分だと認識している範囲を広げ服やカバンまで広げることで今回のような爆発にも対応できる。攻撃から身を守れても服を守れないのはギャグ漫画だけで十分だろう。


 とは言ってもパンを自分の一部と認識していなかったせいで粉々になってしまったが。


「おい、待て」


 僕が謎の制服をきた男と別れ屋敷の方角に足を進めた時、後ろから呼び声がかかった。


「はい?どうかされましたか?」


「お前はさっき建物から出てきたようだが、誰かまだいるのか?」


 ああなんだそういうことか。なんで誰かいるかなんてわかったのだろうかとふと思ったが、爆破されたとはいえ壁に取り付けられていた店の看板は健在である。ならばどう見ても何かを売っているようには見えない僕が店らしきものから出て来れば、ああ従業員とかいるかなと容易に想像がつくだろう。



「ええ、一人おりますね」


「何故さっき言わなかった?普通、中にも人がいるから見てほしいとか言いそうなものだが」


「そこ、店なんですよ」


「そうだな、見ればわかる」


「私もこの有様ですから居合わせた身として汚れた現場を片付けようとしたのですが、店主が精神的に参ってしまいまして一人にして欲しいとの話をうけて出てきた次第です」


「ほう、だが少し見たところ酷い有様だ。怪我くらいしていても変ではないか?」


 なんだろう、めっちゃ突っ込んでくるな。もしかして怪しまれてるのか?刑事の勘という奴だろうか。そんな統計学舐めてる馬鹿馬鹿しい直感みたいなもので犯人扱いされては溜まったものではないな。


「いや、無傷ですね。私の能力で店主もお守りましたので。いやぁ、突然のことだったので間に合わないかと思いましたが守れてよかったですよ。本当は店も守れたらよかったのですがそちらは間に合わなかったようです」



「……能力について聞いてもいいだろうか」


「まあ、やましい事もありませんし。私の能力は"重力操作"です」


 能力まで聞いてくるなんて相当怪しまれているみたいだな。しかし自分の能力を人に見せつけたり、ご丁寧にも本当のことを教えるとでも思っているのだろうか。当然、重力操作など言う能力ではない。だが何だってこと無いように当たり前のように答えてやれば怪しまれることはない。


「…………」


 特に怪しんだ様子はなく、単に事件現場にいた僕を犯人か関係者か疑っているのだろう。そして続きを言えというように男はメモに書き込む手を止めこちらを見てきた。


「そちらの山岸ベーカリーでパンを購入してましたら後ろで大爆発が起きたものですから、咄嗟に能力を発動して店主の山岸さんと私の周りに物が飛んで来ないように力場を作り体を守ったというところです……それで、まだ何か聞きたいことでもあるのですかね」


「さっきからソワソワしているようだな何を急いでいる」


「仕事ですよ。これから仕事に行かなくてはいけないのです」


「こんな時間から?」


「何もおかしい事はないでしょう。貴方達だってこんな時間にパトロールをしているわけですし、こんな時間から仕事がある私がおかしいですかね」


「ご職業は?」


「…………」


 困ったな。仕事自体はやましいところは何もない。だがお屋敷で働かせてもらっている話はよろしくない。あの屋敷は外に閉鎖的だ。僕が屋敷で働いているといえば、屋敷についても突っ込んでくるだろう。主人も人助けは歓迎しているが内部の情報が漏れるのを気にしてらっしゃる。すると自分が今一番答えるにふさわしい職業は……。


「フリーターです」


「さっき言い淀んだようだが」


「私もいい歳です、親にはさっさとまともな職業につけとどやされてまして。何というか自分がちゃんとした職業に着かずこんな時間から外をうろついているのが恥ずかしくなりまして。それで……まあ何というかその」


 職業だって嘘だ。言うわけがない。いかにも警察のように事情聴取をしてくる相手だが、いつ彼がそんなことを言っただろうか。そう、もしかすると犯人かもしれない。そんな相手に真実など教えてやる必要はない。


「フリーターだといい淀んだわけだな?」


「そうです、そうです」


「ならもう少し話をしていってもいいんじゃないか?」


「いえいえ、フリーターといいましても仕事があるのです。正規の仕事と違いまして一度遅れたりなどしますとなかなか次を探すのが厳しくなってしまいますから……ですので帰ってもよろしくて?」


 男は眼を瞑って何かを考えた後、無言で頷きメモをしまった。フリーターというのはわからないが、彼らの実情を描いたノンフィクションドラマは見たことがある。にわか知識だがこの程度の文言ならば誤魔化せるだろう。


「時間をとらせて悪かったな、帰っていいぞ」



 素人か。なんだ突っ込まれなかったな。まあいいか、やっと帰れる。"じゃあ、お疲れ様でした。"そう言って立ち去ろうとした僕の進行方向を立ち塞がるように脇道から全身黒尽くめで男か女かわからない人間達が雪崩れ込んできた。


「動くな!」「動いたら人質を殺す!」

「応援も呼ぶんじゃねえぞ!」


 チンピラのような口調で六人ほどの男女が立ち塞がった。甲高い声もある、女だろう。まあ、思春期を過ぎる前の男という可能性もなくもないが。

 さっきまで話していた白服の男は明らかに動揺した様子で、尋常じゃない汗をかいていた。


「くっ、卑怯な……!」


 また面倒ごとか……黒服達は物騒なことを言っているようだからあの爆破を行ったテロリストと見ていいだろう。そんなイカレタ犯罪者に卑怯もクソもあるだろうか。今日は本当に付いてない。お気に入りの店は爆破されるわ、そのせいで不正な資金の利用がバレる危険性が出るわ、変なやつに職質されるわ、終いにはテロリストだって?


 人質だかなんだか知らないがまさか僕に用があるわけでもなかろう。

 黒尽くめの集団の脇を通って帰ろうとした僕の前に突然、長剣が振り下ろされコンクリートの地面を傷つけた。


「おい、逃げるな」


 まさか人質とは僕のことではあるまいな?

 全身黒尽くめというふざけた格好に剣や槍と言ったイカレタ装備をした連中が僕を挟むようにして白服の男を囲むようにして立ちふさがる。

 白服に怪しまれ余計な時間を食ったというのに今度は黒服か。全く馬鹿馬鹿しい。勝手にやってくれ、僕を巻き込むな……と言いたいところだがそうは言っても何処かへ行ってくれそうな気配はない。



 何度も呼び止められどこかストレスが溜まっていたのか僕の中で何かが切れるような音がした。立ち塞がるものは蹴散らしてもいい。今まで思ってもやることがなかった、その家訓に従い始めて暴力を振ることになりそうだと僕は思った。





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