第14話 痛い!
「お兄様!おはよう!」
朝イチからリディアとキャサリンがやって来た。俺はメイドのペーシャが持ってきてくれた朝飯を食ってる最中だった。リディアとキャサリンのあまりの勢いに、ペーシャはカップをカッチカチャいわせてお茶をこぼしかけた。
「ああ、おはよう。今日も元気がいいな」
「あんた、何ネチネチご飯食べてんのよ。さあ、行くわよ」
キャサリンは腰に手を当てて言った。こいつ喋るときいっつもこの姿勢だな。
「どこ行くんだよ」
俺はナプキンで口元を拭きながら言った。
「外よ」
「何しに行くんだよ。俺、命狙われてんだぞ」
「家の中にいても狙われてるじゃない。さあ、行くわよ」
「やった、やった、お兄様とお出かけだ!」
リディアとキャサリンは待ちきれない様子で部屋の外に出て行った。
「本当に騒々しい奴らだ」
俺は朝飯の残りを掻き込んでベッドから降りた。
「あ、ダヴィド様……」
ペーシャのか細い声に立ち止まった。
「どうした?」
ペーシャはモジモジしながら言った。
「あの……美味しかったですか?」
「ああ、美味かったよ」
いつも朝のメニューはパンとスクランブルエッグとミルクだ。本当は納豆ご飯が食べたいけど。
「そ、そうですか!よ、良かった」
毎日このやり取りをしている。ペーシャは俺の食欲がどうしても気になるようだ。
「で、では失礼致します」
ペーシャは皿を片付けて、いつものように丁寧にお辞儀をした。
ポトリとペーシャの胸から何かノートのようなものが落ちた。ペーシャはそれに気がつかず部屋を出て行った。
「なんだ?これ?」
ノートの中身を見てみるとぎっしりと俺の食べた物の記録が書いてある。俺が食べ残したものが何か、どのくらい残しているかがきっちりと記されている。
「あいつ、マメだな」
感心していると、ペーシャが血相変えて入ってきた。
「申し訳ございません!私のメモありませんでしたか?」
「おう、これか?」
「すすすす、すみません!返してもらっていいですか!」
俺は大人しく返してやった。
「ああああああ、ありがとうございます!それでは失礼します!」
全くどいつもこいつもせわしない。
「さあ、始めるわよ!」
俺たちは家の庭に出てきた。庭と言っても野球場くらいの広さがある。さすがは没落気味とは言え貴族だ。
「何やるんだよ」
「決まってんじゃない。魔法の練習よ」
魔法?
「魔法ってなんだよ」
「私は気を失っていたから知らないけど、あんたあの化物倒した時なんか魔法みたいなの使ったんでしょ」
「そうだよ!お兄様すっごかったよ!」
リディアも無邪気に言ってくれる。
「ああ、あれか……。あれどうやったら出せるかよく分かんないだよな。なんか神様の声が聞こえてその通りやっただけなんだよ」
「なんて言われたのよ」
「いや、その、怒れとか、イメージしろとか言われたんだけどな」
「イメージってどういうこと?」
「あの化物がぶっ飛んでいくとこをイメージしたんだよ」
キャサリンはふーん、というと辺りをキョロキョロ見回した。
「じゃあ、そこにある岩あるでしょ。あれをぶっ飛ばすとこイメージしてやってみなさいよ」
キャサリンは3メートルはあろうかという大きな岩を指差して言った。
「いや、最初に怒らないとダメなんだよ」
「じゃあ、怒ればいいじゃない」
「なんもないのに怒れるかよ」
キャサリンはスルスルと俺の体を登ってきて、いきなり耳を噛んだ。
「痛え!何すんだよ!」
「さあ、イメージして!」
「そんなんで簡単に怒れるかよ!」
何という雑な作戦だ。
「何よ。これで怒れないなら何したらいいのよ」
確かに。一人で怒るのも無理がある。しかしこのやり方はどうなんだろう。
キャサリンは今度は髪の毛を引っ張り始めた。
「いてててて!」
「ねえ、キャサリン、お兄様が可哀想だよ」
おお、妹よ。なんて優しいんだ。思わずチューしたくなるぜ。
「リディア、これは何のためにやってると思う?」
キャサリンはリディアの方に向き直って言った。
「え?何のためって?」
「これはね、ダヴィドのためにやっているのよ」
キャサリンの前歯がキラリと光る。なんか怪しいぞ。
「リディア、騙されちゃいけないぞ」
「あんたは黙ってて!」
キャサリンは小さい手で俺の口を塞いだ。
「そうなの?」
リディアは素直に聞いている。
「そうよ。今いつ命を狙われてるのか分からない状態で頼れるのはダヴィド自身の力だけよ。この前のグランドオークも結局魔法でやっつけたんだし。ちゃんと必要な時に使えるように訓練しとかないと」
それは合ってる。合ってるんだけど、やり方の問題なんだ、やり方の。
「そ、そうだね。いつまた敵がやって来るか分からないしね」
リディアはフムフム言っている。
「私も辛いわ。こんな酷い目に合わせるなんて。でも仕方ないわ。ダヴィドのためよ」
キャサリンの前歯はさらに鋭く光る。
「じゃあ、私も協力するよ。キャサリンだけに辛い思いをさせるのは可哀想だわ」
バカ、やめろ。俺は何とかして口を開けようとしたが、キャサリンの馬鹿力で口を開けられない。
「ありがとう。ほら、ダヴィドも喜んでるわ」
喜んでまへん!
リディアはその辺にあった木の棒を掴んで俺のケツに狙いを定めた。おい、本当にやめろ!
「お兄様、ごめんね」
スパーン!
びっくりするほどいい音がして俺はケツをしばかれた。何の罰ゲームだよ!
そうして俺は日暮れまでキャサリンに噛み付かれ、リディアにケツをしばかれたが、結局魔法は出なかった。
二人の美少女にしばかれながら、最後の方にちょっとだけ今までにない快感が芽生えつつあったことは内緒だ。




