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トゼンサウ  作者: ナルサワパン
きんじろうの章
277/3034

Ex.ロウマンの休日

総ての道は、ロマに通ず。

帝都への街道をひた(はし)る戦車、其れを駆るのは勇猛果敢、そして残虐非情と名高きロマの名将軍。アキレウスである。

かつて、神話の時代。英雄アキレウスはアポロの神より賜った太陽の二輪馬車を駆り。大空を自由に翔び回ったというが。

帝都を僅かに外れれば、この、路の悪さ。ガタつく路面に辟易する大将軍、神話の身でない己を呪う。

大帝国。ロマの威光も、まだまだであるな。

自嘲気味に漏らす、アキレウス将軍。大都市、ロマの都の美しさ、その完成度は音に聴こえたモノであるが。さて。ひと度帝都を離れ、口うるさい役人どもの目の届かない地方に出れば。距離に比例するかの如く、目に見えて落ちる、路面の精度。

アキレウス、まったく。あきれウス。ナーンチャッテ。

衆目の監視がない場所で、気持ちの緩むは土工奴隷も大将軍もおなじもの。人知れずお道化る、アキレウス。しかしその眉根には深い縦皺、表情は飽くまで厳しき殺戮の将軍。まさかこのように厳つい、世紀末覇王が如き将軍が。頭の中では駄洒落ているなど、誰が想像出来よう。

嗚呼。速いところ、ロマに帰って。ひと風呂あびたいものよのう。

アキレウス将軍とて人の子。戦の疲れは風呂を求め、その脚を急がせる、急がせる。


さて。

ロマの都に帰り、早速風呂へと向かう、大将軍。

肩まで湯に浸かり、手足を伸ばし。空を見上げて、溜息ひとつ。

東京には、空がないのう。

もとい、もとい。

ここは古代、ロマの都。アキレウス将軍はぎらつく太陽を見上げ、近く迫った夏の足音を予感する。

あうぃ。1(ウーノ)、2(ドゥーェ)、3(トレス)、4(クアットロ)。100まで数えて湯から上がるは、ロマの男子の身嗜み。発音が微妙にスパニッシュなのは、この物語を語り継ぐ、盲目の、吟遊詩人が。ロマらしく聴こえる異国の言葉を、其れしか知らない、其の故か。

57、58、59、はて。

今、余はどこまで数えたものか。

50だったか、60だったか。そもそも。50はスパニッシュで、なんと云うのだったか。

湯に惚けた頭に思考を巡らす、冷血将軍。

ええい、ならば、50から。

2つの路が在るなら、敢えて困難な方を()く。この冷酷非情な将軍が。それでもロマの市民、部下の兵士たちから絶大な支持を得ているのは。力の強さだけでない、このような、己に対する厳しさにある。大将軍、顔を赤く、湯立てながら。100まで数える、初夏の昼。


夕暮れ。風呂ですっかり出来上がり、程よい気分のロマの将軍。テラスの涼風に当たり。フルーティミルクなぞ、飲しておるが。

ふと目をやれば、庁舎の前に。なにやら集まるロマの臣民、帝国民たるペンギンども。

なんだ。また陳情か。

まったく。

あやつら、集まることしかしらぬ。

ロマの将軍、溜息ひとつ。涼風にくさめ、これはイカンと庁舎に入る。

戻った将軍、ややっと驚愕。脱衣カゴに確かにあった、将軍の兜、鎧、剣にマント。装備の一式忽然と、姿を消して何処へやら。

まったく。

命知らずとはこの事だ!

アキレウスが、あきれウス。そうでなくとも勇猛果敢、冷酷非情で知られた鬼将軍。その装備を恐れ気もなく、盗んでのける者がいるとは!

相手はロマ一番の有名人。直ぐ、足がつく。そら見たことか。庁舎の前に。アキレウス将軍の兜に鎧、剣、マントを身につけて。風呂屋のせがれのエマーソンが。集まったペンギン相手に、おれはアキレウス将軍だと威張っておる。

オロカモノメッ!余が本物のアキレウスダッ!

聴くも恐ろしい鬼将軍の一喝。風呂屋のせがれの敵う訳もなく。ひぃっと飛び上がり、しょんぼり肩を落として小さく縮む。

ペンギンどもは、やや、これは不可思議。アキレウス将軍がお二人、おらっしゃる。右に左に、うろうろするが。

なるほど。こちらのはだかの将軍様は。大きく強くて偉そうで、いかにも本物であるらしい。

いやいや。こちらの兜に鎧、剣にマントを身につけた将軍様だって、胸にasicsとロゴマークが入っている。こちらもなかなか、本物らしい。

こっちか。否否、こっちか。ペンギンども、うろうろ移動を繰り返し。

このままでは埒が明かぬ。

結局この一件は、北町奉行所の大岡さまのお裁きに委ねることと相成った。


はだかの将軍と、エマーソン。二人でペンギンを引っ張り合い、勝った方が本物とする。

大岡さまのお裁きに、あぁ!?と不服の声を上げる二人。

否否、イッツアジョーク。ジャパニーズ、ダジャレである。襟を正し、お裁きを伝える大岡さま。

エマーソンは、今すぐ装備を将軍にお返ししなさい。

将軍は今すぐ、服を着なさい。

将軍様を侮辱したペンギンめ。打ち首じゃ。

さすがは大岡さま。この場を丸く収め、かつ、アキレウス将軍の面子も守る完璧な裁定。一同はほぅと、感嘆の声。


こうして。

ロマの都からペンギンは一匹もいなくなり。

歴史上稀に見る暴虐無頼の将軍として、アキレウスは後世にその悪名を遺した。

歴史とは。

かくも歪められ、伝えられてゆくものなのディスが。

古今東西を問わず。権力者に逆らうものは皆、然してこういう目に遭うものなのディエス。


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