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第76話 しっかりしろ!

「早く起きなさい!」


 キャサリンに突然鼻を噛まれた。俺は緑色の液体の中を浮遊しているところだった。


「いってえ!何しやがるんだ!」


「いつまで寝てんのよ!悪魔に殺されるわよ!」


 キャサリンは訳の分からないことを言う。不思議と緑色の液体の中でも会話はできるみたいだ。


「悪魔に殺されるって悪魔は壇浦みたいだぜ。殺されることはないだろ」


「あんたもやっぱり夕花だったのね。その夕花偽物だから」


「な、何を根拠にそんなことを……」


「説明するの面倒だわ。とにかく偽物よ!見なさいよ!この渦を」


 そういえば穏やかだった緑色の液体がだんだんと渦を巻いている。流れが急になってきたような気がする。


「な、なんだか……怪しい雰囲気だな……」


 この液体に囚われている奴は皆一様に気持ち良さそうな顔をしている。冷静になって見てみるとなんだか危ない気がしてきた。


「分かったらさっさとこいつ吹っ飛ばしなさいよ」


「吹っ飛ばせって。どうやってやりゃいいんだ?」


「あんた散々今までやってきたじゃない。なんでもいいから早く!」


 かなりでかい竜巻でないと吹っ飛ばせないだろう。しかし竜巻では中にいる人にまで影響が出てしまう。どうにかして緑色の液体だけを吹っ飛ばす方法はないものか……。


「弱ったな……」


「何やってんのよ!早く!」


 相変わらずキャサリンは急かしてくる。


「どうやりゃいいか考えてんだよ!みんなも一緒に吹き飛ばしてしまうだろ!」


「そんなのあとで回収すればいいじゃない。とりあえずやりなさいよ!」


 うるさい奴だ。もうどうなっても知らねえぞ!俺はでっかい竜巻をイメージした。


「いっけえ!大竜巻!」


 俺は両手を思い切り振り上げた。


 巨大な竜巻が緑色の液体と中にいる人もろとも上空へ吹き飛ばして行った。


 まるで蓋を突然取ったミキサーみたいに周りにビチャビチャと緑色の液体が飛び散っていく。


「今のうちにクッションになるような風を下から送って!」


 キャサリンの声に俺は下から風を送った。  人々が上空から降ってきてその風を受けてゆっくりと地面に横たわった。


「上手く行ったわね」


 キャサリンは満足そうに言った。


「おい!大丈夫か!」


 俺は落ちてきた人たちに声をかけるが皆ぼーっとして空中を見ている。


「おい!ラピス!しっかりしろ!」


 俺は寝転がっているラピスの頬っぺたを叩いた。


「ああ、どうしたんだ?」


 ラピスはぼんやりと言った。


「おい!しっかりしろ!」


「ちょっと静かにしてくれ。今亡くなった妻と話をしていたんだ」


「なんだって?」


 あちらこちらで悪魔の作り出した幻影を探し求める声が聞こえる。


「なあ、私の妻を知らないか。さっき確かに聞こえたんだ。会話していたんだ」


「ラピス!それは悪魔の見せる幻影だ!しっかりしろ!」


 俺はラピスの頬っぺたを叩いた。


「おい。どうしたんだ」


 後ろから声をかけられた。振り返るとベリルがいた。


「お前は大丈夫なのか」


「ああ、私は無事だ。しかしこれはどうしたことだ」


 俺は状況を説明してやった。


「そういえば私も亡くなった父が夢の中で出てきたな。そういうことだったのか」


「皆を正気にしないと。手伝ってくれ」


「ああ、分かった」


 そうして俺たちは片っ端から声をかけて頬っぺたを叩いたりした。何人かは正気を取り戻したがラピスのように全然反応しない者もいた。


「あっ!また緑色の液体が一つになっていく!」


 さっきバラバラになったはずの緑色の液体がまた一つに固まり始めた。


「ウフフフフ」


 壇浦の声が聞こえた。


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