第34話 ようクソムシ!
「そろそろだな」
ラピスは立ち上がった。滝のせいで外の様子が窺い知れない。もう夜になっているのだろうか。
「時計がないと何時か分からないな」
「おそらく七時頃だ。もう外は真っ暗だろう。動き出すにはちょうどいい」
何で分かるのか聞いてみたいが、どうせ貴様ら魔族には無理だとか言うんだろうな。
「さあ、行くぞ」
ラピスは滝の方へ向かった。
「ちょっと待ちなさいよ」
キャサリンがラピスに声を掛けた。
「なんだ?」
「何でこのウスノロを殺さないといけないわけ?」
「そのようなことを貴様らに話す必要はない」
振り返りもしないで歩きながらラピスは言った。
「あるわ」
「こちらにはその必要がないと言っているのだ」
「あんたらにもその必要があるって言ってるのよ」
ラピスが立ち止まった。
「どういう理由でその必要があると言うのだ」
「仮にこのクソムシに非があるなら直させればいいんじゃない?」
「それは私の問い掛けの答えになっていない」
「何で分かんないの」
キャサリンは呆れたように言った。
「あんたらが何の犠牲も払わずにこのゴミを殺せるならいいわ。でも実際二人ボコボコにされてるじゃない。今後こいつを狙う限りさらに犠牲が出るかもしれない。あんたらが何に引っかかってこいつを殺そうとしてるのか知らないけど、犠牲出すくらいなら話し合えないのかって聞いてるのよ」
ラピスはこちらを向いた。
「貴様らの言うことは分かった」
「じゃあ、何なのよ、理由は」
「それは……俺の口からは言えん」
ラピスは絞り出すような声で言った。キャサリンはため息をついた。
「何なのよ。これだから野蛮人は嫌だわ」
「貴様ら許さんぞ!」
ラピスは剣を抜いた。
「何よ!本当のことを言っただけじゃない!話し合いで解決できないのかって言ってできないって言うから野蛮人ねって言ったのよ。もし野蛮人て言われるのが嫌なら話し合いで解決しようとしなさいよ。それが出来ないなら野蛮人て言われても我慢しときなさいよ。どうせ何か上の人に口止めされてんでしょ。野蛮人て言われるくらいでそいつへの義理が果たせるならそれでいいじゃない」
「ぐっ……!」
ラピスの顔は真っ赤になった。
「貴様らはこの俺が居なければ生きてこの森を抜けられると思っているのか!」
キャサリンは鼻で笑った。
「あんたが大事にしたいものは何?」
「な、何の話だ」
「 私たちは別にあんたに助けてくれと頼んだわけじゃないわ」
おい!キャサリン!何言い出すんだ!
「な、ならば勝手に帰るがいい!」
「でもあんたが私たちを助けたいんでしょ。自分の子供が助けられたから。恩は返したい。それが竜族のマナーなんでしょ。同じことじゃない。野蛮人と言われてもあんたの上の人への義理が果たせるならそう言われることも我慢したらいいんじゃない。我慢ができないならその上の人に言えばいいでしょ。こんなの間違ってるって。話し合いましょうって。それが言えないのならあんたは野蛮人よ!」
ラピスは顔を真っ赤にしたまま俯いた。
「で、どうすんの?私たちのこと助けてくれるの?くれないの?」
ラピスは絞り出すような声で言った。
「……ついてこい」
キャサリンは俺の頭の上に乗っかった。
「さあ、行きましょ」
こいつ、本当に敵に回さなくて良かった。もう俺のことはウスノロでもクソムシでも何でもいいです。




