第92回 無法松
11月15日
樹の方が、なにやら。
アミで四角く、囲われていて。
ええ、樹は、樹木ですね。
それはもう、立方体にです。
オシャレでしょうか。
それとも。
悪いことをして、とじこめられている。
「わしも若いころは、のう。」
樹の方が、話しかけます。
「こうみえて、自転車に乗ったり。コンビニに行ったりと。だいぶ、無茶をしたものじゃ。」
なるほど、それでこんなふうに。
囲われてしまったわけですね。
ふべんでは、ないですか。
「いや、これはこれで。一国一城の主といいますか。」
「なれてみるとそう、悪いものでもないんですよ。」
それなりに、余生を楽しんでいただけているもようです。
「わしももう、若くはないしのう。もう、自転車にのったりもせんのだが。」
「ただ、しぬまえにもう一度、コンビニに行ってみたかったものだ。」
樹の方は、さびしげにおっしゃいます。
こんなふうに囲われていては、もはやそれもかなわない。
世の中には、もっと悪いことをして。
平気で楽しく暮らしている人も、たくさんいるというのに。
不憫におもったぼくは、缶コーヒーをお供えしてその場を離れました。
あとでみてみたら、樹の方はレゲエになっていました。
どうも、予想以上に無茶をする方だったようです。
コーヒーなのが、まじかった。
今度はオレンジジュースにしてみます。




