第79話 どうして生まれてきたの?
キャサリンが頭を抱えてうずくまっている一方で、悪魔の液体はどんどんを大きくなっている。さっき吹き飛ばした時よりも大きくなっているような気さえする。そしてさっきよりもはるかに多くの人が集まってきてその液体の中に浮かんでいる。
「ここまで来ると吹っ飛ばせないな……」
まずでかすぎて全部を吹っ飛ばすことは不可能だ。そして吹っ飛ばしても中の人の数が増えすぎて助けられない。俺はなす術なく呆然とその様子を見守るしかなかった。
「おい、キャサリン……」
キャサリンは何があったのか分からないがずっとうずくまって耳を塞いだまま動かない。
「どうすりゃいいんだ……」
これまでずっと虐げられてきたが、何だかんだで今まで頼ってきたことを知ってしまった。
「尚くん」
また壇浦の声が聞こえる。
「なんだよ。もうやめろよ、こんなこと」
「ねえ、尚くんはなんでここに来たの?」
「知らねえよ。いつのまにかここにいたんだよ」
「そんなはずないよ。ここに来るのは理由があるんだよ」
リコーダーのことが理由になるとでも言うのか。
「分からねえよ」
「ちゃんと考えないとダメだよ。ちゃんと考えたら何をしないといけないか分かるはずだよ」
「何をしないといけないかって……」
なぜここに来たのか。好きな子のリコーダー咥えて窒息死して神様に転生しろって言われて……これで何をちゃんと考えろって言うんだ。
「尚くんはどうして生まれてきたの?」
知らない。そんなこと分かるはずない。いつのまにか生まれてきたんだ。そしてしょーもない理由で死んだんだ。そこに意味なんてない。
「俺がなぜ生まれてきたのか。なぜ死んだのか。俺が生きてることに意味なんてない!」
「……分かってるじゃない」
ヒヤリとした声だ。
「じゃあなんでそんな辛い思いして魔王になろうとするの?」
「えっ?」
「生まれた意味も生きてる意味もないんだよね。好きにすればいいじゃない」
「そ、それは……」
たしかにそうかもしれない。
「誰のために生きてるの?神様に頼まれたから生きてるの?」
「そ、それは……」
俺は思わず口ごもる。壇浦の話に妙な説得力がある。
「自分がやりたいと思ったことをやるべきよ。人に言われたことじゃなくて」
俺は改めて目の前の液体タワーを見上げた。中に取り込まれている人々は不思議と皆幸せそうな顔をしている。
「もう苦しまなくていいんだよ。さあ、こっちにおいで」
優しい声に俺は思わず一歩踏み出す。ちらりと足元のキャサリンを見た。キャサリンはまだうずくまったままだ。
「さあ、早く」
俺は一歩ずつ前に進んでいった。




