特訓という名の作業
次の日。俺たち三人は武器屋?鍛冶屋?の前に立っていた。よくアニメなどで見る無骨な建物ではなく、小綺麗でちゃんとお金がかかっていそうな外観だ。
「失礼しまーす」
「失礼するのです」
「こんにちは。本日はどのようなご要件で?」
中に入ると若い男性店員がお迎えしてくれた。ニコニコしていてなかなか良い感じだ。
俺は答える。
「大剣と短剣を一つづつ欲しい。一番頑丈なやつを」
「了解しました。では師匠を読んで参ります」
そう言って店員改め弟子くんは店の奥に消えていった。
待つ間店内の武器を見て回る。大剣、短剣、槍、レイピア、刀、メイスにトマホーク……。
「……ふむ」
わからん。
しかし俺のアイテムボックスに入っている武器より遥かに弱いことは分かる。それらをフニに与えない理由は簡単。いらぬ注目を集めたくないからだ。街は歩くしギルドにも行く。絶対「お前には過ぎた剣だ」と言われて揉める。俺の中のオタク知識がそう主張するのだ。
しかし、俺もアヤも何も持たずというのもアレか。なにか買うか。弱い武器で縛りプレイも良いかもしれない。
などと考えていると弟子くんが師匠を連れてきた。
見た目はかなりいかつい……筋肉スキンヘッドだ。
「ようこそバルフの鍛冶屋へ。初見さんだよな?」
「ええ。本日はよろしくお願いします」
「礼儀正しい奴は嫌いじゃないぜ。早速だが、お前さん大剣と短剣が欲しいんだったか?」
「ええ。あと刀と槍も。頑丈なやつを」
「おいおいそんな買って大丈夫かよ。しかも種類がバラバラじゃねぇか。一人でそんな使いこなせねぇだろ?」
「あ、私が使うのは刀だけで、こちらのフニが大剣と短剣を。こちらのアヤが槍を使う予定です」
それを聞いた師匠(バルフ?)が固まった。
「お、おい。この別嬪さん二人に戦わせようってか?お前さん何考えてんだ?」
一応客である為態度には出てないが、目が怒っていらっしゃる……。客観的に見れば師匠が正しいか。俺もこいつらのステータスを知らなかったら戦わせない道を勧めただろう。
どうしよう。適当な嘘でもつくか。
「実はこちらの御方はさる高貴なる生まれの方でして、家のしきたりでモンスターを一定数倒さないといけないのです。勿論安全は我々が確保いたしますので危険はありません。ご心配をお掛けしました」
「あーなるほど。貴族様の決まりなら仕方ねぇ。いや、仕方ないですね。うちを選んでくれて光栄に思います」
「ああ、いや、口調はそのままで結構ですよ。お忍びということになってますのでね」
「そ、そうか?助かるぜ。よし!頑丈なやつ見繕ってやるよ!」
そんな感じて手に入れました武器達。それっぽい防具も買ったのでお金はかかったが、まぁ無くなればブルートに素材売ればいいだろ。
現在俺たちは街の外を歩いている。一人はダラダラと、一人はトボトボと、一人は無音で。
「おいおいフニよ。そんな顔すんなって。こっちまでテンション下がるわ」
「諦めて欲しいのです。だってフニは、これからフニは……!あと大剣が重いのです」
大剣はともかく。死(勘違い)を前にしたらそうなるよね。俺も死のうとした時はひどい顔してたもん。
いい加減だるくなってきたし、ここら辺でいいか。
「よし。全員ストップ。ここらなら森の近くで人目につかないし広さもある。特訓始めるぞ」
「はいなのです……」
てなわけで俺は魔法と同じ要領でイエロースライムを召喚する。
突然現れたスライムに驚くフニと無表情のアヤ。
「!?モンスターなのです!どうすれば……あわわ」
「おちつけ。これは俺が召喚したモンスターだ。つまり安全だ。スライムくんには申し訳ないが、これからお前の経験値になってもらう」
俺は諭すように説明する。
「……つまりフニはこれを倒せばいいのです?」
「そういうこった。そらその大剣でサクッといっちゃって!」
「分かったのです。えいっ」
小柄な体から放たれる弱々しい一撃がスライムを襲った!
「ぷぎゅう」
という可愛い断末魔を残してスライムは消滅した。あ、モンスターってこんなふうに消えるんだ。ゲームみたい。
「うむよろしい。では次だ。アヤよ。レインボースライム出せるか?」
「出せる」
お、おう。久しぶりにアヤの声を聞いた気がする。
「じゃあ頼む」
アヤは手を前に出し。
「いでよ、レインボースライム」
という詠唱?掛け声?を口にし、召喚した。
ふーん、この世界では掛け声必要なんだ。
「よし倒せさっさと倒せ」
「分かったのです。えいっ」
「ぷぎゅう」
スライムは消滅した。
「よし。これをレベルが三十になるまで続ける。モンスターはどんどん強くなっていくから覚悟しておけ」
「わ、分かったのです。れべる?とかよく分からないですが安全そうなので良かったのです」
「おけおけ。ほいレインボースライム」
「えいっ」
「ぷぎゅう」
が夜まで続きましたとさ。