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崩壊の異世界

  何かが、森を動いている。


 どうせまた魔物とか魔獣なんだろう、もはや気にもならない。


 直立する木々に挟まれる、自然には作られ得ない小綺麗な道。

 その上を、体に布を巻いた長い黒髪が歩いている。


 こういった森林には、まず間違いなく均された道があった。


 馬車サイズが通れるような道を、ましてや怪物蔓延るこんな森に作るのだ。

 余程この道が必要だったのか、或いは相当豪傑な職人がいたのか…


 答えは得ていても、色々と想像して楽しむことはできた。

 顔の小さいハースには少々不恰好なゴーグルを外し、今日の予定を立てる。


 森の中に転移してから4日が過ぎた。

 森を進み、道沿いに村を探し、彼らに見つけてもらえるよう、より広い街へと歩みを進めている。


 今日で5日目。

 流石に向こうも来るだろう頃合いになる。


 前の街で尋ねた男によると、次の場所は国が誇る魔法都市らしい。

 大陸唯一の魔文明が栄えた都市で、最も多くの人が集まるとか。


 残りの日はそこで過ごそう。

 そう決めると少し足を速め、よく整った滑らかな道を、立ち止まることなく歩んでいった。


 誇るだけはある。

 幾分も往かないうちに、壮大で不可思議な建造物がお見えになる。


 都市を包む球体や発光する浮遊物などに関心を示すこともなく門をくぐると、魔法が存在する街独特の音響に包み込まれる。

 だが、入ってすぐの広場に並んでいたのは、筋力に極振りの魔法使い達のようだった。


 鎧を着込み、杖ではなく槍を携える集団。

 その中でも特に屈強そうな男が叫ぶ。


「そこで止まれ!」


 既に止まっている。

 男は続けて言葉を発しようとしたが、兵の中を進んでくる影が目に留まると、一歩後ろへ下がった。


 武装兵達の警護を受けながら、軽装の青年が、驚愕と懐疑を伴った表情で前に出てきた。


 熟練の剣士を名乗るには若く見受けられる彼だが、身に付けているものは剣一本。

 そしてその背後には、やはりと言うべきか数名の女性が控えていた。

 この男に間違いないだろう、やっと探しに出てきたようだ。


「あなたは、この世界の人間じゃないな?」


 開口一番、青年はこう聞いてきた。

 普通の人であるなら、決して出てきはしない質問。


 わざわざ答えるまでもない。

 もう分かっているだろう、という顔で彼の方を向く。


「そうか……なら、あれをやってるのはお前なんだな」


 青年がそう言うと、兵や女性達だけでなく、遠巻きに見ていた住民からも声が上がった。

 こちらを睨み、続ける。


()()()()()()()()()()()()()!」


 私の来た道を指差し、彼は叫ぶ。


 4日前にいた山の向こうが、跡形もなく消滅している。

 その山も、中腹であった所が山頂になっている。

 もはや村が何処にあったかを示すことはできない。

 鬱蒼と生い茂っていた森も今や林。もう間も無く木と呼ぶことになる。


 それもそうだろう、5日目だ。世界全土の6分の5は消えたことになる。

 明日が終われば、この異世界も終わる。


 魔法が存在する世界とはいえ、これ程の超常現象は流石に起こらなかったらしい。

 人々の顔は、正にこの世の終わりを見ているといった状態だ。


 この異世界へ転生し、幾度となく世界を救った気分を味わっただろう勇者とその仲間達は、今迄とは比べ物にならない破滅をもたらす元凶を前にし、これが最後の戦いだとでも言いそうな顔でこちらを見ている。


 いくら睨まれても、こちらからすることは何もないのだけど。


 気を引き締めることなどはなく、ただぼんやりと崩壊を眺めていた。

 それを魔王の余裕とでも受け取ったのだろうか、女騎士が1人、雄叫びを上げ飛び込んでくる。

 それを決戦の口火としたらしい、勇者と仲間達も続いた。


 素早く後ろへ下がり、既の所で剣先を躱した。

 もう1人のナイフが来る。後ろへ大きく下がり、躱す。


 どうしようか。やっぱりすぐ終わらせるべきかな。

 上空から降り注ぐ光矢の雨を、駆け抜けながら避ける。


 未だに決まらない次の行動を考えながら、回避に徹していたその時。

 勇者が放った神速の雷魔法が、腹部に命中する。


 その場に倒れ込んだ。

 呆気なかったが、そこは労せず勝利と名声を得てきた彼だ。


 我が雷に敵は無し。儚くも敗れた破壊者へ歩み寄る。せめてもの情け、最期の言葉だけでも聞いてやろう。


 そんな所か。

 一瞬で静まり返った広場の中、近づいてきた勇者は方膝で立ち、勝利宣言か何かを口にしようとしていた。


 ここ。


 瞬間跳ね起き、持てる最高の速度で左手を伸ばす。

 流石は転生で得たステータス、反射で跳び退いたようだが、これで終わり。


 無用に長いマントの裾を掠った。

 そんな物を着て戦うからだ。裾から体へ、滅びが伝う。


 呆気ない、何を言う間も無く勇者は崩れ去った。

 すると他の人々も、一斉に消滅する。


 触れることで盡くを崩壊させる彼女の体だ。

 雷であろうと魔法であろうと、望まれぬものが届くことはない。

 急速に崩れ始めた大地の中、ハース1人が立っていた。


 天へはらはらと立ち昇る、これまで世界を形作っていたもの。

 それらは集まり、1枚の紙片となる。


 綴られているのは、この世界の根底。

 異世界転生者の願望だ。


 最後まで目を通すと、真ん中から2つに引き裂く。

 転移が開始された。


 眠気によく似た意識の消沈を感じながら、彼の願望を思い浮かべる。

 英雄になりたい、とかだったか。


「本当に愚かな人達」


 微笑が、つい漏れてしまう。


 人は何かになろうとしている時、それからは最も遠ざかったものになってしまうのに。







 次は、何を見ることになるだろう。

1話目なんで気合いが入り過ぎてます。

もう少し柔らかい文を書けるようになりたいです。

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