第6話 夜のまぐわい!
それから三日間、俺はひたすら自分の部屋に閉じこもっていた。というか爺から最低でも三日間は部屋を出るなと言われてしまった。
まあ、これまでずっと引きこもっていた俺にとってはむしろ好都合だ。出来ればこのままずっとこうしていたいくらいだ。
引きこもっているうちに部屋にあった本をひたすら読んでいた。とりあえずこの世界のことを知っておかないとマズい。
部屋にあった本は図鑑や地図からマナーの本まで多種多様だ。一通り目を通せばこの世界で生きていくには困らないだろう。
これまで分かったことをまとめてみる。
まずこの世界には大陸が二つある。北側の魔大陸に我々魔族が住んでいて、南側の南大陸に人族が住んでいる。
魔族と人族の間でクリスタルを巡って昔大きな戦争があり魔族が敗北した。この戦争で魔族は良質なクリスタルの産出地を人族に奪われ、多くの犠牲者を出し、人口もかなり減ってしまった。今でも人族に比べて人口は4分の1程度だという。
ちなみにクリスタルというのは、燃やしてエネルギーとして使用したり、その燃えかすを加工して建築資材として使用したりするものだという。石油みたいなものだろうか。
俺の体の中から出てきたのもこれだと思うけど、石油なんか飲み込んでてよく生きてたよなと思う。
魔族と人族の間では、今は比較的穏やかに交易があるようだ。
というのも、人族には色々な技術があり、生活水準も高いようだが、資源では魔大陸の方が多いようだ。
そのため、人族からは便利な機械などが輸入され、魔族からは木材や食料品などが輸出されている。お互いに今のところはウィンウィンの関係のようだ。
あと、我がゴルロフ家は魔族の中ではかなり格式が高い家柄のようだ。ゴルロフ家の他に同じくらい古い由緒ある家があるという。しかし残念ながらゴルロフ家は昔ほどの権勢はないらしい。
今は新興の貴族たちが力を持ち始めていて、彼らが政治の中心的な役割を担いつつある。
ちなみに新興の貴族たちがなぜ力を持てるようになったかというと、とにかく子沢山だからだ。
自分たちの子供をとにかく色んなところに嫁がせたり、養子に出すことで、人口の減ってしまった魔族の勢いを取り戻す役割を果たしたかららしい。これは俺も頑張らないとな。
とりあえずこの世界のことは何となく分かった。あと俺のことを狙ってる奴が誰なのか早く見つけないとな。殺されてしまったら元も子もない。
しかし転生したのはいいけど、ここがどこかよく分からないし、殺されかけたり、なんかもっと楽に無双できるものだと思っていたのでガッカリだ。
こんなことならティッシュで窒息という生き恥を晒しながらでも生きてたほうがのんびりシコシコできて良かったかもしれない。
「もうずっと引きこもってやろうかな。でも理由がないと怪しまれるよな……」
そんなことを考えていると、いつものようにリディアが俺の部屋の扉を開けた。
「ねえ、お兄様。もうそろそろ外へ出てもいいんでしょ?お出かけしましょ?」
リディアはベッドに寝転がっている俺の上に無邪気に乗っかってきた。
「いや、お出かけはできないな」
「えーっ!なんでー!」
リディアは俺の腹の上にドンドン乗っかりながら言った。
「あれから色々考えたんだ。俺のこと狙ってる奴が誰なのかとか」
「それで?」
リディアは唇をとんがらせて言った。
「俺はしばらくこの部屋で引きこもっている方がいいんじゃないかってな」
「どうしてそう思うの?」
「まずな、本当に俺の命を狙ってるんだったら、またやって来ると思うんだ」
「そうだね」
「そうしたら、家の外にいると狙われやすくなってしまう。それに誰に狙われてるのかもよく分からない。その点この部屋にずっといれば簡単に狙えないだろうし、犯人探しもやり易い」
「そ、そうねえ……」
リディアはフムフムと頷いている。
「もし、俺がずっとこの部屋にいて、それでも何らかの形で身の危険が発生したとしたら、その時犯人は……」
「この家の中にいる!」
リディアはちょっと興奮気味だ。
「そうだ。だから俺はこの部屋に閉じこもって相手の出方を確かめたい」
「どうしよう。爺に相談しようか」
「いや、犯人がこの家にいるなら爺に言うのも危険だ。リディア、俺からクリスタルが出てきたことは誰かに言ったか?」
リディアは首をぷるぷる振った。
「いいや、誰にも。どうせ爺に言ったらどうやってそのクリスタルが出てきたのか聞かれて、兄妹でそういうことするもんじゃありません、って怒られるから。お父様が帰ってきてから言おうと思ってた」
やっぱりキスは兄妹の間で簡単にしていいもんではないんだな。残念です。
「うん、それでいいや。ちなみにお父様はいつ帰ってくるんだろう?」
「お仕事でしばらく家を空けるって出ていかれたけど、お兄様が倒れたって聞いて急いで帰ってくるみたい。それでも一月くらいかかるんじゃないかな」
「ならそれまでの間に犯人はもう一度仕掛けてくるかもしれないな」
リディアは子犬のように震えだした。
「どうしよう。私、犯人がこの家の中にいるかもしれないって思いもしなかった。でも本当にそんなことあり得るのかな?」
「あんな大きなクリスタルが出てきたのなら、ちょっとずつ体内に埋め込まれていたのかもしれない。一気に飲み込まされたのならすぐ気付いて吐き出すと思うんだ。そう考えると家の中に犯人がいてもおかしくない」
「恐ろしいわ、お兄様!」
俺はリディアを抱き寄せた。柔らかい。そして、すげえいい匂いがする。
「じゃあ、しばらくは一人にさせてもらうぞ」
「うん、寂しいけど私頑張る!」
リディアは立ち上がった。
「じゃあ、私はこの部屋に誰も立ち入らないようにしてるね!あ、そうだ。お兄様の夜のまぐわいもしばらく中止しとかないとね」
え?夜のまぐわい?
「ちょっ、夜のまぐわいって何?」
リディアはキョトンとしている。
「え?女の人と一緒に寝るやつ。あれもダメだよね」
「いや、え、それは、その……」
「これは爺に言っとこう!いいよね?」
「あ、あ、あの……」
「大丈夫だよ、爺にはお兄様の体調が悪いからって言っといてあげる。じゃあねー。お兄様!頑張ってねー」
リディアはパーっと部屋を出て行った。
「ちっ、ちっくしょー!!」




