Ex. [第100回記念特別稿 ] 京の都に百鬼、夜を行く。
夜に唄を唄っては、ならない。
唄は夜の闇に何処までも、響き。その深淵から魔なる者達を呼び集める。
古来、唄とは、唱い。
言葉は節に乗ることで術となり、この世の理から外れた者たちへ働きかける、力を得る。
夜に唄を唄っては、ならない。
京の都の朱雀大路。宵闇に一人行くのは江戸から来た旅のサムライ。
ナンジャモンジャエモンである。
東国出身のモンジャエモン、一人旅の途上で辿り着いた、京の都。見るもの珍しく、聞くもの面白く。
ついつい、食べ、呑み、遊び。夜の都を回るうち、すっかり暮れた、夜の闇。
―さて。宿は、どちらであったか、のう。
ほろ酔い加減のモンジャエモン、上機嫌な足取りで。格子の通りを、練り歩く。
流行りの店から、流行りの唄が。三味に乗って、サノヨイヨイ。
浮かれ気分のモンジャエモン、こちらも合わせて、サノヨイヨイ。
夜の闇に、朗々と。声高々に、響く唄声。
やがて。モンジャエモンの背後に、蛇や蜥蜴や、機械人形。南蛮渡来のきゃべつなど、唄に呼ばれし、闇に属する妖し共が。
一ツ、二ツと集まって、列を作りて、練り歩く。
そうとは気付かず、モンジャエモン。驚き逃げる、猫殿に。
―や。やあやあ猫殿、驚かしてすまぬ。
礼を失せぬ、この振る舞い。酔っても武士は、武士であれ。
威風堂々、歩を進む。
都の通りに響く跫音、ぺたぺた。ぎしぎし。ずるずる。
流れる唄の中を、ぺたぺた。ぎしぎし。ずるずる。
やがて、暁。朝陽は昇りて。
―や、これは、面妖な。
振り返れば、己の来た途。ただ、多数に遺る、異形の足跡。
足許には、きゃべつが、一ツ。
陽のある内には歩けぬ其れを、拾い上げ。
不思議と見詰めるモンジャエモン、朝陽の中で、欠伸を一ツ。