2 独りの意味
『喜怒哀楽 感情は力だ。』
声が甦る。
絶対の感情を持つことで、普通の人間にはない 『力』に覚醒していく。「覚醒者」と呼ばれることになる人たちのことだ。
その中でも、運命を変えられた人間は『革命者』と呼ばれる存在になれた。
当時、中学生であった自分たちは、現実味のない仕組みにワクワクしていた。
そう、マンガのような日々だった。人間にはできないことができた。誰かを救うことだってできた。頼りにされる強い存在になっていた。
そう、最初は楽しかったのかもしれない。
嬉しかったんだ。
頼ってくれることが、、、
自分の存在を必要とされていることが。
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理由もなく、人間は「力」に目覚めない。
薄々、理解していることだった。マンガだって、戦うために「力」を使うのだから。
苦難を乗り越えて、勇者や英雄になれるのだから。
地獄はすぐに訪れる。
初めて人を殺した。
「英雄には義務だったのだ。」
「力」を出せば、一瞬の出来事だった。何事もなく、死が転がっていた。
自分達しか戦えない。
「力」を覚醒させた人に戦うことは絶対であり、多くの人が殺して殺して殺して、死んだ。逃れることはできない力となった。誰もが、必死に生きたいと戦った。
『普通の人生を送りたかった。』
声が甦る。誰が言っていたのだろう。
地球を守るとかいうふざけた戦いは、中学卒業と同時に終わりを迎え、100人以上の地球を救った英雄達の存在は空へと消えた。最後の聖戦で自分も死ねると思ってたが、最愛の人だった悠花の命と引き換えに生き残ってしまった。
なぜ、自分に心臓をくれたのか。
なぜ、自分だけが生き残ったのか。
教えてくれ。
『『あなたならどう生きていく??』』
最後に残った英雄は、覚醒した全ての 「力」を失った。証がなくなった普通のどこにでもいる人間となった。
大好きな人の心臓で。
マンガのような英雄はいなかった。
マンガのようにハッピーエンドで終わらなかった。
それでも懸けてくれた命を無駄にはできない。
三年間の全てを亡くした自分が、絶望を胸に高校生生活を始まる。
「これは、
生きている意味を探す物語だ。」
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「英雄はいない。」
普通の人間に戻った自分がいるだけ。
桜を見ることなどもうないと思いながら戦った聖戦からおよそ1ヶ月が経ち、自分 参宮 想介は入学式を迎えた。
流されるがまま、式を終えて教室へ戻る。
高校は義務教育ではないため、自身が選んで進学する。そのため、仲の良かった友達が少ないのが普通だ。その結果、教室では友達を作ろうと話す人、仲の良い友達と会話している人、様々な不安と期待が人を動かす。それもそのはず、最初の友達作りが楽しい高校生活をスタートできると思う気持ちが同じだからだ。
3年前の自分も同じ気持ちだっただろう。あの時も友達を作るのに必死だった。自分も会話に混じり、高校生として新しく友達を作れれば、いいスタートが切れるだろう。
新たに違う自分として振る舞っていくことができるはすだ。
それでも生き残った自分が、全てを忘れて生きていくのは無理だったと思う。
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だから、自分に友達を作る資格も理由もない。
それに、人として生きていくにはあまりにも失い過ぎた。もう友達がほしくない。大切な人に死なれるのは怖かった。そもそも、なぜ生き残ってるのかもわからないのに、高校生になったのだから。
今ここにいる理由は、一つ。
「懸けてくれた命を無駄にしないことだ。」
呪いのように自分自身が言っているようだった。
『いつだって、人を動かすのは心だ。』
声が甦る。
守れる、変えられる、いう思い上がりが原因だったのかもしれない。
仲間を全て失った時に気づいた。
同じ誤ちを繰りかえさないためにも、独りがいいんだ。
教科書を読んで先生が来るまでの自由な時間を過ごす。あちこち、自己紹介をしながら友達を作ろうと賑わっている。だが、そんな生徒たちとは違い、窓に向かって話している隣りの席の生徒がいる。外から見れば、危ない人であったが、隣の席なので緊張と不安で震えているのが伝わってくる。コミュニケーションが苦手な生徒も中にはいるのが当たり前なのだろう。自分はと言うと、1番後ろの席で教科書を読み、人に話しかけて欲しくない雰囲気を出していた。
先生が来るのと同時に生徒が席に戻っていく。ホームルームを聞きながら、始まった高校生活について考えていた。
もらった命を無駄にはしない。だが、どうすればいいか全くわからないでいた。一体、自分に何ができるというのだろう。
『誰でもいい。
生きる意味を教えてください。 』
大半を説明で終わった入学式の日は、大雨だった。
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早いもので、数日後のお昼では、生徒それぞれがまとまり始め教室や食堂で昼食を始める。教科書を読んで勉強していれば、数人しか話して来なかったのがここ数日である。狙った結果なので文句はない。
すぐに独りに慣れていくのだろう。
ただ、一つ問題が浮上してくる。どうやら、このクラスでぼっちをやっている生徒は自分と隣の席の女子のみとなったことだ。それにより、自分から話しかける気は全くないが、隣の女子は話しかける気満々だったのだ。ぼっち同志なので、話しかけやすいのだろう。先程から何度も窓に向かって会話練習しているのが丸見えだ。
「あ、あの、こんにちは!!」
息が上がっており、頑張りようが伝わるが、返事はない。向かい合っているのは窓である。そもそも、掠れて声が出てないので、他の生徒にも伝わらない。
だが、嫌になるほど理解することもできた。
三年前の自分にそっくりだったから。
あのときの自分は、引っ越ししてきて誰も知り合いがおらず、友達がほしいという不安と孤独感で胸がいっぱいだった。
誰かが、声をかけてくれたが嬉しかったのを今でも覚えている。あの時に変われたんだ、、、
何もなかった自分から。
今ここで、話しかけることはできる。
だがーーー、
『お前はもう人じゃない、バケモノなんだ。』
声が甦る。初めて人を殺した時か。あいつは嫌いだったが、事実を言っていた。
ーーだが、自分にそんな資格はない。短時間で食事をとり、教室を出よう。最悪なのは、話しかけれて付き纏われることだ。教室を出てどうしようか。まずは、独りになれる場所を探すのを考えるか。ずっと独りが嫌いだったのにな、、、
皮肉にも、独りになろうとしているのか。
よし、食べ終わった。お腹が減り過ぎていたので、できるだけ抜きたくはなかったのだ。
「あの!!一緒に食事しませんか!!」
隣にいたはずの女の子が目の前に立って叫ぶ。
気づがなかったので、驚きを隠せない。いきなり、叫ばれるのは心臓に悪い。
教室にいる誰もが振り返る、驚くほどの大きな声だった。気迫がのったいい言葉だった。
「、、、、いいよ、、、、」
誰もが唖然とするなか、理解が追いつかず反射的に了承してしまった自分がいたのも事実だった。
『『ーーーバケモノだよ、人を殺すのは。ーーー
意思が弱いんだよ。ーーー
独りが怖いんだろ。ーーー
また、殺すのか???』』
頭にノイズが走る。
みんな、、、ごめん、ごめんなさい。
お願いだ、やめてくれないか。
『大丈夫!私の信じる想介だから!』
声が甦る。何度も勇気をもらった声で落ち着きを取り戻す。
誰かと関わるのはやめようと、決めていたのに。自分の決意が弱すぎて嫌になる。
何も言ってないのに素早く、机を隣り合わせに移動して、お弁当を食べている女子は嬉しそうだった。笑顔が溢れて止まっていない。
「今日はいい天気ですよねー!」
決めておいたようなセリフをいいながら、笑顔を見せてくる。
よっぽど、練習を重ねてきたのがよく分かった。さまざまな話題を提供してきてくれる。
それなのに、本当に申し訳なかったが、会話に反応しないで無視しようとする。声をかける相手が悪かったと思ってほしかった。あなたの度胸なら、次こそは、大丈夫だと心から念を送った。
無視を続けて、お帰りになってもらおうとすると、涙がこぼれていく。
「あはは、面白くなかったですよね。」
顔が乾いていく。輝きが失われていくのがはっきり分かる。
「私って変な人ですよね。
人として関わりたく無いですよね。」
「すいません、すいません!
人間の才能がないですよね。」
「もう、友達作ることやめますね。」
((まずい!!自分の行いのせいで、暗い学生生活を送るのは阻止せねば!!!))
無視して、1分でこんなにもネガティブになるとは。想像以上にこじらせている。中学校でも友達がいなかったタイプだろう。
無視したのは自分だが、努力してきたこの生徒には明るい学生生活を送ってほしかった。
考えろ。とりあえず、勇気を取り戻してもらおう。とっさの会話で繋ごうとする。
「いや、すまない。まだ、名前も聞いていない子と話すのは気が引けてしまってね。
もしよかったら、教えてくれないか?」
満開の笑顔になっていく。なんとか、持ち直せそうだ。
「はっ!!そうでしたよね!緊張で忘れてました。自己紹介が最初ですよね!!
藤原 結衣と申します!
ふつつか者ですがよろしくお願いします!」
「はい、ありがとう。
自分の名前は三宮 想介。
よろしく、敬語じゃなくて大丈夫だよ。」
「わざわざ、私に時間を割いてもらっているのに、つまらなかったらどうしようと思いました。何度も練習したのに、自己紹介を忘れてしまうとは。とても反省します。」
「大丈夫。次は肩の力抜いて会話できるように頑張ってね。」
「はい!!ところで、差し出がましいですが、下の名前で呼ばしてもらってもいいですか??」
「いいけど、理由は何かあるの??」
「はい!!この本に
(Step2!下の名前で呼び合う仲になろう)と書いてあるので、、、
もし、よろしければと思いまして。」
<<初めての友達作り>>と書いてある本の表紙を見せてくれる。
こんな本を買う人はいるのか、、、
「いきなり過ぎですよね、、、」
もう関わらないように誘導したかったが、断れる雰囲気はなかった。
「私のことは『結衣』って気軽に呼んでいただけると嬉しいです!!」
話の流れが変わって持ち直せたのはよかったが、予鈴のチャイムがなるまで結衣の会話は止まらなかった。
友達を作る気はなかったのにな。ため息と後悔が後からやってくる。
持ってしまったら、失ってしまう日が来ると知っているのに、、、
<独り>
で生きているという、自分の弱さがそこにはあったのかもしれない。
どうすればいいのかわからなくなる。
誰も助けてくれない。
誰も支えてはくれない。
自問を続ける。
じゃあ、結衣との会話は不正解だったのか。
過去の回答は変えることはできないというのに、悩んでしまっていた。
それでは、自分の三年間に意味はあったのだろうか。
誰も守れなかったあの戦いに、、、
『誰かのために生きたいんだ』
声が甦る。
底のない優しさで人を変えことができる女性がいた。悠花≪ゆうか≫という最愛の女性だった。どんな争いにも割って入ってくる勇気があった。何もなかった自分を愛情で造ってくれた。全てをくれた。今の自分は悠花の意思で生きている。返しきれないほどの思いと恩があるからだ。
だからこそ、幸せに生きてほしいと願った。そのためなら、死んでいいと戦った。
心臓を貫かれたとき、やっと終わったと思えた。守れたんだって。
夢を見ている間にホームルームが終わり、生徒の波に乗り、気づかれずに帰る。
『生きて』
声が甦る。
優しい声だった。三年間何度も救われた声であり、最後の言葉だった。
その人の心臓と引き換えに命を繋ぎ、独りで最後の敵を倒した。なぜ、自分を生かしてくれたか分からなかった。
独りで生きても意味がないのに、、
懸けてくれた命で自分はーーー。
帰る時間帯には、雨が降っていたので、傘をさした。