第85回 飛翔
11月8日
電柱の陰に、なにやら、フトン。
なんですか。
びっくりさせないで頂きたい。
いくらぼくがフトンがすきだからって。
こんなところで待ち構えなくてもよさそうなものだ。
あれか、干してもらえないから。
怒って逃げてきたのですか。
なに。
おじいさんが。
正月のモチを買うためにたくさんこしらえたけど、思ったほどネットで売れなくて。
ぶっちゃけ余ったから。
電柱さんも寒かろうと、かけていった。
じじいめ、ダイナミックな不法投棄だな。
なるほど。
干されてしまった側ですか。
フトンはせっかくだから、寝ていきませんかと言う。
寒いしー。
寝たいのはー、ヤマヤマなんですけどー。
クマじゃないしー。
寝てばかりもいられない、みたいなー。
感じ?
ぼくが丁重におことわりすると、フトンはいそいそと電柱をよじのぼり始めます。
ちょ、早まるんじゃない。
女子高生口調で気のない対応をされて傷付いたのなら、それは悪かった。
謝りますから。
フトンはよい風の頃合いをみはからって。
トップロープから、フライ・ハイ。
その刹那。
フトンはたしかに、宙を飛びました。
その物体はジグザグに飛びながら、山の向こうに消えていったんダ!
見た、ぼくは見タヨ!
なんでもない。
昔の人はそんなフトンを見て、きっと、空飛ぶ絨毯やら。
キントウンやら、UFOやらのお話を、考えたのだろうな。
フトンはそのまま、歩いてきたじじいの頭上に、ばさり。
華麗なフライングボディープレスが決まります。
ワン・ツウ・スリイ。
カンカンカンカン。
うむ。
どうやら安らかに眠れそうで、よかったですね。
ま、夜中に電柱に恩返しに訪ねてこられるよりはまだ、幾分かマシだったんじゃないかな。
ぼくは仕事だから、もう行きますよ。




