第222回 魔王再臨
3月25日
むかしむかし。
魔界の大悪魔。
魔王・モルァスさまは。
ジパンという国をおとずれた際、したたかな坊主にまんまとだまされ。
六畳の庵に封印されて、しまいましたが。
それから、幾星霜。
六畳の庵ではすることもなく。
だらだら寝ていたモルァスさまは。
ふむ。
さすがに寝すぎたわい。
ようやくおきる気に、なりました。
モルァスさまの寝ていた、幾星霜のうちに。
世の中はすっかり、進歩して。
六畳の庵は、1Kのアパートに。
いつのまにか、かわっています。
とりあえず、トイレット。
モルァスさまはふらふらと、トイレットにむかいます。
ほう。
おなじ屋根のなかに、トイレットがあるか。
余の寝るまえは、厠といって。
別に離を、つくったものだが。
モルァスさまは素直に、おろかな人間どもの社会の進歩に感心します。
幾星霜分の用を足し、魔法で便器のレバーをひねって水をながすモルァスさま。
さすがは魔界の大悪魔。
魔法で、なんでもできます。
さて。
おきたはよいが。
とりあえず、コーヒー。
魔王たるもの。
どんな状況でも、朝のコーヒーはかかせません。
エレガントたれ。
どうやら、これがポットじゃの。
モルァスさまは魔法で電気ポットのコンセントをつなぎ、お湯をわかします。
さすがは魔界の大悪魔。
魔法で、なんでもできます。
コーヒーをいれるくらい、文字どおりのお茶の子さいさいです。
さて。
コーヒーの入ったモルァスさまは。
ようやくさえてきた頭で。
きょうの予定を、かんがえますが。
さて。
どうしたものか。
とりあえず、インターネットという機械をつかって、魔法で現代の情報をあつめます。
さすがは魔界の大悪魔。
魔法で、なんでもできます。
ほう。
ストリートビュー。
ライブカメラ。
便利な世の中に、なったものじゃの。
モルァスさまは素直に、下等な人間どもの社会の進歩に感心します。
スマホの画面の中の、外の世界は。
無機質な銀色ばかりが。
ウィーガシャ。
ウィーガシャ。
ピポ?
ピポオ。
キュイ。
人間の果てしない欲望をみたすためだけに、いそがしくはたらいています。
はたらくひつようのなくなった人間どもは。
堕落して。
ひきこもってばかり、いやがります。
おい。
おまえたち。
なにか、望みはないのか。
魂とひきかえに。
なんでも、かなえてあげちゃうぞ。
いまなら、洗剤もつけちゃうぞ。
モルァスさまは、画面の中の。
外の世界によびかけますが。
ウィーガシャ。
ウィーガシャ。
ピポ?
ピポオ。
ハッシャシマス。
無機質な銀色どもは、ただ。
人間の果てしない欲望をみたすためだけに、いそがしくはたらきつづけているだけです。
つまらない世の中に、なったものじゃの。
モルァスさまはそっと、魔法でスマホの画面をとじます。
余がこうして、もんだいなく。
魔法をつかえると、云うことは、だ。
小さくため息をついた、モルァスさまは。
あの坊主、もう、生きてはおるまいな。
くだんのしたたかな坊主の顔を、なぜだかとてもなつかしく。
思い出すのでありました。