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トゼンサウ  作者: ナルサワパン
里緒菜の章

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歯磨くは獅子、敗者ただ弊れゆくのみ

10月16日


歯がはがれてしまいました。

ハガー。

なんでもない。

あれです。

昔、治療して詰めてもらったやつが、ハガーとはがれてしまいまして。

いや、気づいていなかったわけではない。

なんだか歯にヒビが入っているなあ、とか、さいきん、なんだか歯の上側がざらざらするなあ、とか。

だから前に歯医者に行ったおりに、歯になんだかヒビが入っていまして。

相談したんだ。

なのに歯医者のやろう。

意味がよくわかりません、とぼくをかわいそうな人あつかいしたうえに、切実な訴えを取り下げやがって歯医者このやろう。

あれ以来歯医者にいかないまま、かれこれ四年の月日が過ぎて。

歯医者をそろそろ許せるくらい優しくなれたところでこれだ、歯医者このやろう。

やっぱりぼくが正しかったんじゃないか。

あれから四年、ぼくは自分が頭のおもしろい人なのではないかと、疑いながら生きてきたんだぞ歯医者このやろう。


しかしこうなっては、歯医者に頼らざるを得ない。

だが、件の歯医者。

テメーに頼る気はねー。

むしろ倒したい。

そうだ。

そういえば近所に、軍の秘密研究所で歯の研究をしているところがあったな。

そこに頼るとしよう、さっそくインターネットという機械で調べた番号に、携帯で電話をかけます。

モシモシ。

おい歯医者、やい歯医者。

「寿司っすか。」

寿司だとぅ!?

想定の範囲内でふざけたことを言いやがって。

いいか、よく聴け、歯がはがれた。

「意味がよくわかりません。」

だまれ。

いいか、歯医者を倒したい。

金はない。

「おとといきやがれ。」

予約がとれたようなので、電話を切ります。


来るべき明日に備えてぼくは、歯を磨く。

歯とはそもそも、野生の獣が他者を攻撃するために発達した器官。

生物の体の一部でありながら、無機物のカタマリという不自然極まりない存在。

歯を磨くということは、必ずお前を仕留めるという、野生の獣の意思表示。

歯磨けば、ライオン。

歯医者め。

せいぜい歯を磨いてまっていろ。


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