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狼は今日も奔走する  作者: 朱音
婚約破棄編
3/6

後編

 

 バサリとマントを羽織ったノアは、自身を元の青年の姿に戻した。


「まったく、お前たちにこの姿を晒すつもりは無かったんだが…」


 元の姿じゃないと、権限が使えないのは不便だと、頬をかいた。

 その姿に、食堂にいた全員が、唖然と口を開ける。

 再起するのが早かったのは、やはり、ノアに関りが深かった、この3人だ。


「えっ…先生…?」

「師匠!?」

「おじ様!!」


 三者三様の反応だったが、喜色の声を上げたのは、レティシアただ一人。

 レティシアは状況を忘れ、頬を紅く染めながら、ノアの袖を引っ張った。

 それに対し、チャーリーとジャックは顔を俯かせ、小刻みに震えている。

 それを見て、ノアはフッと微笑んだ。


「お前ら、あとから説教だからな」


 説教という言葉を強調させたノアに、2人は先ほどとは違う意味で体を震わせた。

 そんなやり取りを見て驚愕から抜け出した観衆は、ざわざわと騒めいた。

 まあ、学園の一生徒と思って接していた人物が、そうでなかったら、誰だってビビる。

 そんな中、オリヴィアは、ノアの顔を見て、ニヤリと嗤った。


「まさか、隠しキャラがこんなところで出て来るなんて」


 乙女ゲームの時に推していたキャラだけに、攻略方法は、頭にすべて入っている。

 その下心満載な、胸の内の醜さが、隠し切れずに表に反映される。

 その醜い顔を一瞬で引っ込めたオリヴィアは、上目遣いでノアに擦り寄った。

 その変わり身の早さに、周囲は彼女に呆れた視線を向ける。


「ノア様、すごい()()ですわね」


 オリヴィアに露骨に、嫌悪を向けたノアは、すすっと彼女から離れた。

 そのノアの行動に、オリヴィアが驚いたように、目を丸くした。


「なんで…」

「こっちのセリフだ。なんでお前は、俺の()()()()と判断したんだ?」


 学園で、魔法を学んだことのある者なら、そんなことは思いもつかないだろう。

 しかし、彼女は、当たり前のようにノアの体質を魔法だと言い切った。

 まるで、誰かに吹き込まれたように。


「お前のその意図が分からない行動、それと先ほど言った、シナリオの意味、すべて話してもらうぞ」


 ノアの、先ほどとは根本的に違うそのオーラに、オリヴィアは体が固まってしまった。

 紅い瞳に魅入られてしまったオリヴィアの運命は、そこで決まってしまったも同然。


『お前の知っていることを、すべて吐け』


 今度こそ、しっかりと言霊が宿った言葉に、オリヴィアの意識は逆らうことはできなかった。

 まるで、自分の体でないように、勝手に動く口に、彼女はどれほど恐怖したのだろうか。

 ノアだって、必要がなければ、使いたくない。

 しかし、彼の家の役目を思えば、使うべき場面でもあったのは、事実だ。


 オリヴィアが話し出したのは、前世の記憶があるというところからだ。

 曰く、この世界で主人公であるオリヴィアが、学園に行き、玉の輿婚をするといった内容のゲームがある。

 曰く、だから、自分は攻略者の中の誰かと幸せにならなければならない。

 曰く、自分は、主人公だから何をしても許される。等々、まるで受け入れがたいことを語った。

 それら全てを聞いた、ノアは、フーンと納得したように、頷いた。


「で、そのゲームとやらで、レティシアは悪役だったわけだ」


 ノアに理解してもらえたと、ぱあっと顔を輝かせたオリヴィアに、ノアは何を勘違いしているかは知らんがと、溜息を吐いた。


「お前の思考回路は分かったが、やったことは許されることじゃない。今日この時をもって、男爵令嬢の称号を剥奪、さらに反逆者として身柄を拘束する」


 ノアから下された罰に、オリヴィアは納得がいかず、金切り声を上げる。

 どうして。わたしは、この世界の主人公、ヒロインなのよ。醜く声を上げるオリヴィアを誰も庇おうとはしなかった。

 取り巻きもだ。

 むしろ、白昼夢から覚めたように、今までの自分の行いに、項垂れ頭を振る始末だ。


 それは、チャーリーも同じだ。

 チャーリーは自分がしようとしたことの重大さに気が付き、レティシアに頭を下げた。


「すまなかった。君には悪いことをしたと思っている」


 許してほしいとは思わない。大勢の前で、君を貶しめるようなことをしてしまった。舌の根も乾かないうちにと、思っているだろう。許してくれなんて言えない。

 そう言うチャーリーをレティシアは、静かに見つめる。


「頭を上げてくださいませ。貴方様がおかしくなったのは、彼女の、その前世の記憶とやらのせいで御座いましょう」

「それでも、私の心に弱い部分があったのは事実だ。そこに付け入られ、君を傷つけてしまった」


 謝罪は必要ないと言い張るレティシアと、それでも、自分にも非があるのだからと土下座をし始めようとするチャーリーをノアは、見守った。

 ノアは、オリヴィアを、騒ぎを聞きつけてやって来た警備員に伝言を添えて引き渡すと、体を少年の姿に戻し、踵を返したのだった。



 ノアの向かった先はもちろん、王宮である。

 青年の姿になり、執務室へ飛び込むとそこに居た人物に露骨に顔を歪めた。


「よぉ、ノア」

「ま、マルコぉ!?」


 ぴやっと飛び上がって、威嚇し始めた狼を、ニヤニヤ笑って見つめるのは、ノアの天敵であるレティシアの父マルコである。


「随分、派手なイベントがあったらしいじゃねぇか」


 情報通なマルコは既に、婚約破棄事件を知っているのか。

 地獄耳と呟いたノアに、聞こえてるぞと返すマルコは、怒り狂っているということは無さそうだ。


「どうせ、陛下と既に今後のことを話してるんだろ?」

「そうだ。チャーリーとレティシアの婚約破棄は保留して、オリヴィア嬢は、裁判をするつもりだ」


 国王の言葉に、それが妥当だなと、頷いたノアはマルコの隣をすり抜けて、はいっと王に報告書を差し出した。


「…これで、いいんだよな、陛下」

「もちろん。この()()()()()は強制力があったようだから、一度イベントを消化する必要があったからな」


 そうじゃないと、今後どうなるか分からなかったからな。と宣う王に、ノアは俺もちゃんと役目を果たしたでしょ、褒めてと言わんばかりに、幻覚の尻尾を振った。

 それを正確に受け取った、王はえらい偉いとノアのくせっ毛を撫でた。


「じゃあノア、次の仕事な」

「うげっ」


 休みは!?と泣くノアに、冗談だと笑う王。

 結局ノアは、今日も、王の命令を受けて、国内を奔走するのであった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。

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