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トゼンサウ  作者: ナルサワパン
セプテンバーの章

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では、ここで上原のピッチングフォームについて解説いたします。

9月10日


巨人はハンマーを抱え、座り続けていた。

眠っているのではなく、休んでいるのでもない。

ただ、座り続けていた。

かつて彼は、ウデの良い鍛治師であった。

そのハンマーで鉄を鍛え、人々に与える事が神から与えられた彼の仕事であった。

彼の鍛えた鉄は人々の生活を豊かにし、平穏の中で人々はその数を増やし、地に満ちていった。

やがて平穏は争いを生み、人々は互いに憎しみ合い、殺し合い、次々と死に絶えていった。

神は 、過った形で人々に鉄を与えた罰を巨人に与えた。

巨大な花崗岩の椅子に彼を座らせ、立ち上がること、ハンマーを振るうことを禁じた。

それ以来、ハンマーを抱えて座り続けることが彼の仕事となった。


一度、うっかりまどろんだ巨人がハンマーを手放してしまい、床に落ちたハンマーは大地震を発生させ、多くの人々が命を失った。

巨人はハンマーを二度と手放さぬよう、しっかりと抱き抱え、それだけを考えて座り続けた。

怯えた人々はやがて、次に巨人が立ち上がる時にはあのハンマーですべてが破壊される、この世の終わりが訪れると考えるようになった。

人々は巨人を、かつて彼の鍛えた鎖で厳重に椅子に縛り付けた。

巨人は座り続けた。

何故なら、それが彼に与えられた仕事であったから。


やがて時は経ち。

人々は長い間巨人の遺した鉄を使って生活していたが、次第に新しい鉄を欲しがるようになっていった。

あのハンマーだ。あのハンマーを使えば、新しい鉄を作る事が出来る。

人々は巨人のハンマーを巡って争いを始めた。

とても言葉で書き現せないような凄惨な戦いが続き、一人の少年が勝者となった。

少年は巨人の前に立ち、言った。

神よ、俺は勝った。俺にはそのハンマーを授かる権利がある。さあ、そのハンマーを与えよ。

巨人は少年にハンマーを与えた。

これでやっと、眠りにつける。

彼の仕事は終わった。

巨人は二度と覚めることのない深い深い眠りについた。


少年は人々のために鉄を鍛えた。

剣を、槍を、自動車を、飛行機を人々に与えた。

人々の生活は目覚ましい発展を遂げ、退屈した人々は他の生き物を殺すようになり、遂にはお互いさえ殺し合うようになった。

地は炎に覆われ、海は裂け、空が落ちてきた。

長く続いた戦の果てに、人々は滅んだ。


少年はただ一人、再び巨人の前に立つ。

「彼」は問う。

神よ、俺は何か間違えていたのか。

巨人はただ、静かに眠り続けている。

少年は怒りに燃え、ハンマーを撃ち降ろし、巨人を粉々に砕いた。

その衝撃で大地は震え、残る世界のすべては崩壊した。



またこいつら、ちっちゃくなりやがったなあ。

残った材料で新しい世界を創りながら、カミサマはぼやいておられます。

まったく。

なんだって毎回毎回、こうなるんだか。

カミサマは遥か遠く小さくなった世界を見下ろし、その中に、かつて自分の物であったハンマーを見つけ溜め息をつかれるのでした。


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