第54話 時計見ろよ!
「お前たちはここで何をしている」
知らぬ間に俺たちの隣に係員が立っていた。俺とキャサリンは闘技場の隅っこでひたすら漫才のネタ合わせをやっていた。
「何って練習よ」
キャサリンは漫才の練習を邪魔されて頬を膨らせながら言った。
「それはレースに必要なのか」
「当たり前でしょ!何か用なの?」
キャサリンはイライラしている。
「練習と言っていたが今練習しているのか?」
「そうよ。もう時間あんまりないのよ」
「あんまりと言うより時間はもうほとんどないぞ」
係員の言葉に俺とキャサリンは顔を見合わせた。闘技場の時計は終了30分前になっていた。
「ほんまやね!」
俺とキャサリンは向かい合ったまま言った。
「だいぶ息が合ってきたわ」
キャサリンは満足そうに言った。
「って、言ってる場合かよ!早く行くぞ!」
「行くぞってどこ行くのよ」
「とにかく誰でもいいからナンパするぞ!」
俺は辺りを見回した。
「あれ?誰もいない……」
トップ選手の周りにはまだ人がいるが、その周りにはほとんど人がいなくなっている。
「や、やべえ!みんなどこ行ったんだ?」
俺は係員にみなどこに行ったのか聞いてみた。
「大半の者は相手を見つけられず棄権した。お前も棄権するのか」
棄権とかできるのか。ならそうした方がいいような気がする。
「ダメよ。諦めたら試合終了よ!」
「ていうかお前と漫才の練習してるうちに終わっちゃったんだぞ!」
「終わってないわ。さあ行くわよ」
「どこ行くんだよ!」
「トップ選手の周りにまだ女の子がいるわ。そいつらに声掛けるのよ!」
「ええ!そんなの今からやっても意味ないだろ……いててて」
髪の毛を引っ張られながら俺は渋々トップ選手の周りに行った。トップ選手の周りは女だらけでキャーキャー言いながら応援していた。あと一人行けるぅ、とかカッコいいなんとか様ぁ、とか色々言ってる。こいつらに声をかけるのか……。アホらしいな。それでも殺されるよりマシだ。俺は一人の女に声をかけた。
「何よ!ジャマしないで!」
そりゃそういう反応だろうな。
「あっ!あなた!」
振り返った女が急に俺の顔を見て言った。
「あっ、エミリー!」
俺の初体験の相手ではないか。あの時走って逃げられてしまったからきっと俺の印象も悪いだろう。
「ご、ごめんな、この前は」
俺はちょっと謝って他の女に声をかけようとした。が、エミリーは俺の手をガッと掴んだ。
「え?」
エミリーは顔を赤くして俯いている。
「ど、どうした?」
「ちょっと……ちょっとこっちに来なさいよっ!」
エミリーはぐいと俺の手を引っ張って人の輪の外へ連れ出そうとした。
「エミリーどうしたの?」
彼女の友達が声をかけた。
「ちょっと待ってて」
そう言ってエミリーは俺をどんどんと遠くへ連れてきた。
「な、なんだよ。どうしたんだ」
殴られるのだろうか。ビンタされるのだろうか。ビクビクしながら俺は言った。
「さあ、相手してやるわ」
彼女は手を出した。
「え?相手って……」
「決まってるでしょ!早くしなさいよ!」
彼女は赤い顔をさらに赤くして言った。




