第87話 登校!
気がつくと家のベッドに寝転んでいた。
真っ白い天井。汚い部屋。見慣れた風景があって、ベッドにティッシュが散乱していて、リコーダーが床に転がっていた。
「俺、生きてるな……」
自分の顔を触ってみた。たしかに感触がある。俺は起き上がり鏡を見てみた。見慣れた俺の顔が映っていた。
「何だったんだろうな……」
死んだと思ったら転生してて、転生した先で命狙われてて魔王になろうとして、結局魔王になれたかどうかよく分からないけど、今ここにいる。
確かめたいことがあるけど、どうやって確かめようか。そもそも確かめる必要があるんだろうか。
俺は随分と袖を通さなくなって吊ってある学校の制服を見つめた。
「明日学校行くか……」
次の日、珍しく朝七時に起きた。制服に着替えてリビングに行くと、母から今日は随分早いのねと言われた。学校で当番に当たったからと訳の分からないことを言っておいた。そして母はそそくさと家を出て行った。俺は残された朝飯を食って家を出た。
朝早く家を出るのは久しぶりだ。思ったより外の空気はひんやりしていて俺の登校意欲を削ってくれる。
「あー、さむい」
俺は猫背でポケットに手を突っ込むいつものスタイルで歩き出した。
学校に行きながら何となく違和感があった。ここは本当に現実の世界なんだろうか。むしろあの世界の方が本当の世界なんじゃないか。今の外の風景にあまりリアルを感じられない俺は一人のそのそ歩きながらそんなことを考えていた。
その時。
後ろから一人の女子生徒が追い抜いて行った。長い髪をポニーテールにしたその姿は間違いなく。
「関原!」
彼女は俺のことなど全く眼中にない様子でスタスタ歩いている。勝手に俺一人興奮しているが本当にあいつが俺と同じ世界に転生していたのかは分からない。もしかしたら俺の夢の中だけの話なのかもしれない。それを確かめたいのだが何と聞いてよいものか。聞き方を誤るとただのアホ扱いされてしまうかもしれない。
「関原!」
俺は後ろ姿に呼びかけてみた。
しかし彼女は聞こえてないのか歩みを止めない。一か八かあの呼び名で呼んでみるか。
「おい!キャサリン!」
ピタリと関原は足を止めた。そしてくるりと回れ右してこちらにやって来た。彼女は俺の目の前に立った。腰に手を当て仁王立ちして言った。
「なに?」
彼女の迫力に俺は言葉を失ってしまった。
「い、いや。別に……」
そして彼女はまた回れ右して俺の前から立ち去った。
学校に行っても誰も俺が出席していることに疑問がないようだ。誰も話しかけてこない。担任も朝のホームルームで、みんないるよな、と一言言うと出席簿をパタンと閉じて去っていった。
あっという間に午前中の授業が終わって、昼メシを食って午後の授業も終わった。不登校生の復帰第一日目は呆気なく終わってしまった。
終業のホームルームが終わってプリントをカバンに入れて帰ろうとすると急に後ろから髪の毛を掴まれた。
「いってえ!な、なんだ?」
振り返ると関原が俺の髪の毛を掴んでいる。
「ちょっと来なさいよ」
「おい!どこ行くんだよ!」
関原は俺の髪の毛を引っ張ったままズンズン歩いていく。
「た、たまちゃん!どうしたの?」
いつの間にか壇浦までいる。
俺たちは他の生徒にジロジロ見られながら校舎の一回の薄暗い部屋に向かった。
「失礼します」
関原はある教室の扉を開けた。
「おい、ここ保健室じゃねえか。俺は風邪引いてないぞ!」
「うっさいわね。あんたは黙ってなさいよ」
関原は俺の髪の毛を引っ張ったまま保健室の中へ入った。
「あら、これは珍しい組み合わせね。どうしたの?」
保健室の先生が立ち上がった。確か長篠先生だっけ?着任すぐの全校集会でレズ告白し始めたクレイジー先生だから何となく覚えてる。
「先生、屋上のカギ貸して欲しいですけど」
「お、おい!何する気だ!俺を殺す気か!」
「うるさいって言ってるでしょ!ダチョウ倶楽部みたいなこと言わないで!」
「仲が良さそうね。いいわよ」
先生はニコニコしながら机の中からカギを取り出した。
「面白そうだから私も立ち会っていいかしら?」
「はい、よろしくお願いします」
そして俺たちはそのまま屋上に向かった。




