フニ
俺達は執務室に置かれたテーブルを挟んで座っていた。ソファが気持ちいい。
「ご購入、誠にありがとうございます。こちら契約書になります」
スっと差し出される紙。
「申し訳ない。読み書きはできない」
「左様で御座いましたか。では私が代筆させて頂きます」
契約書が代筆で良いのだろうか?不安である。
支配人が契約内容やいくつかの注意事項を読み上げる。
『seventh heaven』には存在しなかった魔法、『隷属魔法』をかけると、奴隷は主人に攻撃することが出来なくなるらしい。更に主人が死ぬと奴隷も死ぬそうな。『隷属魔法』えげつないな。
過度な暴力行為や充分な食事を与えないことなどは法律で禁じられているらしい。奴隷といってもある程度の人権(人権という言葉はないだろうが)は守られるようだ。
「では最後に、隷属魔法をかけさせて頂きます。入れ」
支配人の合図で部屋の外に待機していたらしい従業員と可能性の獣が入ってきた。
「お二人、この針で軽く指を刺し、お互いの血を舐めて下さい」
言われたままにする。美少女に指を舐められた時、ちょっとドキッとしたのは秘密だ。
「では。『隷属』」
俺と彼女の心臓部が光る。その光は五秒ほど続き、消えた。
俺も奴隷持ちか。何故だろう。あまり実感がない。
「これで契約は完了で御座います。フニ、ご主人様にご挨拶しなさい」
「フニなのです。宜しくお願いするのです」
「チェンジ」
「ええっ!?」
支配人が驚いている。
しまった。つい……。
「な、何か粗相がありましたでしょうか?」
ない。ないが、「なのです」。「なのです」かぁ。俺、なのですキャラ苦手なんだよなぁ。
だからといってフニとやらを手放すわけにはいかない。
「いや、なんでもない。これが金だ」
「そ、そうですか。安心しました。……はい。確かに八十金貨、受け取りました」
「良い取引が出来た。礼を言う」
「こちらこそ。次来られた時は必ずお安くさせて頂きます。ありがとうございました」
支配人が笑う。それは最初に見せていた貼り付けたような笑顔ではなく、心からの笑顔に見えた。
俺も軽く笑顔を見せとく。
「ではさらば。フニ、着いてこい」
「は、はいなのです!」
支配人に見送られ館を後にする。向かうはまたしても服屋だ。
服はある程度整えられていたが、なんか気に食わない。獣人はもっと露出が多めでもいいと思う。差別だろうか?
店に入る。
「失礼する」
「おや!先程のお客人ではないですか。何か不備でもありましたか?」
「いや、それはない。この娘が着る服を見繕って欲しいのだが」
「そうでしたか!かしこまりました!少々お待ちください」
そう言って店主はバックヤードに消えていった。
待ち時間。フニとコミュニケーションを図る。
「おいフニ、自己紹介してみろ」
「はいなのです!フニ、十三歳、出身は言っちゃダメ、特技は裁縫、夜の方は未経験、なのです!」
人目もはばからず大声で言う。夜の方の意味分かってないなこりゃ。誰かに教えられたことをそのまま諳んじているな。
しかし出身に何か秘密があると。支配人も事情がなんたらと言ってた気がするし厄介事に繋がらなければ良いが。
「声が大きい。店の中では静かに。……俺の名前はソウ、傭兵だ。こっちはアヤ。殆ど喋らないがまぁ気にするな」
フニは俺とアヤを交互に見て、うんうんと頷いた。
こいつには傭兵と言ってしまったが昨日の件で追放だろうな。傭兵ギルドにも顔出さなきゃ。あー憂鬱だ。
「お前の顔みてたらなんかムカついてきた。殴らせろ」
「何故なのです!?それは奴隷保護法違反なのです!」
おお分かってんじゃん。教養はあるしちゃんと物申せる。わざと聞いてみて良かった。ホントだよ?
「ところでフニはモンスターを倒したことはあるか?」
「サラッと流されたのです……。もちろんないのです。犬を倒したことならあるのです」
「ふーん。それじゃあお前には、これからモンスター倒しまくって貰うから」
「え゛」
フニが絶望の表情をみせたちょうどその時、店主が帰ってきた。
「お待たせしました。こちらなどどうでしょう」
掲げて見せるは白のワンピース。
悪くない。
「よし買おう。それとホットパンツと丈の短いシャツが欲しい」
注文を聞くと店主がまた消えて、戻ってくる。
「こちらはいかがでしょう」
一言感想。短い!
「買った!」
俺がガッツポーズと共に購入を宣言すると、右腰につんつんとつつかれた感触がした。
「あ、あれをフニが着るのです?」
「当然だろう?よく似合うと思うぞ」
「あんなの着るのなんてち、痴女なのです!似合いたくないのです!」
「そっかー。へー。あ、このシャツも良くないか?」
「ご主人様の私の扱いが雑なのです……」
こうしてフニの服装は極めて涼しげなものになったとさ。