いらっしゃいませ
傭兵団を追放されたカチョ・カバロ様のご来店です。
「ここ、エウレカって店だよな?相談があるんだが」
そう言って入ってきたのは、カチョ・カバロと名乗る男性でした。身なりは軽装ですが、そこそこ金回りは良さそうなお客様です。しかし、そこはこの店に来るくらいですから、なにか原因があるのでしょう。
こう言った場合の対応は、まず様子見です。
「本日は、採用をご希望でしょうか、それとも、転職でございますか?」
ここで相手を転職希望の人間だと決めつけないことが、当店のわずかなサービス精神です。当店では全てのお客様に持ち点10点を差し上げておりまして、お話を伺う中で増減させていただき、その点数に応じて最終的なご紹介を決めさせていただいております。0点になった段階でその方はお客様ではありませんので、お引き取りいただいております。
ちなみに、ヨハンソンといたしましては、採用を希望する実業家やその関係者であれば今後の評価に5点を差し上げています。まあ、単純な転職希望のお客様よりは大口契約になる可能性が高いから、ですが。
「転職希望だ」
…今回はハズレです。まあ、仕方ありません。弱小店の辛いところ、お客様を選り好みすることは出来ません。
「というか、以前所属していた傭兵団を追放されてな、蓄えがつきそうだったから、仕事を探そうと」
3点減点。
内訳は、追放という厄介者の香りがする事、経験上追放された方の身の上話を聞かされるハメになり時間を拘束される事、貯金が尽きたから動き出すというあたり計画性や危機感が感じられない事、各1点ずつです。
「あ?減点ってなんのこっちゃ」
おや、口に出ていたようです。お客様を採点するようなことは、基本的には大変失礼なこと。いくら最低限のサービス精神しか持ち合わせていないとは言え、これではよろしくありません。
真摯に謝罪した後、先ほどのように当店のシステムを改めてご説明差し上げました。
「ご理解いただけましたようで何よりでございます。現在、カバロ様の持ち点は2点でございます。その上で、お話を伺います」
「おい、待て!10点から3点引いたら7点だろうが!」
「これは失礼。それにしても計算がお上手でございますね」
「…バカにしてんのか」
「いえいえ、そんな、滅相もございません。ですが、カバロ様の持ち点は2点で間違いございません」
「だからなんでだよ!」
「敬語を使っていただけない転職希望のお客様には、一律5点を頂戴しております」
「なんだそれ!思いっきり客を選り好みしてんじゃねえか!」
「敬語を使っていただけない転職希望のお客様には…」
「…選り好みしてるじゃないですか」
「転職希望のお客様には…」
「あ、もう金にならない相手は敬語とか関係ないんすね、なんでもないっす」
「ご理解いただけましたようで何よりでございます」
危ないところでした。あやうく、お客様を選り好みするいけ好かない守銭奴であるなどという、根も葉もない噂を吹聴されるところでした。
くだらないやり取りで、お客様には随分と減点をしてしまいましたが、まだ持ち点がある以上、お客様はお客様です。
「それでは、お話を伺いましょう」
次はカバロ視点です。