5 失う意味
昼休みが終わる頃には、結衣はだんだん女子生徒との会話に慣れているように見えた。
「誰かのために生きたい」
そんな思いを行動することができたんだ。悠花とレコーダーはなんて言うだろうか。褒めてくれるだろうか。自分にどんな生き方をしてほしいのか。生き残った意味はなんなのか。まだ、わからなかった。
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午後の時間を使って、体育祭の種目決めをやることになった。全員が出場する種目は大縄、全員リレーだった。あとは任意の参加であり、参加するつもりはない。
「想介は足が速いから羨ましいです!私全然だから、リレーとかやりたくないです。」
苦笑いしながらも、笑顔が溢れている。昼休みがよっぽど嬉しかったらしい。
「リレーは長いしな。」
「そうです。こんなに長く走れませんよね。クラスの足手まといにはなりたくないです。」
ため息が溢れている。女子だからそこまで気を揉む必要はないだろう。
「まあ、頑張って走れば、みんな分かってくれるだろう。」
「分かりました!
これから毎日、走っておきます!!」
「張り切りすぎだ。」
ここまで体育祭に熱意がある生徒はなかなかいないだろう。意味のない会話をしているうちに、リレーの順番が決まった。
先日の50メートル走の結果をもとに、
女子は速い人から先頭に
男子は遅い人から先頭に交互に並ぶ。
司会進行をやっていた王雅がひどい笑顔をしている。
「アンカーは想介だ!クラスのために頑張れ!」
拍手などいらないと思った。
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次の日の昼休み、自分の机に隣の机がくっついていた。結衣は新しい友達と食事をすると思ったんだが。
((最初から上手くはいかないか。))
あの時だって、友達を作るのは大変だったからな。
結衣に友達を作ると決めた以上、もう少し頑張ろうと決意する。
「なあ、クラスの女子と友達になれたか?」
残酷な質問だが、次に繋げるためにも理由を知っておきたかった。
「おかげさまで、クラスの女子とは友達になれたと思います!!」
「友達と呼べる段階その2、相手の名前をお互いに覚えている!
に当てはまるのですから!!」
「じゃあ、その女子生徒と食事してこい。」
「えっ。で、でも、今日は、想介と食事したいんです!」
「昨日話せなかったことや新しい友達について話したいことがいっぱいあるんです!!」
隣に座った結衣は笑顔で訴えてくる。
「なぜだ。自分は独りでいいんだ。」
そうだ。独りがいいんだ。
「結衣には、新しい友達ができた。これからはその友達と昼休みは一緒にいろ。友達と一緒にいた方が楽しいし、結衣のためになる。」
声が尖っているのが自分でも分かる。
でもこれでいい。
「で、でも、私は、」
「だから、想介も一緒に、」
声が小さくて聞こえない。
聞く気がない音は聞こえないものだ。
「独りは、怖くて寂しいです。」
もう、自分には届かないはずの声が鮮明に聞こえた。
((ぐっ!))
心臓が痛い。何かが刺さる、刺さっていく。
「大丈夫だ。同情はいらない。自分のことは忘れてくれ。」
「でも、、、」
「初めから、自分は結衣の友達じゃない。もう話しかけてこなくていいぞ。」
くっついていた机を離した。結衣を遠ざけたんだ。
ずっと前から知ってる。
独りは怖くて寂しいって。
誰かといたい。
そばにいてほしい。
ずっとそう思ってた。
「独りは辛いのかも知れない。
けどな、友達を失ったときが、一番辛いんだよ。」
この時から1週間以上、結衣とは会話をしなかった。