第224回 薄紅白、雲の絨毯
3月27日
くろい闇夜に、咲いた、しろ。
つかれ果てた旅人は。
ぼうと光る、しろのまえに足をとめ。
やあ、咲きましたね。
一夜の宿のとれる、民家のあかりで。
なかったのは、残念ながら。
白のはじく、やわらかい光に旅人は。
そんなことだけでも何故だか、すこし。
うれしくなって。
憂鬱のすこし、かるくなるような気がします。
しろという色は、それ自体は、かがやきませんが。
ほかの光を、しろにはじいて。
ぼうと、しずかに光ります。
お月さまなどが、そう。
それ自体のしろい、お月さまは。
闇夜にぼうと、ほかの星のひかりをはじいて。
いつもやさしく、光っています。
だからもし。
川辺の岸の、闇夜のなかに。
しろが咲いたら、気をつけなさい。
しろが咲いたら、お気をつけなさい。
しろはすべてを、はじく色。
うれしくなって。
ふわふわ近づき、のろうとしても。
雲にのれぬとおなじように。
受けとめてなどは、もらえません。
闇のくらい、水の底へ。
つきぬけて。
深くしずんで、しまいます。
きょうはまだ、川辺の岸には。
しろは咲いてはおりません。
つかれ果てた旅人は。
そういう意味では、まだ運がある。
川辺の岸を海へとむかって。
とぼとぼくだって、ゆくのみです。