第24話 街へ行くぞ!
俺は頭の上にキャサリンを乗っけて馬車に乗っている。爺に街へ行きたいというとちゃんと馬車を用意してくれた。さすがは没落気味とは言え貴族だ。爺自ら馬車の運転手を買って出るという。通行手形と財布まで用意してくれた。しかしだ。
「リディアは来ないんだな」
あれからリディアとはほとんど会話をしていない。そもそもリディアの方から俺の部屋にちょくちょく遊びに来ていたのだが、それがなくなってしまった。俺の方からリディアの部屋に行くのは気が引けてしまって、それでほとんど話をしなくなってしまった。
「なあ、どうしたらいいんだろうな」
「知らないわよ、そんなこと。自分で考えたら」
色々と指示してくるくせに、ことリディアについては、キャサリンは何も言わない。そういえばリディアは俺と街に行きたがっていたよな。もう俺とは行きたいとは思ってないのだろうか。
街に着いた。街は城壁と堀に囲まれていて入り口に橋がかかっている。門番に通行手形を見せて中に入れてもらった。
「おお。これはすごい!」
街は入り口の側にレンガ造りの屋根の低い家が立ち並んで、奥の方に背の高い大きな建物が並んでいる。そして一番奥にちらりと見えるバカでかいのがおそらく魔王様の宮殿だろう。
それにしても美しい街並みだ。レンガ造りの家は皆赤い屋根で統一されており、まるで中世ヨーロッパの都市に来たようだ。
「見て、あそこに美味しそうなのがあるわ!」
キャサリンが指差したほうには串に刺さった肉を焼いている屋台があった。確かに美味しそうではあるが。
「お前、リスの体で食えんのかよ」
「うるさいわね。美味しそうって言っただけよ。私がいつ食べるっていった?」
負け惜しみがひどいんですけど。
そうこう言っているうちに背の低い家のゾーンを抜けて、大きな家が立ち並ぶゾーンにやってきた。ここまで来ると心なしかオシャレな人が多くなっているような気がする。やはりいいとこの人がこの辺に住んでいるのだろう。
そしてだんだんと宮殿がはっきりと見えてきた。
「で、でけな!」
宮殿はかなりでかい。多分30階建てくらいじゃないだろうか。横幅は東京ドームくらいありそうだ。
宮殿の前まで着くと馬車を降りて中に入った。別に中に入るのに入館証はいらないようだ。中に入ると魔王様の銅像がお出迎えしてくれた。中は広いエントランスになっていて、宮殿に出仕している人が忙しなく書類を持って走り回っている。
「なんだか役所みたいね」
確かに、魔王様の宮殿ではあるが、実際は役所のような機能をしているのかもしれない。
ふと見ると人だかりができている。女の子にある男が取り囲まれているようだ。
「ねえ、ヒース様、今年は何人くらいが目標なの?」
「私もお相手してくださるのかしら」
ヒースと呼ばれた男は色が黒く魔族のようだが、背が高く、髪が長い。モテモテマンのようだ。
「気分悪いわ。早く行きましょ」
そうですね。同感です。
魔王指名レースの受付は2階で行われていた。階段を上がってすぐのところで何人かが受付待ちをしている。俺はおとなしくその列に並んだ。
「はい、次の方どうぞ」
俺は申込用紙を渡した。
「えーと、はいはい、えー、おたく、これ意気込みの欄はこれでいいのかい?勝ち抜いていくと全国ネットでこれ放送されるけど」
「いいのよ、それで」
キャサリンが首を突き出して言った。
「な、なんだ、このリス喋ったぞ」
「おい、びっくりされているじゃないか」
まあ、びっくりされてるのは喋ったことではなくて、喋った内容かもしれないけどな。
「あと、特技が風属性の魔法って書いてあるけど。あれって雨乞いとかするやつだろ。そんなのここに書いてどうするんだい」
「それもそれでいいのよ」
なんとなく腑に落ちない感じで首をひねりながら受付の男は申込用紙にペタンと受付印を押した。そして11550番の番号札をくれた。さあ、これで後戻りはできなくなったぞ。
帰り道、爺に市場に寄って欲しいと頼んだ。リディアに何かお土産でも買ってやろうと思ったからだ。
市場は庶民ゾーンの路地を抜けたとこらにあった。屋台の店が立ち並んでいて色んなものが売られている。
「これはなかなか楽しそうだな」
「だと良いわね」
「ん?それってどういう意味だよ?」
「さあねー」
キャサリンは尻尾を振りながら馬車を降りた。
「お、おい、待てよ」
俺も慌てて馬車を降りる。そして立ち並ぶ店の一つを覗き込んだ。
「いらっしゃいま……な、なんだよ!あんたに売るもんなんてないよ!」
え?いきなり客に対して言うことなんだろうか?
「な、なんだよ!俺が何したって言うんだよ!」
「もうあんたには売る物はないよ!帰っとくれ!」
結局追い返されてしまった。
「ちぇっ、なんだよ。俺が何したって言うんだ」
キャサリンがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「どうすんの?帰るの?」
「バカヤロウ!こんなんで帰れるかよ!」
とは言ったものの行く先々で叩き出されて這々の体で店を出てばかりだ。
「なんなんだよ……」
「恨むんなら元ダヴィドに言うのね」
「あいつそんなに嫌われてたんだな」
一体どんな要求をしていたというのだろう。
結局全ての店で入店拒否されてしまった。
「チッ、仕方ない。帰るか」
市場の隅でひとりごちて馬車のところへ戻ろうとした。
ふと、路地裏で泣き声が聞こえる。見てみると子供の喧嘩のようだ。五人くらいの子供が一人の子供に石を投げつけたりして一方的にいじめている。これは……見過ごそう……ごめんね、お兄さんの座右の銘は君子危うきに近寄らずなんだ。
「さあ、帰ろう」
「ちょっと、あんた達何やってんの!」
キャサリンは俺を完全に無視して子供たちに声をかけていた。
「うわ!なんだ?このリス喋ったぞ!」
「質問に答えなさいよ!何やってんの?」
「か、カンケーねえだろ!あっち行けよ!」
「関係あるわよ。その子、こいつの知り合いなのよ」
キャサリンは急に俺を指差して言った。
「な、なんだよ!お前も竜族の仲間かよ!」
竜族?そう言えばイジメられてる子の背中には小さな羽が生えている。
「竜族?の仲間だとなんかまずいのか?」
「竜族は昔悪いことしたんだ。お父さんが言ってた。だから懲らしめないといけないんだ!」
「じゃあ、あんたのお父さんは一人の子をこうやって囲んでボコボコにしろって言ったの?」
「そ、それは……言ってないけど。でもカンケーねえだろ!」
「この子の知り合いだって言ったじゃない。分かったらさっさと散りなさい!こいつボーッとしてるけど、怒ったら怖いんだから。この市場中から恐れられて何も買えないのよ!」
イジメていた子供たちが内輪でどうする、今日はやめとくか、とか言い出した。
「ふん、今日のところはやめといてやるよ。へん、じゃあな!」
子供たちは去って行った。あとに残されたのは俺とキャサリンと竜族の子供だけになった。竜族の子供は立ち上がってズボンの埃を払うと俺たちに丁寧にお辞儀した。
「ありがとう」
「いいのよ。でもあんたもやり返せばいいじゃない。火とか吐けないの」
「ゴジラかよ!そんなことできないだろ!」
「分かんないじゃない。あと、あんたに聞いてないわ」
「僕は出せないけどお父さんは出せるよ」
「ほら見てごらんなさいよ。いつか出せるようになるといいわね。あなた名前は?」
「僕はリムド。あなたたちは?」
「私がキャサリンで、こっちの何もしてないのがダヴィドよ」
何もしてないは余計だ。
「キャサリン、ダヴィド、ありがとう!じゃあ僕行くね」
「ああ、じゃあな」
俺たちは手を振った。
「思ったより遅かったですね。いい買い物はできましたか」
爺が心なしか半笑いで言っているように見える。
「ん?ああ、まあな」
これだけ時間かけて何も買えなかったとか言いたくないから適当に言っておいた。
「ところでさ、竜族って知ってるか?」
「はい、存じております。下賤の者でございますよ」
そして、爺は竜族について語り始めた。
この大陸には魔族の他に、動物の体をしている獣族と、竜族がいる。竜族は魔族のようで魔族ではなく、獣族のようで獣ではない、何というか中途半端な存在らしい。
「コウモリみたいなもんか?」
「ん?どういうことでございますか?」
「鳥のようで鳥ではない、獣のようで獣ではない」
「コウモリは獣の一種だと思いますが……続けてよろしいですかな」
失礼しました。続けて下さい。
ただ、竜族は戦闘に滅法強く、戦争が絶えない時代は大活躍だった。しかし、時代も変わって出番が減ってくると、今度は戦争ばっかりしてきた乱暴な奴というイメージになってしまった。
もともと人口の少ない竜族は魔族や獣族に押されて行き場を少しずつ失っているらしい。街に住んでいても差別の対象になったりするので人里離れた村でひっそりと暮らしているようだ。
「なんか可哀想だな」
「何をおっしゃいます。そのような下賤の者とは関わりませんように」
何となく腑に落ちないけど、竜族のことはよく分かりました。




