穴沢オリオン
10月18日
なんでいるの。
問うてはみたものの。
長らく体調を崩していたと聞く彼女がいきなりいるということは、つまりはそういうことなのだろう。
これからはずっと、一緒にいて、くれるのかい。
問うてはみたものの。
来てくれたということは、つまりはそういうことなのだろう。
「いいけど、君も死ぬよ。」
かまわないよ。
「かんがえたり、しないの。」
そりゃ、死ぬのはこわいけど。
一緒に、いてくれるのなら。
自分の命が磨り減り、身体が蝕まれていく感覚。
ああ、こんなにも。
本当は愛していてくれたんだね。
ああ、こんなにも。
僕だって、愛していたんだよ。
お互いのことが、こうなってみて初めて理解できた気がする。
それで、これからどうするの。
「どうもしないよ?もう死んでるし。」
ああ、そうかい。
「なんで嬉しそうなの。」
だって。
一緒に、いられるし。
「君、気持ち悪いよ。」
ああ、そうかい。
たとえそのまま眠り続けていた方が、僕にとって幸せだったとしても。
命ある限り目は覚める。
目覚めてしまった以上は嫌でも、外に出る。
星空をみたのは、いつ以来だろう。
いつもより深い闇に、昴々と輝くオリオン。
冬の星座は明るくも、温かさのない鉄の輝き。
天球のぐるりを見回せば、あちらは月、
こちらは星。
僕を中心にして、朝と夜が別れている。
かつて青空と雨空の境に立っていた、夏のあの日のように。
朝と夜の境に今、僕はいる。
朝の方にむかって、僕は歩む。
すれ違う丸まった新聞紙や裂けたビニール袋や、ネコではないなにやら長いヘンな生き物は、風とともに夜の方へ通り過ぎて。
彼らの住む、死の世界へ。
もう一度、星をみたいと思うのは、今の僕が幾分かそっちの方に、惹かれているからか。
だが、今はきっと振り向いてはいけない。
あっけなく、夜の闇に呑まれてしまうから。
朝と夜の。
生と死との狭間で人は生きていく。
まだ一応の命が残っている限りは、歩くさ。




