おそらくは一番、よい関係。
10月25日
老犬は近頃、よく眠るようになった。
日に二度、水を飲むためによれよれと立ち上がっては、戻って来て寝る。
暑ければ伸びて眠り、寒ければ丸まって眠る。
これでも若き日には群れを率いて野山を駆け、熊の軍団と戦ったりもしたものだ。
そんな夢をみては鼻をひくひくさせ、脚をぱたぱたさせ、老犬はただ、よく眠る。
いつの頃からか。
彼の棲家には時おり、不思議な猫が訪れるようになった。
水を飲みに来るわけでもなく、自分より一回り大きい彼を恐れる事もなく入ってきては、ただ丸まって、寝ている。
ふわふわで綺麗な、可愛らしい生き物。
本当はもう少し、仲良くなりたいのだが。
彼が他の犬にするように、近づいたり、鼻で突いたり、舐めたりすると、その生き物は怒ってどこかへ行ってしまう。
そんな時何故か、彼は酷く悲しい気持ちになるのであった。
晴れの日には、今日は来てくれるだろうか、と考える。
もう来てくれないのではないか、と思うと、寂しくなるのはどうしてだろう。
雨の日には、今日は来てくれないのだろうか、と考える。
雨に濡れているのではないか、と思うと、心配になるのはどうしてだろう。
不思議な猫は機嫌が良いと、いつの間にか近づいてきて、ちゃっかり彼を枕に寝ていたりする。
勝手に腹の上で寝ている気ままな猫を見下ろしながら、彼は考えている。
恐らくは己の方が、この綺麗な生き物より先に動かなくなるのだろう。
やがて来るその時には今のように、彼女に寄り添っていて欲しい。
老犬はもたげた頭をまたおろし、目を閉じる。
二匹はいつも、ただ、そうやって寝ているのであった。
外では雨が降り続いている。




