足利将軍と飛翔体
8月27日
いきなり、謝られたもので。
間違えたのかな。
たしかに今朝のぼくはうまくいかなくてイライラ歩いていたし、髪もしっかりセットしていたから、えらい人に見えたのかもしれない。
えらい人というのは、いつもイライラ歩いていて、髪もしっかりセットしているものだからね。
だからといって、ぼくがえらいわけではありません。
人間、謙虚な気持ちが大切ですね。
ぼくが謙虚に会釈を返すと、おじさんは恐縮して。
頭が高いと思ったのか、地面に伏せてしまいました。
なんだろうこれは。
ぼくは別に、足利将軍ではないんだぞ。
そんなに工事をしているのが申し訳ないのだろうか。
ダンプが止まっているからってぼくは怒ったりしないぞ、徒歩だしね。
だいたいこのあたりは始終、工事ばかりしていて。
あちらでもこちらでも、やたらと古い家が取り壊されて、建て替えされている。
あれだ、みんな騙されているんだ。
この家はもう、シロアリがクサレてヒアリになっているから危険ですね、とか、眼鏡の人に言われて。
悪いやつがいるんだな、眼鏡は悪いやつだ。
そんなわけだから、工事なんて別に珍しくもない。
ダンプはちょっと珍しいが。
ぼくはどうして、ダンプだの、クレーンだの、ああいうものが好きなのだ。
見ていると、つい、わくわくしてしまう。
だからそんなに、恐縮することないのに。
ぼくが足利将軍なら、苦しうない面をあげいと言葉をかけてあげるところだ。
あまりにおじさんの顔色が悪いので、
そこまで恐縮されると、なんだか悪いことをしているみたいだな。
なんだ、ぼくが歩行していることがそんなに悪いことか。
ぼくが歩いていることに、なにか文句でもあるのか?
むかついたので、ぼくはミサイルを発射してやりました。
おじさんは伏せているから大丈夫だろう、あたらない。