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凍りの病

作者: 四路

初投稿作です。

誤字・脱字がありましたら報告して下さると嬉しいです。


私は、治る事のない病を抱えている。


病といえば、語弊があるかも知れない。

これはきっとただの特異体質で、病なんて理由のあるものでは、多分ないのだ。

それでも病としていた方が私的には楽だし、周りも、「ああ、なら仕方ないね」で済ませてくれるだろうから、病だと思い込んでいる。


そんな私は、今日で15になる。

いつもは病の所為で部屋の外に出られない私も、今日ばかりは、屋敷の中だとは言え外に出られる。

こう言っている今だって、屋敷の大広間で開催されている、私の誕生日を祝う夜会に参加していた。

ついでに言うと、この夜会は私の社交界デビューも兼ねている。

ん?ああ、屋敷とは、どういう事かだって?

それは、私がこのソロニスローンズ王国の宰相であるアルジェス・セラフィア侯爵の娘だから、王城には劣るものの、城の様な大きさの屋敷に住んでいるだけの事だ。


声をかけてくる人々に、愛想笑いを浮かべてご挨拶。

少し疲れてきたが、まあ、辛抱しよう。



「シャーロット・セラフィア侯爵令嬢!君は自らの権威に溺れ、自らより爵位の低い令嬢に謂れのない罵倒を繰り返したり物を壊したり、果ては階段から突き落とし、殺害を試みたそうだな!」


金髪碧眼、容姿端麗な私と同じ歳の男が、そう叫ぶ。

シャーロットとは、私の名である。

しかし、彼が読み上げた内容には、一切心当たりがない。

今までずっと病で療養してきたのに、どうしてそんな事ができると言うのだろうか。

というか、あの男、誰?


「よって、王妃となるには相応しくないとして、君と私――シャーロット・セラフィアと、ラインハルト・ソロニスローンズの婚約を破棄する!」


ああ、彼はラインハルト・ソロニスローンズという名なのか。

ソロニスローンズ。

王国の名が苗字にある事からして、彼はきっと王子か王太子なのだろう。

王と言うには、少し若過ぎる。

……って、待て、婚約?


「婚約など、貴方とした覚えがありませんが」


ぎょっとして、思わずそう言ってしまった。


「は?」


ラインハルト殿下が、そう聞き返す。

あまり乗り気ではないが、説明しよう。


「私は自らの病の所為で、ずっと部屋にこもっていました。なので、婚約などした覚えがありません」

「一体、どういう……」


もう一度私に訊ねようと、ラインハルト殿下が口を開こうとした時、会場の扉が開いた。

扉の外には、貴族から見ても豪奢な衣服に身を包んだ男。

何処か、殺気立っている。


「ラインハルト、一体何を?」


男が威圧たっぷりにそう問うと、しどろもどろになりながらラインハルト殿下は、私に言った事を、言い回しを変えながら説明する。


「しかしだな、ラインハルト。シャーロット嬢は部屋から出られなかった為そんな事はできはしないし、そもお前と彼女は婚約すらしていない」

「う、嘘だ!」

「嘘でない」


やれやれと肩を竦める男に、それを睨みつけるラインハルト殿下。

何とも不思議な光景だ。


「なあ、リリアーナ!君はこの女に嫌がらせを受けていたのだろう!?なあ!」


ラインハルト殿下は、人の多い所に片っ端から話しかけに行って、リリアーナという女性を探す。

しかし。


「見つからない……?」


捨てられたのである、と私や観客は悟った。

そんな捨てられたラインハルト殿下は、何を思ったか私に向かって、怒りをぶつけてきた。


「お前がっ、お前の所為だ!お前がぁ、ぁぁ、ぁぁああっ!」


料理を切り分ける為のナイフを手に取り、ラインハルト殿下は私へ向かって走る。

その激情に対して、腹を空かせた私の病が反応する。

まるで雪の降り始めの時期の様に、辺りがひやりと寒くなって(・・・・・)いく。

ちなみに、今は真夏である。


「っ、う、ぁ?」


血の気の引いた顔をして、寒さに震える身体を暖めようとしたのか、ラインハルト殿下はしゃがみ込んだ。

がたがたと歯の根が合わないまま、こちらを睨んでくる様は、酷く滑稽で笑いさえ誘う。

笑みを溢さない様に気を付けながら、私は言った。

関係のない、多くの人と同じ様に。


「ああ、寒いですね。何ででしょう。まるで冬みたいな寒さです……」


何も知らない風を装って呟けば、きっと誰も私がやったとは思えないだろう。

私の病が原因だが、この病を止める手立ては、今の所ないのが実情だ。

ただ、私がそのまま、もしくは向きを変えれば視認できるだろう範囲であまりにも強い、怒りや悲しみ、憎悪などの負の感情さえ抱かなければ、この病の餌食になる事はないので、私が部屋にこもっていれば何の不安もないのである。


――この病の餌食になった者の行き着く先は、凍死だ。


寒さに震えるラインハルト殿下を見ながら、私は少し罪悪感を抱いた。

設定を、こそっと。


シャーロット・セラフィア

侯爵令嬢。

強い負の感情を持つ者を凍死させる体質を持つ。

本人はあまりこの体質をよく思っていないが、凍死しかけの人間を見て愉快に思う、などと狂人としての素質を持っている。

また、体質からか彼女が強い負の感情を抱く事はない。


リリアーナ

男爵令嬢。

将来の重鎮を篭絡し、栄光を夢見る少女。

我儘で傲慢。


ラインハルト殿下

この国の第一王子。

中々リリアーナに靡かなかった所為で、違法な薬物により操られる事になり、その薬物の所為でシャーロットの体質の餌食になった。

この作中で最も可哀想な人。


豪奢な服を着た男

公爵であり、王弟。

王より最近ラインハルトが可笑しいという報告を受けて、夜会に乗り込んだ。

元は可愛い甥だったので、強い悲しみを抱き、その後すぐシャーロットの体質の餌食となった。

可哀想な人その2。

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