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これからの道

ボロボロのロングドレスを身にまとった少女は身体は綺麗に再生され、寝息をたてていた。


気絶した時も寝息と言うのだろうか。まぁ寝息だ。


「なんだってんだ」


俺は世界一の為に殺す覚悟をしていた。筈だ。なのに直前になって怖気付いた。人の命を背負う重荷を想像したら、耐えられなくなった。


俺はどうしようもなく人間であった。


「それはこっちの台詞だ」


ん?


声のする方を見るとあの五人組が立っていた。


そうか。壁の時間が切れたのか。


「そこに横になっているの、魔王だろう。見たところ生きているようだがどうなっているんだ?」


こいつそういえばジョブが『魔王』だったな……。攻撃させなかったから忘れてた。


で、こいつらは勇者と。


どう説明するのがいいのか。取り敢えず正直に話してみる。


「簡単にいうと、俺にぶちのめされて気絶してる」


「そんなの嘘よ!」


シーフの女が叫んだ。


おおう。うるさいなぁ。彼女が起きちゃうじゃないか。こっちの心の整理もついてないうちに。


「嘘ってったってなぁ」


こうしてアヤフラッドが気絶して、俺が立っているのが証拠なんだが。


「それは本当なのか?」


大剣使いが尋ねてくる。


だがその顔には「嘘だー」と書いてある。


何を言っても変わらないだろう。頷くにとどめる。


「う、ううむ……」


大剣使いは顎にてをやり唸り始めた。


こりゃ結論でるのに時間かかりますかね。と、思ったら意外なところから援護が来た。


「あ、あのぅ今は誰がどうやったかより、魔王の処遇を決めるべきかと思いますはい」


ヒーラーちゃんがオドオドしながら言った。


鋭い指摘ありがとうございます。俺もそう思うよ。


ヒーラーちゃんにニコリと微笑みを返すと「ヒイィ」と怯えられた。なんでやねん。


「そ、そうだな。アーニャの言う通りだ。……俺はこのまま首を落とすのがいいと思ってる」


頷いたり「俺も同意見だな」などの声が上がる。


この意見に、残り四人は全力で賛成のようだ。


大剣使いはそれを見渡し、ひとつ頷くと俺の目を見据え、無言で訴えかけてきた。


なるほど。


この決定に俺はなんとも言えない。彼らがここに来るに至った経緯も葛藤も知らないからだ。何かしらの、人を殺すだけの大きな理由があるのだろう。


だが俺の答えはこうだ。


「ダメだ。殺させない。こいつは俺が連れていく」


「なんでよ!」


とシーフ女。


「あ、あなたにも理由があってそうするのだと思います。でも今魔王を殺さないときっと逃げられてまたたいへんな被害が出ます」


とヒーラーちゃん。


「あーどうすっかなー。くそ」


と大盾使い。


「私たちは大陸全ての国から魔王討伐を委ねられた勇者。渡してほしい」


とロリ魔女。


無言でお前を殺してでも魔王を!と訴えかける大剣使い。


それらを聞いても、「ふーん、それはあなたの感想ですよね」としか思えない。


こいつを殺す奴が世界一だ。世界一は俺でなければならない。だからいつか、少女を殺せるようになったら俺が殺すのだ。それまでは俺が預かる。


「あー察するにこいつを無力化出来ればいいんだろ?なら俺が見張っとくから。絶対殺しなんてさせない」


「そんな言葉信じられるか!」


「彼女は多くの罪を犯しています。犯しすぎています。もはや死以外の道はありません。お願い、分かってください」


言い方は全然違うが前者も後者も言ってることは同じだ。全く信じられてない。


これ以上の問答は無用か。失敬しよう。


「まぁ今分かって貰おうとは思わねぇよ。俺ならこいつを御しきれる。それをいつか信じさせる。それじゃあな。『弾幕』」


「あ、待て!」


俺はアヤフラッドを小脇に抱え出口を飛び出し洞窟の中を走り続ける。


今度は目をつむらずしっかりとした足取りで。


二十分程進むと出口に行き当たった。俺たちを見て門番がたいそう驚いていたがそれを無視し適当な森の中へと逃げ込んだ。


「……」


俺は今、イベントアイテム『ハロウィーン・ハウス』の中にいる。


目の前には横になるアヤフラッド。


俺はようやく心の整理をつける時間を得た。


俺は世界一になりたい。世界一になることが生きがいだ。では世界一をめざしてない今の状態は?なんの為に生きている?死にたくないからか。死は怖い。では殺すことは?殺すことも怖い。きっと、殺して世界一になっても嬉しくないし、更に人間らしくなくなる。人間らしいとは何だ?社会で生きていくこと?社会不適合者は人間らしくないというのか?俺はそうなのかもしれない……。ではそれが悪いことなのだろうか。それは誰が決めた?


……。


どのくらい経っただろうか。


「んぅ……あら?」


アヤフラッドが起きた。


まず身体を確認し、顔を確認し、俺を見る。


「私、なんで生きていますの?なんで殺されてないんですの?」


「すまない。お前を殺すと、結果的に嘘をついたことを謝る」


俺は頭を下げた。


「そう……。いまでも間に合うわ。殺して頂戴」


「できない……」


「そう……そうなのね。……分かった」


「これからお前は俺と共に生きてもらう」


「分かった」


「人を殺すことを禁ずる」


「分かった」


「……アヤフラッド?」


「……」


応答がおかしい。まさか。心が壊れたのか?


「右手上げて」


ひょいと右手が上がった。


うーん、ちょっと分からないぞ。


俺としては大人しくなって万々歳なんだが、そこはかとなく不気味ではある。


「あー、怒っているのか?」


「……怒ってない」


うーんわからん!


仕方ない。それは一旦置いといてこれを聞いとこう。


「アヤフラッド、お前食糧持ってる?」


「持ってない」


さいですか。ピンチ!


腹が減って死にそうなので、人間の街に行きましょう!

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