第9話 関原環の絶叫!
一週間が経った。
結局、何も解決していない。
というか、さらに悪化してるような気さえする。
寝てる間、とにかく変な夢を見る。決まって変なちっちゃいおっさんが出てきて私にいじわるをする。私は嫌がりながらも歓んでその嫌がらせを受ける。そしてその嫌がらせが最高潮に達した時目が覚める。起きたら寝汗で下着までびっしょりだ。
ちなみに昨日は巨大な太鼓に縛り付けられてちっちゃいおっさん達にその太鼓をドンドン叩かれるというものだった。
太鼓が打ち鳴らされる度に、響く振動で私は歓びに満ち溢れる。いや、やめて、いや、やめないで、どっちやねん、はっきりせんかーい、うわーってところで目が覚めた。
もう本当に訳が分からない。なんだか自の頭がおかしくなってしまったようだ。
「こまったこまった」
「コマドリ姉妹、だね」
夕花が声を掛けてきた。いつもの登校風景だ。
「たまちゃん、最近なんか元気ないよ。どうしたの?」
「う、うん。ちょっとね。ただの寝不足」
ちっちゃいおっさんに毎晩いじめられて歓んでるなんて言えない。
「そ、そうなんだ。ならいいけど……。そうだ、あれやろうよ」
夕花は突然カバンからリコーダーを取り出した。
「え?なに?」
「たまちゃんの一番好きなアレだよ!」
そう、吉本新喜劇名物、須知と吉田の乳首ドリルすな、だ。
そう言って夕花はリコーダーを私の胸、というか乳首に狙いを定める。乳首を狙われた私はこれまでにない恐怖と歓びの混じった感情が湧き上がる。
そして夕花は肉食獣が草食動物を狙うかのような正確さで私の乳首にドリルした!
これまで何度も二人でやってきたこの一連の動作が私の体に電撃を走らせる!
「ち、乳首ドリルして!」
思わず言ってしまった。
「え?そこは、乳首ドリルすな、でしょ」
夕花はポカーンとしている。そりゃそうだ。そうなんだけど。そうなんだけど!
「乳首ドリルして欲しいの!」
「え?これ?」
夕花は何のことかよく分からないといった顔でさらに私の乳首をドリルする。私は体を駆け巡る歓びの宴に浸りながら訳が分からなくなってきた。
「夕花のバカ!もう知らない!」
「あ、たまちゃん!」
気恥ずかしさとなんとも言えない快感の狭間で揺れながら、私は夕花を置き去りにして学校に駆け込んだ。
「先生、どう思いますか?」
放課後、私は保健室に行った。長篠先生にこれまでの話を聞いてもらうためだ。
「うーん、なんとも言えないわね。あなた好きな男子とかいないの?」
「いません。というか今まで誰かを好きになったこともありませんでした」
「そう。確認するけど壇浦さんに、その、なんだけっけ、乳首ドリルされて思わずもっとしてって言っちゃったんだっけ?」
私は恥ずかしさのあまり俯いて言った。
「そ、そうです……」
先生はフーッと息を吐いて天井を見た。
「あなた、私がレズだってこと知ってる?」
「……はい。風の噂で」
「私のことどう思う?」
先生はずいっと膝を乗り出して私に近づいてきた。
「いや、どうって、その……」
「気持ち悪い?」
「別に気持ち悪いとか思ったことはないですけど……」
先生は急に立ち上がった。
「ちょっと一緒においでよ」
私は先生と学校の屋上に行った。立ち入り禁止の場所だからこれまで入ったことがなかった。
「ふうー。気持ちいいねー。いい天気だわ」
確かにいい天気だ。青い空に雲が一つか二つぽっかり浮かんでいる。
「絶好の絶叫日和ね」
先生はよく分からないことを言い始めた。
「先生、絶叫ってなん」
「私は!!!レズだ!!!」
私が言い終わる前に先生は空に向かって大声で叫び始めた。
「さあ。あんたもやってみなさい」
「わ、私、レズじゃないです」
「どうしてそう言い切れるの?あなた好きな男子とかいないんでしょ。レズかもしれないじゃない。さあ」
先生は仁王立ちして私を見つめている。
「わ、私、できません」
私は後ずさりした。
「じゃあいいわ。私はエロいって言ってみて」
先生は私に何をさせようと言うのだろう。しかし先生は真顔で言っている。私は顔を空に向けた。
「私は!エロい!」
先生がため息をついた。
「何よそれ。全然ダメよ。私は!!!エロい!!!」
先生は学校中に響き渡るような声で言った。
「さあ、早く。帰れないわよ」
私は覚悟を決めた。顔を空に向けて目を閉じた。
「私は!!!!エロい!!!!」
先生は拍手してくれた。
「なかなかやるじゃない。そう、その調子よ」
先生は腰に手を当てて反り返って言った。
「私ーはー!!!エーローい!!!」
「私ーはー!!!エーローい!!!」
私も負けずに声を張った。
それから何度も私たちは大声で私はエロいとかセックスしたいとか叫んでいた。先生は時折レズという言葉を混ぜたりして、何とかして私にレズという言葉を言わせようとしてきたが、私はその手には乗らなかった。
「あー、すっきりした。さあ、行きましょうか」
先生は満足そうに屋上の鍵を指でクルクル回しながら階段のほうに向かって行った。私は先生の後をついて行きながら、何となく気持ちが軽くなっていることに気づいた。
「じゃあ、また明日ね」
保健室に戻った先生はさっきのことなど忘れたように明るい声で私に言った。
「先生」
「なに?」
「あの……さっきの屋上のは何だったんですか」
「あなた、あれやってどうだった?」
「え?いや、なんかちょっと気分が楽になりましたけど……!」
先生は私の口に自分の人差し指を押し当ててきた。
「じゃあ、いいじゃない。私とあなただけの秘密よ」
先生はそう言って私にウインクした。先生の笑顔があまりにも魅力的だったので一瞬先生になら抱かれてもいいかなと思ってしまった。