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狼は今日も奔走する  作者: 朱音
怪談話編
4/6

上編

 

 ノアが生まれ育った、ルティグル家は代々王家に仕える家だ。

 分家もあるが、全てこのアニマンド王国の王家の血縁者に仕えてきた。


 しかし、この一家には特殊な体質があった。

 それは、アニマンド王族の1人に忠誠を捧げると、その王を補助するため、特別な体質を開花させるのだ。

 例えば、ノアの兄で将軍の地位にいるアルスは、その体を鋼のように強くできる。現国王に嫁いだ従姉妹のデジレは、その体を透明にすることが出来る。


 ノアだって、身体の年齢を自由に変更することが出来る。

 そう、身体の年齢だ。精神は関係ない。よく泣き崩れているが、あれは精神が幼児後退しているのではなく、彼の素だ。


 それはさておき。

 ルティグル家がこのような体質を持ったのには、諸説あるが間違いなく言えることがある。


 捕獲しやすいからでは断じてないはずだ。


 ノアは、ガッチリと固定された自分の身体と、その元凶の陛下の腕を恨めしげに睨んだ。

 しかし、その姿に迫力のはの字もない。


「――そうして、騎士が後ろを振り向いた時、そこに居たのは、血みどろになって自分の首を抱える、死んだはずの親友の姿だったそうです」

「にぎゃぁぁぁ!!!」


 耳を塞いでも聞こえてくる語り部の声に、ノアはガタガタと体を震わせた。我慢出来ず、ノアを膝の上に乗せている陛下に、ヒシッとしがみつく。

 しがみついた体が、小刻みに震えていることに気がついたノアは、陛下の筋肉がしっかりとついた胸板を叩いて抗議をした。


「離せぇ!」

「ふっ、諦めのくっ、悪いやつだなハハハ」


 陛下は堪えきれず笑い声を上げた。そして、膝の上に座るノアをあやす様に、頭を撫でた。

 いや、事実あやしているのだろう。


 ノアの現在の見た目は、5歳前後。この頃から健在だったつり目も今や情けなく垂れ下がっている。デジレに強制的に着せられたモコモコの着ぐるみパジャマには、威厳のある狼の耳とふわふわの尻尾が付いており、ノアの心情を反映したのか、しんなりと垂れている。


「陛下、私の話は以上で終わりです」

「そうか、なかなか面白い話だった」

「全然、面白くない!!」


 大の大人が4人で集まって何をしているのかというと、怪談話をしているのである。ノアにいわせれば、この国の悪しき風趣だ。

 夏の暑い時期に怖い話で肝を冷やすというこの風趣を、この国の国王が嬉々として行っている。本来は、とても良いことなのだが、如何せん、理由がノアの反応が面白いからという下心満載なので、喜べない。


 そして、ノアは大好きな陛下のお願いを断り切れない。

 結果、毎年の恒例行事となっている。


「アベルぅ…」

「ここ最近、建国祭の準備で忙しかった陛下の、息抜きだと思って諦めなさい」


 そう窘めるアベルの目も、ノアの怯えっぷりをみて、三日月の弧を描いている。Sか、いやドSなのか。


「ふふっ、いつも可愛いわね、ノアは」

「嬉しくないっ!」


 ガウッと吠えるノアを笑顔で受け流したのは、ノアの従姉妹にして陛下の妃であるデジレだ。

 ノアのつり目と対称的に垂れた目尻をさらに緩めている。ホワホワとした羊のような雰囲気を纏うデジレは、キャンキャンと吠えたてる子狼を、意に返さない辺り、見た目とは反対に豪胆なのだろうか。


「次は私の番ですね。ふふっ、懐かしいですわ」

「そうだな。デジレは学園の時以来、参加してなかったか」

「ええ。いつもこの時期は、忙しいですもの」


 優雅にお茶を飲んだデジレは、最後に自分が参加した時のことを思い出した。


「そうそう。あの時もこんな感じでしたわね――」


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