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一歩

ソウくんは普段お話しないから口調や一人称が定まらないぞ!引きこもりあるあるだぞ!

「あんた馬鹿だねぇ」


そう俺に声をかけるは衛兵さん。


「すんません」


俺は田舎者っぽい口調で答える。


「金も持たずに街に繰り出すとはねぇ」


「いやぁ面目ねぇです」


「この街で無銭飲食なんて久しぶりだよ。ホント」


「へぇそうなんでございやすか。またなんで珍しいんでしょう」


「うん?そりゃあこの街のすぐ側に鉱山があるからさ。それに傭兵ギルドもある。食うには困らん街だよ。お前は何しに来たんだ?」


「傭兵になりに。ちょっとばかし腕っぷしには覚えがありやして」


「ふうん。ま、午後には釈放だ。がんばりなよ。……ってお前登録料金はどうするんだ?」


「登録料金?」


「そうだよ。傭兵になるのにも金がいる。まぁ小さい額だがね」


「うーんこりゃ困りやしたね。あっし、びた一文もねぇでもんで」


「はぁ……じゃあこれやるよ」


衛兵さんは俺に向かって小袋を投げつけた。


中身をあけてみると銀貨が四枚。


「衛兵さん、こりゃあ一体……」


「だから、やるよ。それで登録料金は足りる筈だ。これも何かの縁だろう。じゃあな」


「え、衛兵さん!衛兵さーん!」


そして衛兵さんは廊下の向こうに消えていった。手をヒラヒラさせながら……。


いや見張ってろよ。勤務時間中だろう。カッコつけたがりかい。


お金は素直に嬉しかったので言ってやらないこととした。


暫くして外につまみ出されると、そこには当たり前のようアヤがいた。


「え、お前ずっとここに居たの?」


「違う」


「どこにいたの?」


「屋根の上」


「そうか」


わからん。


まぁ、良い。逃げ出さなかったのは『マーカー』を付けてたから知っている。『マーカー』に気づいていたのか、なんらかの理由があるのか知らないが逃げなかった。それは褒めるべきだろう。


「逃げずにいて、偉いな」


一瞬躊躇した後、どうせ嫌われてるだろしと思い頭をくしゃっと撫でてやった。


「……」


さ、さぁ!よし!


「傭兵ギルドに行くぞ!」


場所はどこかしらん。


またしても道行く人に話しかけ『極彩龍の逆鱗』と交換で手に入れた情報によると、この建物が傭兵ギルドらしい。


よーし。


ギィー。カランコロン。


扉を開けると中にいる人物達全員の目が向けられた。


き、気にしない気にしない。自意識過剰なだけ。受付に歩いてゆく時もすごーい見られている気がするがこれは気のせい。


「俺とこの娘のぼうけ……傭兵登録をお願いします」


受付のお姉さんに言うと、「ハ、ハイッ」と返事をされた。心なしか顔は赤い。仕事になれていないのだろうか。緊張しているようだ。


「あ、あのこちらの用紙にお名前、ご出身などをお書き下さい」


紙を渡される。ごわごわしていて質が良いとはとても言えない。ペンも羽根ペンであった。


「すみません。代筆して貰っても宜しいでしょうか」


「はい。もちろんいいですよ」


お姉さんに紙とペンを渡す。


「お名前は?」


「ソウ、と申します」


「ソウさんですね。ご出身は……」


いくつか質問が続き、同意書にチェックを入れる。


「はい。以上ですね。それではこちら、緑バッチを付けて頂き完了となります」


渡されたバッチを俺とアヤは胸ポケットに留める。


「おめでとうございます。これから貴方はアクターン傭兵ギルドの傭兵になりました!ルールをまもって安全に気をつけて、日々弛まず努力していきましょう!」


輝かしい笑顔だ。なにか毎日の楽しみを見つけたような……。


「おいおい兄ちゃん」


「うん?」


振り返ると人相の悪い四人組が近づいてきた。


「良い女連れてんねぇ。取り敢えず今晩貸しな」


リーダー格の男が気の触れたことを言い出した。


え、何言ってんの?ヤバくない?日本だったら即通報もんよ?この異世界ではどうなんかなーと辺りを見渡すと、全員が目を背けた。


まじか。これ黙認してんの?今までも何度もあったの?


なんだよそれ。クソ程腹たってきた。


「あれれーどうちまちたかー?ビビってチビっちゃいまちたかー?」


子分Aが煽ってきた。


あーなんだこれ。もう乗っていいよね?喧嘩買って良いよね?


「おい。さっさと渡せよ」


子分Bがアヤに手を伸ばした。


はい!喧嘩買います!


俺はその手をそっと受け止め、拳を包み込み、握り潰した。


「ぎゃああああ!!」


「うわっいつの間に」


「やりやがったなてめぇ!」


リーダー格が俺に殴り掛かる。勿論握り潰す。


「ぎゃああああ!!」


二声目、頂きました!


「ちょ、こいつやばいって。おいお前ら見てねぇで助けろ!」


その声に動くものはいない。


彼らの目には期待の色があった。そうか。今まで居なかったんだな。彼らに逆らえたやつが。


街一番の実力者ってところなんだろう。こんなのが一位とか終わってんなこの街。


あーつまんねぇ。クソ程つまんねぇよお前ら。


「傍観者気取りのテメェらつまんねぇー!どうせ心ん中で仕方ないだとか言い訳並べて慰めてんだろ!残念だったな!それも今日まで、俺が答えを言ってやるよ!お前ら全員共犯者だ!こいつらの子分みたいなもんだよ。犯罪者だ犯罪者!胸糞悪ぃことしやがって。やんならもっとましな犯罪やれよ!例えばこういう、な!」


俺は子分AとCと握手した。


「「ぎゃああああ!!」」


「あークソが。テメェらが問題を放置したせいで俺はまた道を踏み外しちまったぞ。不快だ。これまで被害にあった奴らのこと考えたら今晩は鬱だぞ」


もう一度辺りを見渡す。良かった。恐怖もあるが、期待の色は消えていない。


「よく聞けテメェら!クソザコなお前らはすぐには変わらない。今まで変われなかったんだからな。でも諦めんな!一歩踏み出せ!小さな一歩出良い。それでも怖けりゃ足並み揃えていっせーのだ!一人で抱え込むな!共有しろ。怒りを、憎しみを共有しろ!そうすりゃクソザコでも気づける。俺達は大きな力を持ってるんだってな。変われる力をもってるんだ。だから、一歩踏み出せ!」


俺はどこからそんな声が出てきたのか分からないくらい大きな声で、叫んだ。


そのあとのことはよく覚えていない。気づいたらヤプー食堂で酒を飲んでいた。酒とか初めて飲むんだが。既に三杯空いてるんだが。


アヤは俺を心配そうに……見てねぇな。あれ以来ずっと無感情なままだ。こいつのことはいい。心配しなくても多分死なないし逃げない。


俺の方は。


「恥ずか死にたい件について」


我が人生に過去最高の恥ずかしい出来事が蓄積された。「俺の人生展」があったら絵画にして飾るくらいの出来事だね!やったね!


かといって後悔してるかと言われるとそういう訳でもない。なら良いのかね?


「うーん。ふぬーん。ぬーん」


机に突っ伏して唸るだけの生き物と化した俺がいた。


「全く、はた迷惑な客だねぇ。昨日は無銭飲食、今日は大酒飲み。心配させんじゃないよ」


「すまねぇおばちゃん」


「お嬢ちゃんもこんなの見捨てていい男見つけな?面食いならこれ以上ないのかもしれないがね。ハッハッハ」


「……」


「はぁ。こっちもこっちで心配だねぇ」


おばちゃん、いい人。

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