第36話 ワザとだろ!
「さあ、行くぞ」
剣の手入れを終えたラピスが言った。俺たちは立ち上がった。
「ここからは湿地帯が広がっている。クレイジーダートの巣窟だ。気をつけろ」
「クレイジーダートって泥の塊が人間とか動物の形になって襲ってくるって奴か」
「そうだ。たいてい奴らは突然足元から現れて地面に引きずり込んでくる」
厄介そうだな。どうやって対処しようかな。
「どうやって倒すんだ?」
一応聞いてみた。
「これで両断だ」
ラピスは剣を高々と上げた。あのー、剣のない俺はどうしたらいいんでしょうか。
「弱点とかは……」
思わず聞いてしまった。
「ない。気をつけろ」
どうやって気をつけたらいいんでしょうか。
洞窟を出てしばらく行くと木がまばらになり足元がぬかるみ始めた。
「歩きにくいな」
ラピスは慣れているのかサクサク進んで行く。
「おい、何をしている。早く行くぞ」
「ねえ、もっとチャッチャと歩けないの」
マイペース竜族と頭上の監督から厳しい一言が入る。
「歩けたら……やってるよ……」
俺は一歩ずつ泥の中から足を引き抜いて歩いている。どうやったらあんなに早く歩けるのか。
「モンスターが出てくる前にくたびれちまうな」
「いっつもくたびれてるくせに何言ってんのよ」
「日頃の鍛錬が足らんのだ」
みんな厳しいわ……。
と、急に足が重くなる。これまでとは違う感覚だ。俺は足元を見た。
「ひいいい!」
地面から手が生えて俺の足首を掴んでいる。聞いていたとは言え気持ち悪い。
「小爆風!」
ビチャビチャビチャ!
足元に向けて小さな爆風を作り出すと泥が飛び散った。俺の足首を掴んでいた手も吹き飛んでいる。
「気をつけろと言っただろう」
ラピスが戻ってきて言った。どう気をつけていいか分からないから困ってるんだよ!まあ、襲われても何とかなりそうだ。しかし毎回これで対応してると泥だらけになってしまう。
「なんかいい方法ないかな」
足元から襲われるのなら足元にずっと風を起こして吹き飛ばすってのはどうだろう。
「ねえ、もう、飛んじゃえば」
なるほど。その手があったな。
「なあ、ラピス。飛んでここ渡ってもいいか?」
「夜の空はもっと危険だ。やめておけ」
「じゃあ、ちょっとだけ浮くくらいならいいか?」
「構わない」
そしてラピスはまた向こうを向いた。
俺はこちらに泥が跳ねないように外側に風を送りながらちょっとだけ浮いている状態を作り出した。まるでホバークラフトだ。
「これいいじゃない!」
キャサリンもご満悦だ。これでラピスに追いつけそうだ。
ラピスに追いついてよく見るとラピスも少しだけ空中に浮いている。こいつも羽で浮いてるじゃねえか!
「お前も浮いてるじゃねえか!」
俺はラピスと並走しながら言った。
「だからどうした?」
ラピスは一ミリも悪びれてない。
「何で言ってくれないんだ!俺も空飛べるの知ってるだろう!」
「なぜ言わないといけないのだ?」
こいつ天然か?話が噛み合わない。
「さあ、行くぞ」
ラピスはスピードを上げた。
ラピスの背中の翼がヒラヒラ揺れているのを見ると何となく腹が立ってきた。こいつワザとやってるんじゃないか。




