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忍び寄る者たち

参考


・『クトゥルフ神話TRPG』

・『クトゥルフと帝國』

・『クトゥルフ神話TRPGキーパーコンパニオン』

獣医になるのが夢だった。

更にはキャットドクターの技術を身に付けるため、アメリカへ留学すること。


神様は、そんな私に興味を持ってくれたらしい。中学生の頃、お祭りの景品として貰った宝くじで、高額当選した。

「お金は全ての扉を開く鍵」だ。その後の私は、地元の大学を通じて、渡米。


留学先は、ミスカトニック大学動物学部獣医師学科。教授のひとりが、しきりに勧めてきたので、私も大学選びを丸投げしてしまった。

今になると、教授には予知能力でもあったのかと。そもそも人間ですら無かったのではと思えてくる。


アメリカからの客員教授。コーカソイドの顔立ちと、ネグロイドの漆黒の肌を持つ彼を。


**********************************************


夏休み。日本へ帰省した私は、実家より先に、親友の元へ向かった。

津田彩芽。夢は果樹園経営。知り合ったのは、一回生の頃。学科は違っても、部活は同じ、フェンシング部。

「一回生の双璧」なんて呼ばれたのが、懐かしく思い出される。

けれど、空港へ降り立った私を出迎えてくれたのは、ひとりの男性だけだった。


長谷部圭司くん。友カレだ。この地元で生まれ育ち、農業の実習で訪れた彩芽と出会い、恋に落ちた。

歳は私達より2つ上。

中学出てから神奈川の全寮制高校。何年かは電気工事の仕事していたらしいけど、その後は、家業の金属部品製造の町工場の跡取り兼、ミカン農家として、帰郷していた。

白くて撫で肩だけど、弱々しい印象は無く、しなやかな痩せマッチョ体型と、整った顔立ち、そして気さくさが印象的な男の人。

けれども、2tトラックで乗り付けて来たけれど、降り立った彼は、ひどく暗い顔をしていた。

「よく来たね。千秋ちゃん」

「ひ、久しぶりだね。彩芽は?」

「ごめん……取り敢えず乗ってくれ」

彼は不自然な返事をした。なら、こちらは単刀直入に聞くしかない。

「ねぇ、彩芽に何があったの?」

彼はハンドルを握ったまま俯いて嗚咽し始めた。私は慌てて、助手席から足をのばしブレーキペダルを踏ん付けた。

「ああ……そこの病院へ入院してる。会うかい?」

舗装路がぬかるみ路に変わるあたりで建っている、古ぼけた建物を指差した。


個室の中で彩芽は、床を這っていた。手足を使わず。

「シーッ」

時々、長く鋭く息を吐く。眼を大きく見開き、瞬きもしない。

「……彩芽」

圭司くんは涙ぐみながら、床にかがみ込み彼女を抱きしめた。

「シュー、シュッシュー」

蛇の威嚇音は激しさを増し、彩芽は両腕をだらんと下げたまま、上半身の力だけで、彼の抱擁から逃れようとする。


私は自分と彩芽の名前を繰り返しながら、彼女の頬を撫でた。

彼女からは、何のリアクションも無い。


********************************************


「どーする? ウチへ泊まるかい?」

暗くなった道を走らせながら、圭司くんが聞いて来た。

「うん。この辺、蛇が多いよね」

ライトに照らされた道を、1mほどの蛇が横切って行くのが見えた。

「ヤマカガシかな? 大き過ぎるけど」

「流石、未来の獣医さんだな。最近になって、あんなのが増え出したんだ。

「怖いから、誰も捕まえようとしないしさ」


そんな私の視界の端に奇妙なものが写り込んだ。

「止め……いや、速度落として」

停車する様に言いかけたけど、それだと相手に見つかってしまう。

圭司くんも、理由も聞かず、減速してくれた。その間に、私は暗視ゴーグルを取り出す。向こうで買った、陸軍正規採用のものだ。


道路脇の斜面を、大蛇が這い上がって行くのが見えた。3mはある。

更に、まるでその大蛇の横を付き従う様に斜面を登る人の姿。顔や手足は見えない。

ただ、真っ赤なローブを着てるのは分かった。


大蛇と赤いローブ。これは……。


「ゆっくり加速して」

全身から冷や汗が吹き出す。

「気付かれない様に」

それだけ言うのが、やっとだった。


*********************************************


圭司くんの家へ上がると、直ぐに奥から怒鳴り声がした。

「誰だ、お前ら! 合言葉は!!」

「へいへい……『カ・ナマカ・カー・ラジェラマ』」

うんざりした様子で、圭司くんは答えたけれど、私の方は総毛立った。


やはりそうなんだ。


「悪い、アレ、ウチの曾祖父ちゃんだ。言わないと納得してくれねーし」

彼に促されるまでも無く、私は答えた。

「『カ・ナマカ・カー・ラジェラマ』」

「……誰だ、アンタ。まぁ、入って来なさい」

圭司くんの曾祖父さんは、急に静かな口調になった。


その人は、長谷部圭一さん。103歳。寝たきり生活を送っていた。

「アンタ、何か英語で話してみてくれないか?」

「オイオイ。挨拶も無しにかよ」

「お前は黙ってろ」

私は言われるがまま、英語のことわざを口にした。

「Birds of feather flock together.」

「はは、上手いな。留学でもしてたのかい。大学は何処だ?」

「ミスカトニックです」

その名前を言い終わらないうちに、圭一さんは跳ね起きた。急な動きで、咳き込み始める。

「じっちゃん、寝てなきゃ駄目だろ」

圭司くんの手を払いのけて、介護ベッドから降りようとする。途端に両膝から力が抜け、床へへたり込んだ。

「無茶すんなよな。何処行くんだよ」

圭一さんは必死の形相で匍匐前進しながら、百歳越えとは思えない声を張り上げた。

「うるさい! 俺は今からこの人に話がある。

「圭司、お前は外に出てろ」

ぶつぶつ不満を口にしながらも、圭司くんは言われた通りにした。


それを見届けてから、押入れへ這い寄り、私に手伝われながら、箱を引っ張り出した。


中から出て来たのは、3つの書類。

ひとつは、ミスカトニック大学・機械物理学科の卒業証書。

もうひとつは、大日本帝国陸軍士官学校・工兵部のものだ。

3つ目は、陸軍少佐へ昇格した際のものだった。


「そこに斧があるだろ? アンタの細腕には辛かろうけど、箱の下の床板を叩き割ってくれ」

息切れ交じりに言葉を絞り出した。


中からでてきたのは、とんでも無いものだった。


3丁の拳銃。オートマチックが2つに、中折れ式のリボルバー。

更にもっと大きな銃。箱型の弾倉が付いている。

付け替え用の弾倉と銃弾の詰まった紙箱。


銃だけじゃなかっった。

銃剣に、ボウイ・ナイフ。

円筒形の油紙、ネジ蓋付きの小さな空き瓶。

「硫酸」「硝酸」とのラベルが貼られ、蓋を厳重に蝋で密閉された、褐色瓶。


それらを運ぶためか、インナーフレームタイプのザックも置かれていた。


「南部14年式自動拳銃。26年式回転式。それにマシンガン。百式短機関銃だよ」

圭一さんは、柱にもたれ、咳き込みながら言った。

「アンタも向こうにいたんなら、扱えるだろ? 銃はどれも新品だし、銃弾は俺が雷管を入れ替えている。いつでも撃てる。

「俺は軍の命令で、アメリカの技術を盗むために、あそこへ入った。そしたら、別の知識まで付いちまってな。

「アーミテージ教授にも会ったぜ。『納屋よりデカイ』アイツともな。

「俺は、日米開戦間際に、帰国した。そっちの知識を買われて、チョーチョー人の殲滅戦にも行かされたのさ」


圭一さんの話の意味が、全て分かってしまう、自分が嫌になる。


「何故、これらを私に?」

「アンタ、あの大学にいたんなら、この村がどうなっているか、察しがついてるんだろ?」

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