第12話 よろしくリディア!
「さあ、早く逃げなさいよ!何やってんの!」
そうだ。部屋から出よう!
俺は今部屋の一番奥にいる。グランドオークは扉の向かいの窓の前にいる。部屋の外に出るなら奴の前を通らないといけない。
「ええい!行くぞ!」
俺は覚悟を決めて扉に向かってダッシュした。
キャサリンはグランドオークの体を駆けずり回って噛みつきまくっている。グランドオークは呻き声を上げながらキャサリンを捕まえようとするが、すばしっこいキャサリンはなかなか捕まらない。
「リディア!早く立つんだ!」
扉の前まで来ると、リディアは扉の前で腰を抜かしてへたり込んでいる。
「う、う、うん……」
しかし腰を抜かしていて立ち上がることができない。
「お、おい、早く、立たないと!」
俺が必死になってリディアを立たせようとしていると急に首根っこを掴まれた。
「おまえ!殺ず!」
俺の体はバレーボールでも放り投げられたかのように軽々と吹き飛んで部屋の隅に叩きつけられた。
「何やってんのよ!ばか!」
キャサリンが叫んだ。
「いっ、痛ってえ!く、くそっ」
俺はもう一度扉を目指してダッシュする。
グランドオークはめちゃくちゃに腕を振り回し始めた。その辺においてある家具の破片が飛び散りまくる。家具の破片を何個か食いながら再び扉の前に来た。
「さあ、リディア!」
リディアは何とか立ち上がることができた。よし、このまま部屋を出て助けを求めるんだ。
振り返るとキャサリンがグランドオークに捕まっている。グランドオークはキャサリンを食べる気なのか大きく口を開けた。
「キャサリン!危ない!」
俺はリディアを置いて再び部屋の中に突っ込んだ。そして、床に落ちていた箪笥の破片を拾って思いっきりやつの土手っ腹に突き刺した。
「ん?何かしだか?」
奴は笑いながら言った。ま、全く効いてない……。なぜだ。キャサリンの噛みつきは効いたのに。
グランドオークはキャサリンを床に叩きつけた。キャサリンは動かなくなった。
「キャサリン!……ぐっ……」
グランドオークは俺の首を掴んで持ち上げた。
「ぐへへへ。首をへし折っでやる」
目の前のグランドオークの鼻息を全身に浴びながら、俺は声も出せずに意識が薄れていった。
「怒るの」
え?怒ればいいのか。
「イメージするの」
怒って、イメージすればいいのか。
「そう。じゃあの」
待って。何をイメージしたらいいんだ。
「ぶっ飛ばせばいいの」
ぶっ飛ばせって。ていうかお前。
急に意識が戻った。
相変わらずグランドオークは俺の首を絞め上げている。
ぶっ飛ばせばいいんだな。
こいつをぶっ飛ばせば。
キャサリンに乱暴しやがったこのクソイノシシを。
手の平が熱くなってくる。
エネルギーの集積を感じる。
俺の首を締め上げているグランドオークの手首を握った。
このままちぎれろ!
俺は握る手に思い切り力を込めた。
「ぎゃああああ」
グランドオークの腕が紙屑のようにグシャリとちぎれ飛ぶ。両腕から血を流しながらグランドオークは後ずさりを始めた。
「逃すかよ」
俺は目を閉じた。
そして奴がぶっ飛んでいく姿を想像した。
目を開ける。
俺は奴に向かって手を伸ばした。
そのイメージのまま手に力を入れると、巨大な扇風機でも回したかのような風が部屋の中に舞った。
そしてその風がピタリと止んだ。
「このままぶっ飛びやがれ!」
ズバゴオオオオオオオ!
大砲のような音とともに竜巻がグランドオークを飲み込んで、窓の外にもろともぶっ飛んでいった。
「や、やった」
俺はその場にへたり込んだ。
そうだ、キャサリンは大丈夫か。俺は足元に倒れているキャサリンを拾い上げた。
「ん、んん。いたたた」
気がついたようだ。ちょっと気を失っていただけだった。
「おい、大丈夫か」
「う、うん。大丈夫。あれ、あいつは?」
「ああ。やっつけたよ」
俺は鼻の下を指で擦りながら言ってやった。
「え?どうやって?」
「なんか手から竜巻みたいなのが出てぶっ飛ばした」
「あんたさあ、それ何で最初からしないのよ」
「できたら最初からやってるよ!」
「お兄様は誰と話をしてるの」
気がつくとリディアが近くにいた。
「お、おう。大丈夫だったか、ケガはないか」
「大丈夫よ。お兄様こそ大丈夫?なんか凄い竜巻が出てたけど」
「ああ。俺は大丈夫だ」
「で、誰と話してたの?」
「え?ああ。なんだか分からないけど、喋るリスが天井から落ちてきたんだ」
リディアは怪訝そうな顔をしている。
「そ、そうなの……。喋るリスって聞いたことないけど……かわいいね」
リディアはキャサリンを覗き込んで言った。
「はじめまして、キャサリンよ」
キャサリンは俺の手のひらの上で立ち上がって挨拶をした。
「あら、はじめまして、リディアよ。名前まであるんだ。ねえ、お兄様、このリス私にくれない?」
「ダメダメ。このリス凶暴だからな。リディアにはちょっと危険だな……痛ってえ」
また噛みつかれた。
「噛みつかれるようなこと言うからよ。いいわよ。よろしくね、リディア」
キャサリンはリディアの頭の上に乗っかった。
「よろしくキャサリン」
そして二人は笑いながら部屋を出て行った。
あとに残されたのは俺一人だ。ぐっちゃぐちゃになった部屋を見回した。
「とりあえず休憩するか」




