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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いまの「なろう」について思う事

作者: 銀次

 書くときは、読む人を楽しませたいと考えて書くのが正しいが、着想から完成まで、これと言って手応えもなく終わる場合がほとんどである。これは個人的な経験ではあるが、案外ものを書く人の多くが感じていることではないか。


 もちろん、それぞれ書き手なりに工夫して作品の精度を上げるわけだが、問題は書かれていることで、「自分が正しい面白いと思ったことが、必ずしも多くの人にとってそういうわけではない」という、あたりまえの理屈は、書く人に対して、読者と言うあたかも水蒸気の塊である雲のような存在への恐れを抱かせるには十分なのだ。下手を踏むと雷が振ってくるかもしれない。実際、たいして苦労もなく上げたものが意外な人気をえたりする。その逆もある。そういう中で頼りたいのは流行のテーマである。


 現代は、性欲や支配欲と言った最も低俗で根源的な欲求も他人の誘導のもとで満たしてもらう時代らしい。そういう小説が流行っている。そういう小説が読まれるということは、低俗事も誰か他人にお手本を見せてもらって共感したいという事だが、加えて「とりあえずすっきりして、明日も楽しく過ごそう」というテーマのみで成り立っている。こういうものを採用するのには勇気が必要で、公然としかも猛烈に反対を表明する人も多いわけだが、流行自体に積極的な要素よりも消極的な部分があることは留意すべきことのように思われる。この姿勢は内容面にも反映されており、一通り発散した後は、あれだけ酷いことをやって不幸を増やしておきながら、家なんぞを建ててそこで居ついて安定した生活を始めようとするのは典型的だ。そこに問題の根の深さを感じるのである。


 人は人生の夢を見るほど深く眠ることができない。人はひとりでに理想を作り上げてそれを追いかけることはできないが、各時代にあっては一定の様式として、理想のようなものが存在し、それを追いかけることが人生の意義として当然とされていたわけである。現代はそうなくなりつつある。インターネットの登場と個人主義の過熱、社会制度がそれを追うにしたがって、人々は徐々に多様性と自由を手にしたが、空前の思想的白紙を手にした人々はそれを持て余しているのではないか。その自由を再び常識として認めてほしいという潮流と封建時代の残滓の回顧(自由な社会を享受しながら)とが、同時にあるのがそのよい例である。どっちにしろ不安なのだ。


 一方で、性欲や支配欲と言った最も低俗で根源的な欲求は、おそらく人間が生き物をやめない限り持ち続けるもので有ると同時に、「とりあえずすっきりして、明日も楽しく過ごそう」と実用的でもあり実績もあるため、終わりなく流行っているのだろう。何が正しいかはわからないが、これが使えるとみんな知っている。日々増加し続ける苦しみや悲しみを一つでも多く減らすことを進歩と呼び、物質的な豊かさと精神の縛りを解放することで、それは完成するであろうと考えた。しかし、それは理想の混乱をもたらしただけであっただろうか。理想の混乱の末に、最も保守的な古代の楽しみにたどり着くというのは皮肉である。


 「自分が正しい面白いと思ったことが、必ずしも多くの人にとってそういうわけではない」。このサイトにおける反主流派、「個性」と「王道」を標榜する作家らは、もちろん積極的自由享受派である。しかし、彼らの苦しい言い訳がましい創作裏話(新語を作ってみたり、知識をひけらかして批判を黙らせようとしたり)が、現代の思想的苦しみをそのまま表すとは、もちろんあまりに高級な云いである。彼らは自分を守るのに必死なのである。

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