トロピカル学園高等部2年4組❶アタイはアンポンタンよ。アチョ〜
❶アタイはアンポンタンよ。アチョ~!
【トロピカル学園高等部二年四組にて】
美人女性教諭の大泉京慶先生は、黒板に大きく読みやすい文字で『あんぽんたん 安本丹』と板書すると、教室にいた女子生徒二十名は一斉にワハハハ、ワハハの大爆笑。その後はコソコソと好き勝手なことをほざく、抜かす。
「最近の親はDQNが多いからな」
「このあんぽんたんも練炭に走らなきゃ良いけどさ」
「明日はきっとキョンシーでやって来るに違いないわ。もち米持って来なきゃ」
「いや、明日は『燃えよアンポンタン』のパターンだわね」
「神のご加護を。アーメン」
「南無阿弥陀佛」
「父ちゃんの店で爆買いしてくれないかなあ」
ド短気な大泉先生は、「こらあ、静かにしなさい。名前でそんなに過剰に反応する必要なし」と手に持っていた出席簿を教壇にドンと叩きつけました。
☆ ☆ ☆
大泉先生自身、名前では相当イヤな思いをした経験の持ち主のようです。
名前の京慶は、シングルマザーの大泉聖子が当時追っかけをしていたほどの大ファンだった元アイドルの愛称から採られました。漢字は、日本語で該当するものがなく、聖子ママは韓国語の発音に類似するものがあることを知って、その発音をそのまま韓国の漢字に当てただけなので、特に深い意味はないということです。
もちろん、彼女の学生時代のニックネームは「キョンキョン」でした。本人は小学生くらいの時は恥ずかしかったようですが、中学生になって合気道を始めてからは、そんなことには動じなくなっていました。武道が彼女を大きく変えたのかもしれません。
ただ、男は誰一人寄り付きもしなくなりました。
それで、今年は三十代にいよいよ突入!
☆ ☆ ☆
(大泉先生の余談はさておき、話をセロハン磁気テープで戻しましょう)
すると、教室にいる生徒二十名はコソコソとスマホの電源を切り、教室は静まり返ったのであります。
大泉先生を怒らせたら、さあ大変!
生徒たちからしてみれば、ホラー映画より怖い大泉先生の体罰が待っているからなんですね。
わが国『フリーダム国』では、体罰は容認されておりますので、悪しからず。
なぜって。
それは、大泉先生はこのクラス二年四組の担任であり、国語科の担当であるとともに武道家なのですよ。空手三段、合気道四段、柔道二段……。腕相撲で勝った男性教諭いまだなしの実績を誇るのですよ(『別に、それいらないでしょ。誇らなくていいでしょうに…』とは大泉先生が申しておりましたが…)。
☆ ☆ ☆
大泉先生が両手を二度ばかりパンパンと強く叩くと、生徒たちはビクッとしながらも大泉先生の方を凝視するのです。
「さあ、こっちを見て! 先生の隣りにいるのが今日から、このクラスの仲間になる中国から来たあんぽんたんさんですよ。みなさん、仲良くしてあげてね。じゃあ、簡単に自己紹介してもらいますからね。じゃあ、あんさん、よろしくお願いしますね」
「アチョ、アチョ、アチョ~! アタイ、中国は南京から来ましたアンポンタンで~す。二年四組のみなさん、よろしくネ」といきなりチャイナドレスに布靴を履いたカンフー姿でヌンチャクを振り回して映画『死亡遊戯』のワンシーンを彷彿させる出で立ちで登場するとは、とっても風変わり。
このスライム級の攻撃に面食らった感じのクラスメイト一同であります。
「……」
誰も拍手することなく、異様な雰囲気に包まれていくのでありました。
☆ ☆ ☆
大泉先生もこの何とも言えない雰囲気を変えようと、
「じゃあ、アンポンタンさん、席は一番後ろの空いているところでね。お隣さんの阿保さんよろしく頼んだわよ」
と先週転校して来たばかりの阿保さんに委ねることにしました。
この時、大泉先生は少し手が小刻みに震えていましたが、「ワタシ、負けないから」と自分に言い聞かせるしかなかったのであります。
またしても問題児がやって来たからです。
そうなのです。
先週は、琉球王国から転校して来た時間感覚がゼロの問題児・阿保ダラ。
彼女には時間の概念がそもそもなく、担任の大泉先生自ら家へ迎えに行かなければ学校に来ることさえできない有様なのですよ。
しかし、二週連続は、大泉先生にとっては想定外のキツ~い展開。
「きっとこの前の仕返しね。今度、チカン紛いのところを見つけたら、タダで済むと思ったら大間違いよ、ハゲツルオヤジ」とひとり放課後の職員室で愚痴りながら酒をあおる大泉先生。
今回ばかりは、ハゲツルこと紀藤教頭にしてやられた感ありといったところでしょうか。