7 努力の意味
クラスメイト全員で円陣を組む。ぼっちの自分も円陣を組まなければいけない。あまりにもやりたくない団結方法だ。本日三回目である。
「一位なら、優勝だ!全員一丸となって頑張るぞ!!」
「「「おーー!!」」」
体育祭の終わりも近づき、最後の全員リレーが始まる。一位ならば学年優勝らしい。一人、半周の100メートルを男女交互でバトンを繋いでいく。アンカーは自分だ。しかも、アンカーは一周分走る。さすがに、もう目立つ走りはやめよう。全校生徒に見られるのはまずい。話題になるのも面倒だが、前回以上に無理をすると心臓へのダメージが大きすぎる。
「しっかり、誰にバトンを渡すのか確認しておいてくれよー!」
選手名簿に生徒が集まる。
「あれ、誰からもらうのだろう?」
そう言えば、誰から受け取るかわからないな。
「私が絶対に想介に渡すから、一位とってきてね!!」
結衣が笑ってくれる。逃げた自分に話しかけてくる。話しかけられるのがこんなにも、怖いことになっている。
また、逃げてしまった。もう、嫌だったから、
入れ替わりで王雅が結衣に話しかける。
「一位で渡すが、あまり気にするなよ。」
「プレッシャーが重いです!
そっか、王雅なら、安心だね!でも私のせいで負けたらどうしよ。しっかり走れるかな?」
選手名簿を見ると、王雅ー結衣ー想介の順になっている。どの順位で回ってきてもそのままの順位でゴールしよう。あからさまに、手を抜いて、バレた時の言い訳を考えておこう。
半周なので、選手は二箇所のところでバトンを繋ぐ。生徒は二手に別れる訳で、俺の前には、二つ前の王雅がいる。
「なぜこの順番にした?」自分が最も最悪に思える並びなので、文句をつける。
「単に、想介にアンカーをやって欲しかっただけさ。順番決めのとき、結衣と楽しそうに会話していた腹いせではないよ。」
「自分にもう、関わるな。」
「勝つまでは絶対いるさ。」
「次があるとは限らないけどな。」
「また、想介に勝負を挑むよ。待っててくれ。」
スタートの合図がなる。
「さあ、応援しよう!」
「この全員リレー、想介が本気を出せば優勝できるぞ。」
「もう本気では走らないし、勝負した時の50メートルで目一杯だ。これ以上の距離を走ると死ぬんだよ。」
冗談みたいな声で言った。本当だと言っても信じないのだから。
「感情は力だよ。想介なら走るさ。」
思い切り王雅の服を掴んだ。思考が止まり、体だけが動いていた。その言葉は、何よりも重いぞ。
「おい。いつ聞いた?」
「怖いなー。たまたま出た小学生大会で俺に勝ったやつだよ。知り合いか?」
「小学生の時か。すまなかったな。知り合いを探していてな。現在は10歳くらいだろうが。」
「は?どういうことだ?」
ここからは無視した。最優先事項の手がかりになると思ったが。
「さあ、そろそろ行ってくるよ。」
王雅がバトンを受け取ると、ビリだったクラスが追い上げる。外から見ると想像以上に速い。いや、前回の勝負から相当な練習をしているのだろう。負けたままでは終われないタイプが丸見えだ。バトンゾーンに入るときには2位になっていた。
次の走者の結衣がバトンを受け取り、走り出す。速いとは言えないが、しっかり練習した走りだった。僅差だが一位になることはできないが差があるので3位以降に落ちることはないだろう。
まあ、結衣は一位になりたかったと気負うかも知れないが。さすがに今回だけは、本気を出す訳にはいかない。