第10話 関原環のブリ大根!
その日夜、またいつものようにちっちゃいおっさん達に取り囲まれた。
今日は巨大な鍋の中で大根と一緒に煮込まれるというものだった。おっさん達は手に大きなしゃもじのようなものを持って私を突っついてくる。
「おい、こりゃとんだブリっ子が手に入ったで!」
「ほなら、これブリ大根やのう」
「せや!ブリ大根や」
「あほ!ブリっ子言うてブリの子供はハマチやさかいハマチ大根じゃ!」
おっさん達は訳の分からない会話をしている。
私はいつものようにやめてー、とか触らないでー、とか煮込まれちゃうー、とか染み込んじゃうとか色々言っている。そして本当は歓んでいる。
ええい、もう、いっそのこと叫んでしまおう。
もっとして!もっと激しく!私を汚して!
「おい、このブリっ子どないしたんや。えらい歓びようやで」
「こりゃええカマトトやで!」
「あほ!ブリやさかいカマトロじゃい!」
「あほはお前じゃ。ブリの子はハマチや言うとるやろが!」
どっちでもいいからはやく私を突っつきなさい!
もう本当に疲れた。
私の頭はおかしくなってしまったのだ。
これまで私はずっと頑張ってきた。勉強も部活も何もかも人並み以上のことをやってきたつもりだ。
しかし私には友達が出来なかった。みんなが休み時間とかに話している内容がくだらなさ過ぎたからだ。なんであんなことで笑ったりできるんだろう。私には不思議だ。吉本新喜劇を見てるほうがよっぽど面白い。
唯一できた友達の夕花とは今朝ケンカしてしまった。夕花はなぜ私が怒っていたのか分かってないだろう。私も説明できない。明日普通に話しかけてくれるだろうか。もし話しかけてくれなければ本当に私は独りぼっちだ。
なぜこんなことになってしまったのだろう。
本当に。
本当に嫌になる。
ここではないどこかへ行きたい。
「神様!!助けて!!」
「なんじゃ」
え?あなた誰?
「ウチは神様なの」
なんで神様がここにいるの?
「お主が呼んだんじゃろ。神様!!って言うたじゃろ」
いや、でも本当に来てくれると思ってなかったし、あと声がなんか幼いし。
「みんな声のこと言うの。で、何の用じゃ」
どこか別の世界に行かせて。
「何故じゃ。お主、この世界でなかなかいい思いできてたはずじゃが」
何もいい思いなんかしてないわ。本当につまらないことばかりよ。
「そうかの……。能力も高いし器量もいいし。何が不満じゃ」
もう、何もかも不満よ!とにかくこの世界がもう嫌なの!もう疲れたわ!
「何もかもと言ってもなあ。ええっと、お主の欠点は……ああ、性欲が異常に強いの。これは凄いの。こんな奴あんまり見ないの」
やっぱりそうなのね。でも一週間ほど前はそうでもなかったのよ。
「そんな一週間で性欲が変わったりしないの」
いや。絶対に一週間前は何もなかったわ。
「うーむ。性欲の絶対量は生まれた時から決まってるの。ええっと……。あっ!」
な、何よ。
「……何もないの……」
怪しい!絶対何か隠してる!
「何もないの!この話終わり!」
ますます怪しいわ!あんたが私の性欲変えたんでしょ!
「ち、違うの!ウチは悪くないの!ウチはただ頼まれただけなの!」
ほら!あんたがやったんじゃない!
「いや、違うの!もう、しまったの!」
何がしまったの、よ!誰に頼まれたのよ!
「そ、それは……言えないの……」
何よ!人の性欲勝手に弄っといて。許されると思ってんの!
「わ、分かったの。お望み通り転生させてあげるの。でもお主生まれ変わりポイントが全然ないから碌なものに転生できないの」
ちょっと!その前に私の性欲変えてくれって頼んだ奴は誰よ!
「そ、それは……言えないの……」
じゃあ、意識が戻ったらありとあらゆる神社にウソつきとか性欲泥棒とか書いたポスター貼りまくってやるから!
「わ、分かったの。もう……。他の神様に迷惑かけるようなことはしないで欲しいの。じゃあ、ウチにお主の性欲を弄ってくれって言ってきた奴のところに転生させてやるの」
ええ。それでいいわ。出来るだけそいつの近くで転生させてね。
「注文が多いの……。ほいっ。奴はすぐ下にいるの。ただ、お主の生まれ変わりポイントが全然ないの。人間に転生するのは無理なの」
なんでもいいわ。別に。何になるの?
「うーん、リスくらいならいけるかも」
じゃあ、それでいいわ。
「お主、本当にいいの?今のお主の能力は完璧なの。もったいないの」
そんなの要らないわ。とにかく私の性欲弄った奴に文句言ってやるのよ。
「リスの体でどうやって文句言うの?」
喋られるようにしといてよ。
「もう、ほんとに無茶苦茶なの」
ポスター貼られたいみたいね。
「分かった分かった。もう分かったの。そしたら、ほいっと。しといたの。じゃあの」
え?もう転生するの?ちょっと早くない?




