Ex. アンティキティラ
すごくすごく、かつてないほど昔のことです。
カミサマは、とてもすばらしい機械を人々にお与えになりました。
すばらしい機械は、それはそれはもう、すばらしい機械でしたので。
掃除、洗濯、ビデオの予約、思いつくかぎりのことは、なんでもできましたし。
どんなものでも、造ることができました。
人々は、すばらしい機械をそれはそれは便利に使い。
それはそれは、便利に暮らしておりました。
しかし。
便利になればなるほど、より多く。
より速く、より様々なモノを際限なく求めてしまうのが、人間の困った性分というものでして。
すばらしい機械はもちろん、カミサマがお造りになられたそれはそれは、すばらしい機械だったので。
手入れ要らずのメンテナンス・フリーに造られておりましたが、それはあくまで、適切な使用法で適切に使用した場合のお話。
欲に駆られた人々は、次第に無茶な使い方をするようになり。
やがて、いつしかすばらしい機械は、めきき、ばききと異音を立てて動くようになっていきました。
古代のハカセはメガネをクイッとやりながら。
このままではきっと、すばらしい機械がこわれてしまう。
そう、人々に訴えました。
しかし、古代のえらい老人たちは、まだ動くから、問題ないべい。
ただちに影響はない。
ハカセの訴えをゆとり世代特有の悲観的展望と断じ、すばらしい機械により高い生産性を求め続けました。
すばらしい機械はいよいよ。
時折、ガタン、バタンと止まるようになり。
とてもとても、すばらしい機械とはもう呼べないありさまとなってしまいます。
えらい老人たちは、この機械のことはよくわからんが。
油でもくれてやればよく動くようになるべい。
そう判断し、機械が止まる度にやたらと油を射しました。
機械の中にはどんどん質の悪い油が溜まっていき、複雑な内部の歯車はアッという間に腐食して。
ついに古代のとある風の強い日、機械は完全にこわれてしまいました。
もう二度と動くことのない、それはそれはすばらしい機械だったものを、それでも人々はまだ。
これはカミサマのお与えになった、すばらしいものなのだから。
そういって後生大事に抱え、なんとか便利に使おうとします。
これ、ここ、ここ。
このハンドルがまだ回るから、これを回して粉を挽こう。
ああ、便利、便利。
これ、ここ、ここ。
ここのフタがパカパカするから、これを使ってモチをつこう。
ああ、便利、便利。
あげくの果てに人々は、かつてはすばらしい機械だったものをヘルメット置き場として、便利に使い始めました。
そんな人々の姿を見て、古代のハカセは眉をひそめ。
愚か。
メガネをクイッとやります。
やがて何百年もの時が過ぎ。
地上の人々がすっかり、すばらしい機械のことを忘れてしまった時代のこと。
長い長い長い間、ずっと土の中に埋もれたままだった、すばらしい機械が掘り出される日がやってきました。
現代のハカセはメガネをクイッとやりながら。
これはなんとすばらしい、絶後の大発見だ。
古代では、ヘルメットが流行っていたことがわかったぞ!
現代の人々は、すばらしい、すばらしいとハカセの発見を讃えます。
現代のハカセは、そんなことはありませんよ。
メガネをクイッとやりながら、謙遜するのでした。




